第34話
奸計の最中にいたことに男の子が驚く間も無く、騒ぎを聞きつけた兵達が武器を手にして部屋に押し寄せる。
くせ者たるふたりに兵の一人が間髪入れずに襲いかかる。男の子は歯噛みしつつも先程まで腰掛けていた椅子を掴み、兵の側頭部めがけて振り回す。
木製の椅子は兵の意識を一撃のもとに奪う代償にばらばらに砕けてしまう。男の子は倒した兵士の腰に下げていた剣を鞘ごとふんだくると、刃を抜かずそのまま押し寄せる兵士達を迎え討つ。
ある者には剣戟で倒し、ある者は拳で殴り倒し、またある者は蹴り飛ばすの猛攻で瞬く間にすべて叩き伏せるのだった。
その一部始終を目にしていた赤の女王は一層の昂りを感じており、さながら発情期の獣とでも言うべき有様である。
得体の知れない女王の様子に、男の子身の毛がよだち、剣を構える。女王のほうはそれとは反対に、実に無防備で、甘い吐息を漏らしながら席を立つ。
そして彼女はまるで恋する乙女か、或いは妖艶な娼婦のように、男の子に向け言い放つ。
曰く、わたくしは確信した。貴方こそ王に相応しい。赤の国の婿になりたまえ、と。
絶句。男の子の脳内を渦巻くものは様々であった。恐怖、嫌悪、誘惑。それらを鍋でごった煮にされたように頭は混乱し、紡ぐべき言葉は行方知れずとなる。
少女、の姿をした化生は言う。強者こそ、この国に必要なもの。仇なすものの返り血で化粧をし、敗者の骨と肉で玉座をつくる。強者こそ支配し、ルールを築くことが許される。
故に欲する。強者、強い男を。自らが強い必要などない。力を男から搾り取ればよい。寵愛を受ければよい。だって、わたくしは美しいのだから。
琥珀色の瞳の奥から、微かな狂気を覗き見た男の子は背筋を冷やす。燕尾服も同様で、グリザイユの仮面の裏は険しさをより一層強めていた。




