第56話
男の子は辺りに横たわる者たちを指し、彼らはあの砦にいた者たちか、と問えば男はそれを肯定し、かつそれらをなんと不幸な者たちであるかと形容する。
包帯の男の口ぶりに、男の子は微かな疑問が浮かび上がる。まるで死んでしまったほうが幸福であると言いたげではないか、と投げ掛けると彼はまた肯定し、憐憫の声でその面持ちを語る。
曰く、この場に遺されし者たちは苦しんでいる。友を、家を、家族を、命以外の全てを無くし、今はただ肉の痛みを、生の苦しみ噛み締めている。世は絶望に満ちてしまった。辛いだけの生はたくさんだ。物言わぬ屍と化せばどれ程良いかとさえ思える程だ。もはや、死こそ救いだ、と。
死こそが救い。ふいに、男の子の脳裏に甦るものがあった。燃え盛る炎の中、冷たい氷となった瞳、今際の時の穏やかな表情。
そして、ごく最近のこと。噴血の魔獣目掛けた一射。苦悶を終わらせてやるという慈悲。無様にのたうち回る位ならば、いっそ一思いに死なせてやる。その時はそれが正しい選択であったと確信していた。
しかし、今思い返してみればそれは違うと彼は強く思った。直後、沸き上がる感情と共に眩暈が襲い掛かる。冗談ではない、という強い否定、そして苦しそうだったから介錯してやった、などという自分に対する怒りだった。そんなものは傲慢極まりない。そのような救いがあってたまるものか、と激怒しこう言った。
曰く、自分の友は以前教えてくれた。命有る限り死からは逃れられない。故に、どれ程過酷な運命であろうと、生きて、生き続け、最期に命の答えを得なくてはならぬのだ。死が救いであるのなら、我々が生きている意味などない。そのような甲斐のない理屈など、決して認めてなるものか、と。
自己への怒りと共に立ち上がり、枕許に纏めて置かれていた自分の武具を身に付けると、軋む身体の声を無視し、テントを出るのであった。




