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第24話

男の子は目を疑った。行き交う人々はおろか、崩れる書類の山に青空に漂うちぎれ雲すら、ぴたりとその動きを止めていた。


まるで自分が一枚の絵の中に迷いこんだのでは、と錯覚する光景に男の子は息を呑んでいると、この光景を生み出した青年は愉快な口調で語りかける。


曰く、私は今し方秘術を用いて一月の間はこの帝都を一枚の絵に留めた、と。時間が止まっているのに一月の間とは奇妙だが、とかくその間に蔓延る疫病を癒す術を成せ、とも。


どうすればよい、と男の子が問う。すると青年は一節にも満たない詠唱を行うと、男の子の身なりを一変させ、紺色の外套と翠色の沓を纏わせた。


曰く、これから先、君に降り掛かるであろう苦難への手助けとして餞別を送ろう、と。


驚く男の子だったが、それを尻目に青年はまたごく短い詠唱により、虚空からふたつの輝ける秘宝を取り出し彼に授ける。


ひとつは月の光よりもまばゆき瑠璃をはめ込んだ腕輪。もうひとつは棘の如く鋭い刺が幾重にも捻れ狂い刃となった穂先を持つ菫色の魔槍であった。


青年が言うに、腕輪は私と君を繋ぐ縁を形あるものとして行使できるものである。菫色の魔槍はこれ自体は仮初の姿であり、真の姿取り戻すことがあれば万の軍勢すら塵芥にも満たぬ、と。


何から何まで世話を焼く青年に、男の子は何故自分などに施しを与えるのか、と問う。青年は静止した帝都を指しこう答えた。


この絵を見てどう思うか。私は思う。実に醜い。自らの事のみを守ることしか考えぬ愚者の宴である。見るに耐えん。しかして君は違う。高潔な精神と魂だ。それが強い肉体に宿っている。故に君は歴史に名を残すだろう。私はその手伝いをしたい、と。


それを耳にし、男の子は授かり物に感謝をし、その心は善性でありながらも、やはり青年と自分には交わるものなどなにもないのだろうと、この短い間に確信した。


準備を万端にし、あらためて青年は疫病を祓う術を伝える。曰く、これから腕輪を介し魔術を行使することで、帝都から北にある雪山に君を送ろう。そしてその地に城を構える神々の末裔たる混血の魔女の力を借りるのだ、と。


男の子が首を縦に振り了解する姿を見届けると、青年は三度詠唱を行う。すると、何もなかった空間に割れ、歪みが生じた。


青年は言う。魔女の城へと続く道は開かれた。勇者の行末に幸あれ、と。


男の子は青年に感謝を述べると、怖れなくその身体を歪みへと飛び込ませるのであった。

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