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第35話

少女の姿を取る化生の突然の求婚に動揺を露にする男の子を正気に戻すため、燕尾服は平手打ちを見舞う。


気を取り直した男の子の袖を引き、燕尾服は部屋をあとにする。素早く廊下に出るや否や、黄金の城を駆け抜けてゆく。


曲がり角から兵士が押し寄せるのを見ると、燕尾服は食事の席からかくすねてきた様子のナイフを取りだし投擲する。


ナイフは風を切り兵士のひとりの膝を貫き、痛みでよろけた隙を逃さず、それを踏み台にし突破する。


兵士達を退けつつの逃走劇のなか、ふたりは武器庫とおぼしき場所に逃げ込むこととなった。


一息をつくと、男の子は燕尾服の顔を向き、礼の一言を述べる。助かった。貴方がいなければ自分はあの女王の傀儡に成り果てていたかもしれない、と。燕尾服はそれに対し、礼には及ばない、とだけ告げる。


なにか使えるものがないか、と男の子が物色する間も無く、ふたりの気配を嗅ぎ付けた兵士達が押し寄せる。


男の子は直感的に手近な場所で転がっていた武器を取り、構える。それは身の丈程ある大きさを誇る白塗りの弓と、それに番つがえる小槍程の長さの矢であった。


兵士達は嘲笑する。その弓は大の男ですら一人では引くことも叶わぬ強張りの弓。ましてや年端もいかぬ小僧になど万にひとつもない、と。


しかし男の子は矢を番えると、難なく弦を限界まで引き絞り、放つ。射ち出された矢は群がる兵士を人形のように蹴散らし、城の壁を粉砕し大穴を開くに至る。


弓の力にいたく感心した様子の男の子は、弦を肩に掛けて拝借することを決意する。騒ぎを聞きつけたであろう足音が大きくなるのを感じたふたりは城に開けられた穴の向こう側を見る。


目の前に広がるのは地平線の先までの青であり、つま先より前は断崖絶壁という光景が映るのだった。


左右を向けば屈強な兵士達が犇めき合う形相であり、退路と呼べるものは目の前の大穴だけであった。覚悟を決めた様子のふたりは、荒々しく波が重なる青に向かい、雄たけびとともに飛び込むのだった。

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