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第25話

瞬き程の間であった。男の子が気がつく頃には既に周囲の風景は一枚の絵ではなく、深々と綿雪が降り積もる山林に、そこにそびえ立つ巨城であった。


男の子はその見慣れぬ雪を深く踏み込んだ際の感覚にどこか揺さぶられるものを汲み取ると、特に意味もなく結晶でできた綿を足で玩び、地上に降りてきた雲のような純白に身体を預ける。


身体は大きく沈み込み、至るところの熱がゆるりと下がっていく。まるで冷たい羽毛の絨毯の上に寝転がるようであった。


暫く初めての白雪に酔いしれると、男の子はあらためて壁を足下と同様に塗り立てられた城に足を運ぶ。巨城をぐるりと一回りすると、銀狼の紋章が刻まれた正門を見つけるのだった。


男の子は熱を感じられぬ空気を胸が張りつめる程吸い込み、角笛のような声を城の主に向け言い放つ。


混血の魔女よ、故あって貴様の力を借りたく馳せ参じた。謁見を申し立てたく存じる。門を開けていただきたい。


男の子の声が山林に鳴り響くと、ふいに降りしきる綿雪に紛れ、それとは違うなにかが純白の絨毯に刺さるのである。何事かと構えれば、ゆったりと舞い散る綿を裂き、それと同じ色彩を持つ矢の雨霰が降り注いでいくのだ。


男の子は隻眼の青年から授かりし菫色の魔槍を振り回し、棘の穂先で降りしきる矢の豪雪を、足下を一点の赤で染めること無くその悉くを打ち払う。


暫くして雨が止むと、男の子の足下を除く周囲に砕かれた矢の残骸が山として築かれており、それを見届けたのであろう城の主は彼に語りかける。


見事だ、若者よ。突然の無礼、許せ。この雪山は寒かろう、城へ入るといい。


天上の囀り、とでも言えようか。古城から響く、威厳と清廉さを兼ね備えた声とともに固く閉ざされた門が男の子を迎い入れんとゆっくりと開かれてゆく。


男の子の足取りに迷いはなかった。冷たい息吹に乗り、次第に激しさを増しつつある(みぞれ)を振り払いながら、白亜の古城へと足を踏み入れるのであった。

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