第4話 エイル・ヴァルキュリア
「ああ、その通りだね。予言者の『予言』も、生まれついて持った特技だといえる。少し特殊だから、そっちの方ばかり目についちゃうけど、あの子もやれば出来る人だよ」
ユーティアは小さくため息をついた。
「わたしに才能はないと思うけれど、魔法を覚えるのもいいかもしれませんね」
心からの言葉でないことを見抜いて、イズンは彼女へ忠告をする。
「無理はしちゃダメだよ。あくまでもあんたはあたしたちに守られているべき人間なんだから」
じわりと胸の奥が熱くなって、ユーティアは唇を噛んだ。自分の立場は理解しているつもりだが、何も出来ない自分をもどかしく思う気持ちは変わらない。それどころか、いろいろなことを悩んでしまって、またみんなに迷惑をかけてしまうような気がして不安になる。
イズンはそのすべてを読み取って、そっと彼女の手を取った。
「ユーティア、あんたはもっと悩むべきだ。今のうちにたくさん悩んで、少しでも早く大人になりなさい」
と、小さな手が細い手を握る。
「大丈夫、あんたが苦しいことは知ってるから」
イズンは彼女を知っていた。誰よりも彼女の気持ちに敏感で、彼女の苦しみを自分のもののようにとらえ、彼女の支えになろうとしていた。見捨てられなかった、放っておけなかった。イズンはユーティアの心を読んでしまったから、今さら目をそらせなくなっていた。
幼い少女はやけに堂々としていた。
「ここだ。あまり失礼のないようにな」
と、ギュスターは扉を開けて、エイルに中へ入るよううながした。
エイルは広い部屋の中、ソファにゆったりと腰かけているその人を見て、目をキラキラと輝かせる。
そして一直線にそちらへ向かうと、エイルはユーティアの前でひざまずいた。
「あなたが神の宿り主様ですね。わたくしは、エイル・ヴァルキュリアと申します」
幼い見た目とは裏腹にきっちり名乗る少女を見て、ユーティアはつい困惑してしまった。
「あ、えっと、ユーティア・サルヴァです」
「はい、存じています。女神様からお聞きしていたよりもお綺麗な方ですね」
と、エイルはにっこりと微笑んだ。
一同はどうしたらいいか分からず、室内が沈黙する。
エイルははっと立ち上がり、ギュスターへ振り返った。
「それで、この方々はいったい何なのです?」
「ああ。ユーティアの護衛と話し相手だ」
と、ギュスターはこの中で最も偉いシルフィネスに目を向けた。
こつこつと靴音を響かせながら、シルフはエイルの前まで来て口を開く。
「特別神衛部隊副隊長、シルフィネス・ヴァリ・オードです」
「ああ! 風の魔法使い様ですね」
「は? 何だ、それは」
と、シルフが眉間にしわを寄せると少女は言った。
「はいです。風のように素早く聡明な魔法使い様と、流水のように絶えず守り続ける剣士様、土のように広くおおらかな弓使い様と……あれれ、炎のように熱く勇敢な魔法使い様が見えませんねぇ」
首をかしげるエイルは、一見すると一般的な少女と何ら変わりはない。しかし、彼女は本物だった。
シルフィネスはギュスターとダリウスを手招きし、真面目な顔で言った。
「こいつは本物だ。年齢的に不安なところはあるが、女神の使いなのは確かだろう」
「そうだな、彼女に危害を加える様子もないし……」
「え、マジで信じちゃうのかよ? 変わったやつだとは思うけど……」
すると、エイルをじっと見つめていたイズンがあきらめたように言った。
「嘘は一つもないね。女神のイメージすら浮かんできたよ」
やはり本物らしい。
「何で今になって現れたのか分からないが、とりあえずノーアに報告してこよう」
と、シルフィネスは扉の方へ歩き出した。
すると突然扉が開き、少年のような少女が現れる。
「ごきげんようー、ノーアに言われて様子を見に来たよ」
プリンセス・クランベリーだ。
シルフははっと足を止め、彼女へ挨拶をする。
「ごきげんよう、プリンセス。ちょうど、彼へ報告しに行こうと思っていたところです」
「じゃあ、あとでぼくが報告しておくからいいよ。それで、あの子がエイル?」
と、クランベリーは立ち尽くしている少女へ、じっと好奇心あふれる視線を向けた。
はっとしたエイルは姿勢を正し、その場でひざまずいた。
「お初にお目にかかります、エイル・ヴァルキュリアと申します」
王女は彼女のそばまで行くと、その顔をのぞき込むようにしゃがみこんだ。
「クランベリー・シギュン・エレノア・ミルフィーユ・ミッドガルドだよ。小さいのにしっかりしてるねぇ」
と、エイルの頭をぽんぽんと撫でる。
さすがのエイルもこれには驚いたらしく、しばらく呆然としていた。
人形のように動きを止めた彼女へ息を吹き込んだのは、クランベリーが王女の顔をした直後だ。
「それで、君は本当に女神の使いなの? 本物だって言うなら、証拠を見せてもらえる?」
「は、はいっ! エイルは本物のヴァルキュリア一族なのです。プリンセスがお望みなら、女神様よりいただいた特別な魔法をお見せしますのです!!」
と、エイルは立ち上がった。
一同は首をかしげたが、少女が部屋の中央へ立って何か考え始めるのを見てそちらに集中した。
部屋の隅から隅までを見たエイルは、胸の前でぎゅっと両手を組む。そして両目を閉じると、祈るように魔法を唱え始めた。
「ウィアド・ロギ・エーギル・ヤラ・カーリ……イング!」




