第7話 魔法の練習
ギュスターの案内で魔法習得用の屋内演習場へ来ると、一級魔法使いとなって一ヶ月あまりのシルフィネスがすでに待っていた。
「よし、それではさっそく始めよう」
と、シルフはいつもと違う服装のユーティアを見て言った。
「はい、よろしくお願いしますっ」
と、ユーティアは彼の方へと歩みよっていく。
すると、その途中でイズンもまた彼女の後を追って進み出た。
「仕方ないから付き合ってやるよ、練習相手にはちょうどいいだろうしね」
と、イズンはシルフをにらむ。彼はユーティアの練習ついでにイズンの実力も測ろうと考えていたのだ。
心を読んでくれてありがたいと満足げに笑って、シルフはユーティアへ向き直る。
「まずは基礎からやっていこう。光を出してみてくれ」
「はい、光ですね」
シルフは場内の照明を消し、暗闇にした。
両手を前へ突き出したユーティアは両目を閉じ、呼吸を整えてから叫んだ。
「グローイ!」
ふわりと白い光が浮かび上がったのもつかの間、場内はすぐに暗闇へ戻ってしまった。
呆然としてイズンはたずねる。
「ユーティア、まさかそれで終わりなの?」
「え、えっと……も、もう一回やってみますね。……グローイ!」
二度目に出現した光は先ほどと同じようにあっという間に闇へ溶けていった。
照明を点けたシルフはおろおろしているユーティアへ言う。
「気にするな、最初はだいたいそんなものさ。イズン、四大属性の基礎を順番にやってみせてくれるか?」
と、イズンを見た。
「お手本ってこと? まぁ、いいけど……カノ」
イズンの目の前にぼわっと丸い炎が現れ、離れたところに居るギュスターへ向かっていった。
ギュスターはすぐにそれを避けるが、イズンは間髪いれずに魔法を唱える。
「ラーグ、ヨルズ、エオー」
水の後に砂の塊が、そしてそれらを巻き込むようにして風が吹いてくる。ギュスターはとっさに腕を顔の前へ上げて魔法を受けた。
怪我はしなかったものの、不意打ちの連続にギュスターは文句を言う。
「おい、イズン! やるなら先にそう言ってくれ!」
「どうせ的になるのはあんたしかいないんだから、少しは我慢しなさいよ!」
と、イズンは冷たく返した。
ギュスターは納得のいかない顔をしていたが、シルフは彼を無視してユーティアへ説明をする。
「基礎魔法というのは、術者の指示を一つだけ受けてくれるものだ。つまり、ユーティアはその指示が出来ていなかったわけだ」
「なるほど。では、どうしたらできるようになりますか?」
ユーティアはすがるような目でシルフを見上げる。
するとシルフは困った顔をした。その様子にイズンは通訳をする。
「何も考えなくても基礎を使えた自分には難しい質問だ、ってさ。ユーティアには悪いけど、あたしもいいアドバイスは出来そうにないよ」
「え、そうなんですか? ど、どうしましょう……」
ユーティアは努力なしに基礎魔法を使えた二人を前にして、自分がとても劣っているような感覚を覚えてしまった。このままでは特技はおろか、護身術にもなりそうにない。
すっかり行き詰まったところで、演習場に何者かが顔をのぞかせた。
扉のそばにいたギュスターはそちらを見て声を上げる。
「ダリウス、何しに来たんだ?」
「いやぁ、ちょっといい報告があってさ」
と、ダリウスはへらりと笑って中へ入ってきた。
「シルフ! いったん中止にしよう、何か報告があるらしい!」
と、ギュスターはシルフへ言って部屋の中央に集まるよう、うながした。
全員が一箇所に集まると、シルフはダリウスにたずねた。
「で、何の報せなんだ?」
「ああ、聞いて驚けよ。昨日、エイルに見せてもらった魔法があっただろ? あれ、実は生命力を回復させるものだったんだ」
予想外の知らせに四人は目をみはった。
「生命力だと? 光でも回復できない部分に関わる魔法か?」
「そう。普通は治せない大怪我や病気なんかを、すぱっと回復させちゃう魔法だったんだよ」
「ってことは、まさかアデュートールの怪我は治ったの?」
「ああ、もちろんさ! 担当医が様子を見たいって言うから、退院はまだだけどな」
そう言ってダリウスはまぶしいほどの笑顔を見せた。ノーアを尊敬してやまない彼にとって、これほど嬉しいことはないのだろう。
ダリウスのノーアに対する思いを知っていた一同は、それぞれに微笑を浮かべた。
「よかったな。ようやく以前の体制で仕事が出来る」
「ここのところ停滞していた情報収集も、やっと進んでくれそうだな」
「まったく、あの魔法にそんな効果があったなんて驚きだよ」
「本当によかったです。プリンセスもきっと喜んでいるのでしょうね」
と、ユーティアが言うと、ダリウスはやや苦い表情になった。
「う、うん……そうなんだけどさ、今はちょっと……」
と、言葉をにごす。
何があったのかたずねようとユーティアが口を開いたところで、ダリウスは答えた。
「ノーアのやつ、頭おかしくしたらしくって……病室で王女といちゃついてるよ」
二人の関係を知っていても、その光景はダリウスにとって衝撃的だったらしい。
シルフとギュスターもまた想像したくないといった様子で口を閉じ、気まずそうにうなった。
「身近な人間の死は人の性格にまで影響をおよぼすらしいね。って、そんなことより魔法の練習は?」
と、イズンはシルフを見上げる。




