第19話
一気呵成に突入すると、そこにひとつの影が悠然と佇んでいた。紫のローブに、そこから見え隠れする醜悪な顔持ち、妖しい雰囲気を漂わす幾重の髑髏で繋がれた装飾品という、不気味さが服を着て歩いているという言葉がそのまま当てはまる悪魔だった。
手にした宝剣が陽炎にあって刃が煌めくなか、勇者の少年は相対する悪魔の頭蓋向けて一目散に跳躍とともに斬撃を降り下ろす。
次の瞬間には肉体を縦から両断されたローブの悪魔が横たわる。そのはずであった。
だが彼の手には命を壊した感触は無く、その代わりに残されたのは剣同士が刃を鬩ぎ合い火花を散らすものだった。
男の子は僅かの間に疑問がいくつも脳裏を駆け抜けてゆく。なぜ剣が悪魔に届いていない。というより、この者はいったいなんだというのだ。
刹那程の間であったが、生じた疑問が結果的に男の子の動きを鈍らせた。突如間に割って入った銅の剣によって力任せに弾き返され、勇者はやむなく間合いを取るべく後ずさり、あらためて眼前に飛び込んできたモノに素早く意識を集中させる。
ひび割れ、傷だらけになった騎士の鎧兜。かつて青銅を思わせるであろう輝きはそこに無く、代わりに男の子の鼻をねじ曲げる程の腐臭を撒き散らす、この世の闇を凝縮したかのような障気を纏っていた。
この鎧の騎士はただ者ではない。頭だけではなく身体もそれをくみ取り、自然と剣を握る力が強くなる。そして一呼吸の後、互いに一歩の跳躍とともに間を目と鼻の先ほどまでに詰め寄り、剣戟を重ねる。
刃と刃がぶつかる度、鈍い鉄の音とともに火花が散る。勇者と鎧の騎士は、ほぼ同じ太刀さばき、足さばきで立ち回る。
男の子は困惑を覚えずにはいられなかった。次の剣の先がわかる。それは鎧の騎士も同じであるかのように、切先は互いの肉に触れること無く、ただ剣がぶつかり合う音が部屋に響き渡るのみであった。
気持ち悪い。男の子は最初そう思えた。数手、数十手先を読めど一太刀一突きが決まる気配がないのだから。
しかし、不思議なことに剣戟をひとつ、またひとつと重ねるうちにどこか懐かしいという感情が沸き上がるのだ。
故に男の子の中で困惑がいっそう深まるのだ。だが、彼は今正体の知れぬ感情に浸る余裕は無く、仕方なくそれを頭の片隅へと強引に押し込み、目の前の敵に綻びが生じる一時を刃を交えるなか待ち続けた。




