第32話
死屍累々の兵達を見ていた彼らに向けどこからか、お見事、という賞賛が届けられる。ふたりが振り向くと、赤い重厚な鎧を纏う兵を複数侍らせた一人の若い女性─よもすれば少女とも見える人物が不敵な笑みを浮かべていた。
色鮮やかな桃色の髪を風になびかせる少女は、一見すると実に愛らしい上流階級の人物であるが、同時に周囲へと垂れ流す気配は成人に満たぬ少女のそれとは大きく剥離しており、さすれば淫靡なる魔性とでも言うべきものか。
男の子の目には虫も殺せぬ美しい少女ではなく、人の精を食い物にする悪魔か、或いはそれに準ずる怪物の姿が映る。
輝かしい琥珀色の瞳の奥に秘めたものは伺い知れず、未知という恐怖に男の子らは固唾を飲む。
男の子らの反応を見ていた桃色の少女は、愛らしさを絵に描いたような笑顔を見せながら一歩、また一歩と歩み寄る。足取りはまるで花畑を行くように。
突然の無礼、お許しを。わたくしは、赤の国を統べる女王であります、と。
女王、この国の頂点。自分と然程違わぬ年齢に見える少女が、戦乱の国を統べる王であることに、男の子は僅かに驚きを見せる。
唾を呑む彼の心持ちを知ってか知らずか、女王を名乗る少女はドレスの裾をつかみ礼をし、その優雅な所作から自らを特権階級、王族の人物であると無言で伝える。
ふと、一瞬の間だけ山のように積まれた兵達を流し目で見ると、それを築き上げた男の子に微笑みかけながら言う。
見たところ、貴方は卓越した武芸をお持ちのご様子。よろしければ、晩餐のおもてなしをさせていただきたく存じます。
赤の女王はそう告げると、兵達を挙動ひとつで木偶人形のように道を空けさせる。男の子には彼女の話す異国の言葉については、雪の居城での勉学の成果で最低限理解しており、肯定の意図を伝える。
同時に、男の子は刹那の内に思案を重ねる。彼には時間が無い。魔女の試練を完了させる為にはどうするべきか、何が必要なのか、自分は何もわかっていないのだと。




