55/89
第54話
選べ、と声は告げる。ひとつは穏やかなる道。激しい悦びも、想像を絶する苦痛もない。此れをつまらないと嗤うか、しかして存外、悪いものではない。ヒトらしい、暖かな最期だ。
もうひとつの道は、貴殿にこの上無き万雷の喝采を与えるだろう。人を救い、善を成し続け、遂には英雄として最高の誉れを授かるだろう。
だが、その場所へ至り、そして生を終えるまでに、途方もない絶望を幾度も味わうことになる。煉獄すらぬるま湯同然であろう、血塗られた道だ。
男の子を試すような物言いをする掠れた声に、彼は答えを示すために一歩踏み出す。迷いのない足取りは重く、しかし力強く踏み締めた一歩を積み重ね、赤黒い泥濘ぬかるみの道を歩く。
後悔はないか。掠れた声は先程とは違い、行く先を案ずる親のような、または溜め息と共に心底呆れ果てたような口調で問う。
男の子は振り向くことなく、ただ首を左右に振る。これ以上の問答は必要ないと言いたげに。
それきり、男の子は歩を緩めずに泥濘む道を駆け出し、立ちはだかる荒野を行く。影法師はそんな彼の後ろ姿を、ただただ憐れみの目で見守り続けた。




