第30話
机の上の書物を一先ず隅にまとめ、そこへ次々に香り高い一品の数々が置かれていく。一皿一皿、どれも男の子にとって目にしたコトも、まして口にしたコトすらない宝石のように輝かしい馳走であった。
そのなかで男の子はふと気になるものを見つける。輝く陶器や銀でできた皿や、硝子が透き通るほどの透明さを誇るグラスのなかに一つだけ見慣れぬモノがあった。
男の子は食器というものをよくは知らない。彼が帝国という新しい世界に足を踏み入れるまでは三つ叉のフォークや丸い匙が金属で出来ているものがあることすら知らなかったのである。
しかし彼に渡されたモノは、フォークやスプーンでもない、木を素材として作られた細長い二本の棒であった。男の子はこの食器であろうモノを目にし、首を傾げた。
先は尖ってはおり、串であるのかと最初に考えられた。けれども、それでは皿に盛られた米料理を掬うことは匙のようにはいかず、かといって先端は別れておらずフォークのような使い方も難しい。
男の子は困惑を覚えた。これで皿に盛られた料理を食せ、という意図のみ理解していた。しかし扱い方がてんで思い付かず、途方にくれるのみであった。
どうするべきなのか、と棒を手に取り思案していると、燕尾服は男の子に棒を二本、筆を握るように扱うのだと提言し、実演も兼ねて説明する。
言われた通りに男の子は二本の棒を扱ってみたところ、ぎこちなさを残しつつも料理を掴み、口に運ぶことに成功する。
口内で舌を使い料理の味を確かめる。男の子にとってははじめての味わいであり、帝国の料理とは異なる調理法、ひいてはここに至るまでの文化が違うものであるのだと味覚を通して理解するのだった。
今自分が手にしている食器の扱い方も、実際にそう使うのだと言われてはじめて思い至るコトを身をもって理解する。
ふと、彼の脳裏に隻眼の導師の言葉を思い出す。この姿は仮初のものであり、真の姿を取り戻せば万の軍勢すら塵芥に等しい。
男の子がかつて森を腐らす悪魔と相対した際、その折用いた宝剣が投槍としての力も兼ね備えていたことも思い出し、導師から授かりし魔槍もまた一瞥したのみでは推し測れぬ、異なる用途があるのだ、という結論が導き出される。




