第44話
男の子は総毛立った。記憶の奥にしまい込み、久しく忘れていた感覚が蘇る。込み上げる途方もない頭痛と吐き気に正気を失いかけ、眩暈に膝を崩す。
彼が悶える最中にも灯火がひとつ、またひとつといとも簡単に吹き消されていく。こんなことは許せない。怒りに我を取り戻し、捩れる身体を奮い立たせ、双眸を見開き、肺にありったけの息を吸い込み、喉を震わせる。
そこまでだ。戦いをやめたまえ。無益な血を流すな。繰返し何度も、喉が潰れかけるまで叫び続ける。そんな男の子を嘲笑うかのように、矢が彼を目掛け飛来する。矢は脳天を射る寸前のところで素手で掴み止められる。
男の子は怒りを秘めて矢を全力で射られた方へ投擲し、それは彼に放った赤い鎧の兵士へと命中し、甲冑ごと胴は真っぷたつとなり地面に落ちる。
赤の兵士達は男の子を脅威に思い、彼を仕留めんと崩壊した砦の内から一斉に矢を雨のように降らす。
しかし、当の男の子からすれば注がれる矢の大群など児戯に等しいと言わんばかりに、針の穴を縫うようにそのすべてを潜り抜け、あっと言う間に穴の空いた砦に進入し、兵達の懐へ潜り込む。
菫色の魔槍は男の子の怒りを体現するように、間合いに入った敵の一番血が詰まった箇所を手当たり次第に、かつ正確に刺が穿ち絶叫させると、そこから命を絞り尽くす。
おぞましい光景に恐怖し、声を上げて逃げ惑う赤の兵達も、一切の例外なく槍は胸を貫いて喰らい、その度に刺はたくさんの栄養を得た植物のように色艶を増していく。




