第6話 お洒落のお勉強
その夜、自分のために用意された客室でエイルはため息をついた。
「キレイすぎるのです……何もかも」
ユーティアの部屋も広くて綺麗だったが、エイルの部屋にはまた違った趣向の置物や絵画が飾られている。
イザヴェル城というだけでもすごいと思っていたエイルは、きらびやかな貴族の暮らしにすっかり惚れ惚れしていた。
「いえ、エイルの使命はユーティア様をお守りすること! よけいなことに気を取られている場合ではないのですっ」
と、エイルは一人で気合いを入れ直した。
翌日、ユーティアは身体にぴったり合った動きやすい形のワンピースを着ていた。下には長い丈のブルマーを履いている。
「本当に魔法を覚えるつもり?」
と、心配そうな顔で問うメイリアスにユーティアは笑顔を返す。
「ええ、わたしは本気よ。ノーアさんが外れている今、護身術だけでも身に着けとかないと」
「そう……分かったわ。だけど、無理はしちゃダメよ」
「うん、ありがとう」
ユーティアは笑みを返し、扉付近で待っているギュスターに顔を向けた。
「本当に大丈夫なのか?」
と、いかにも心配そうに問いかける彼へユーティアははっきりと答える。
「ええ、大丈夫よ。せめて自分の特技だけでも見つけておきたいから」
「そうは言っても……」
するとソファに座っていたイズンが腰を上げながら言った。
「魔法の素質があるのかどうか不安なの? まったく、ファールバードは心配しすぎよ」
イズンに心を読まれてギュスターは気まずい表情を浮かべた。
恋人である彼の気持ちは素直に嬉しかったため、ユーティアはにこりと微笑む。
「ありがとう、ギュスター。だけどこれは、わたしの決めたことだから」
すっかり心の決まったユーティアに、イズンはにやりと口の端を吊り上げる。
「その調子だよ、ユーティア。心を強く持っていないと、あんたはすぐに揺らいじゃうからね」
「そんなことないですよ、イズンさん。少なくともこれからは、がんばりますっ」
やる気十分に言うユーティアだが、イズンはきちんとその心を見通していた。ギュスターの気持ちも彼女の気持ちも、イズンにはよく分かる。しかし今は、ユーティアの背中を押すだけだった。
「……そろそろ、行くか」
「ええ」
ギュスターが扉へ手をかけ、ユーティアはイズンを連れて部屋を出て行く。メイリアスは一人、その姿を見送った。
クランベリーを探して、ダリウスはエイルの寝泊りしている客室へ来た。
「うわ、キラキラしすぎてまぶしい……!」
と、一瞬目をつぶってから真顔になって問いかける。
「何してるんですか、プリンセス」
ダリウスの視線の先には、たくさんの髪飾りで遊んでいる少女たちがいた。
彼が歩み寄ってくる間に、クランベリーは席を立って振り返る。
「可愛いでしょ? 友好の証だよー」
「それは知ってますけど、今は勉強の時間では?」
苦笑いをするように問いかけるダリウスに金髪の少女はにこっと笑った。
「今はエイルとお洒落のお勉強してるんだよー」
ダリウスは冷めた口調で問いかける。
「ノーアに告げ口しますよ?」
「あ、それはダメ! ごめんなさい、謝るから許してー!」
と、王女らしからぬ振る舞いで許しを請う。
ダリウスはふっと笑って、不安な顔をしているクランベリーの頭を撫でた。
「オレはそこまで意地悪しませんって。それよりも、そのノーアのことなんですけど……」
「え、ノーアがどうかしたの?」
「ええ、ちょっと」
と、ダリウスはエイルを気にする素振りを見せた。
クランベリーは様子を見ていたエイルを振り返って申し訳ない顔をする。
「ちょっと待っててくれる? ダリウス、行こう」
と、クランベリーはダリウスの腕を引いて廊下へと出た。
日に日に成長している王女の姿に微笑ましいものを覚えつつ、ダリウスは扉が閉まっているのを確認してから本題を切り出した。
「彼がエイルの魔法を見たいと言ってるんです。でも、昨日オレたちの体験した魔法は広範囲に影響してたので、意見をいただこうと思って」
「ああ、そっかー。確かに昨日のあれはすごかったよね。部屋全体の景色が変わっちゃって……」
と、クランベリーは考え込んだ。
ノーアに魔法を習ううちに、クランベリーは誰もが平等に使える魔法の利用法を研究したいと思うようになっていた。そのため、魔法に対する知識も人より多く持っており、魔法使いを名乗れる日もそう遠くはなかった。
「ノーアの部屋は個室だけど広くないもんね……どこまで影響されるかは分からないけど、一般市民を巻き込むと厄介だし……うーん、やっぱりここは、エイルに直接聞いてみるしかないんじゃない?」
「ですが、万が一昨日のようにうまく行かず、制御しきれなかった場合は?」
心配そうに言うダリウスを見上げ、クランベリーは頼もしく微笑んだ。
「大丈夫だよー、エイルの力は本物だもん。きっと失敗なんてしないよ」




