第33話
招かれるままに、男の子は燕尾服と共に赤の女王が座する居城へと足を運ぶ。魔女が君臨していた荘厳な古城とは大層趣が異なり、その姿は貴族達の権力の象徴であるかのような、財という財を尽くした黄金の城であった。
そびえ立つ黄金城の内部もまたきらびやかであり、凝視すれば目の光すら吸い取られる錯覚に襲われるようであった。
男の子と燕尾服のふたりは城の召し使いに案内されるまま歩み続けると、縦に長いテーブルの上に晩餐の用意がされた部屋に着く。
テーブルの上座には桃色の髪を掻き上げる所作をする赤の女王が佇み、口元には妖しい笑みを浮かべていた。
赤の女王は言う。さあ召し上がれ、遠慮は要りません、と。その口ぶりは、まるで十年来の友に向けるように親しげで、また愛する我が子に馳走するように柔らかであった。
男の子は訝しむ。異邦人の自分達に向けるものとはいえぬその微笑みに眉をひそめる。
しかしも、女王の柔らかな声を耳にする度に彼の頭はしびれを覚え、またたぎる食欲には逆らい難く、食前の礼をそこそこに食器を手にし料理を口にしようとする。
しかし、そこで幾重にも皿の割れる音が部屋中に響き渡る。燕尾服がテーブルの上のご馳走を悉くを床にぶちまけたのだ。
男の子は食物を粗末にしたことを見るや否や、貴様何事か、と激怒し燕尾服の襟元を掴み上げる。
燕尾服は掴みかかる万力のような腕を払いのけると、床に転がっていた食器、フォークを拾い上げると、それを風よりも速くテーブルの上座に着く赤の女王に向け投げつける。
矢のごとく一直線に女王に襲いかかるフォークは的を射抜くことはなく、彼女の眼前でぴたりと停止したかと思えば、内から弾けるように粉々になるのだった。
明確な害意を向けられた女王に怒る様子はなく、むしろ沸き上がる興奮に蕩けたような顔を浮かべており、目にした男の子は思わず身構えた。
いつ気づいた、と女王は言う。臭いでわかる、と燕尾服は答える。毒、或いは類する得体の知れぬモノならば私に看破できぬ道理はない、と続ける。
残念。一口するだけでわたくしの虜になる秘薬を盛らせていただきましたのに。業腹ですが、誉めねばなりません、という。
誉め称える女王の顔は非常に昂り恍惚の表情を浮かべ、燕尾服は仮面の裏で嫌悪を滲ませる。




