第23話
そんな現状に歯がゆさを感じていたある日のことだった。男の子に面会を申し出たいという、ひとりの見知らぬ青年が地下牢に現れた。こんにちは、と挨拶を交わすその声は吹き抜ける涼風のように爽やかであった。
青年は目元を隠す程の長い白髪にみすぼらしい身なり、脚が不自由な素振りもないが木で出来た杖を付いており、男の子もやはりその風貌に心当たりはなかった。
ただ、かつての男の子と似たような格好をしているのにも関わらず、その姿からは自分と重なるものは何一つ無い、と理由はわからぬがそういった感想を抱くのであった。
青年が語ることによると、昔取っていた弟子に久方振りに会いに行けば、ずいぶんと沈んだ顔だったものでどうしたのだと尋ねれば、恩人の少年が帝国を統べる皇に口答えをし捕らえられたと言うものだから、どんな者かとこうして出向いたのだ、という。
男の子がよく見ると、青年の片側の瞼には眼球の代わりに文字らしきものが刻まれた義眼がはめ込まれていることに気がつく。
ふと、彼の記憶から呼び起こされるものがあった。以前赤髪の騎士が語った、自らに魔術の叡智の一端を授けた隻眼の導師。目の前の青年がそうであるのか、と尋ねる。
そうだとも、と青年は自慢げに語る。曰く、彼女は実に清廉な魂を持ち、私の次くらいには魔術の才に恵まれた者だと。
男の子は青年の語り口に、自惚れとも違う違和感を覚え首をかしげる。貴方は年若いように見えて、その実愉快な老人とも見える、と男の子は青年に向け言う。
すると、青年はなにかがツボに入ったとでも言いたげに笑い声を上げた。それは男の子に対する嘲笑などではなく、むしろ賞賛の笑みであった。
気に入った、と青年は言うと杖を床に突き刺した思えば、その口からは男の子にはわからない、言霊を旋律のように美しく紡いでいく。
時間にして二秒程であった。青年がその旋律を詠み終えると、ふいに男の子は違和感を覚えた。
理由はすぐに判明した。面会の様子を監視していた兵が、まるで彫刻のようにその場にぴたりと停止していたのだ。
青年は失礼、と軽い調子で停止した兵の腰に下げていた鍵をくすねると、男の子が収監されていた牢を開く。
いったいなにをした、と強い口調で男の子は青年に問う。青年のほうは、付いてくればわかる、とだけ述べ地下牢の区画を跡にしようとする。男の子のほうも、隻眼の導師がなにを考えているのか知るべくその後を追った。




