第3話 特別なお客様
朝日がまぶしくて、ユーティアは目を細めた。
「おはようございます、ユーティア」
メイリアスの声がしてもぞもぞと寝返りを打つ。もう少し夢の中でまどろんでいたい。
「ユーティア、起きなさい。朝よ」
「んん……まだ眠いわ」
「そう。それなら今日の予定はすべてキャンセルにしましょうか」
「……え?」
ぱちっと両目を開けてベッド脇に立つ彼女を見た。
「今日はね、特別なお客様がいらすそうなのよ」
と、メイリアスは言う。
「でもユーティアが会いたくないのなら、今すぐ断りの連絡を入れてくるわね」
ユーティアは腕を伸ばして、くるりと背を向けたメイリアスのスカートをとっさにつかんだ。
「あ、会うわ。どんな方なのか知らないけど、わたしに用があるんでしょう?」
メイリアスは主を振り返ると、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、さっそくお着替えしましょ」
それは急に決まったことだった。
いつものように朝食をとりながら護衛のダリウスが詳しい説明をしてくれる。
「どうやら女神に仕えてきた一族の末裔らしいんだ。でも、そんな話は一度も聞いたことがないだろ?」
「はい、初耳です」
「だからちょっと怪しくてさ。ノーアが同席できない代わりにオレたち三人がつくけれど、念のため気をつけた方がいいかもしれないな。といっても……」
と、ダリウスは苦笑いした。
「ギュスターの話だと、相手はまだ子どもらしい」
「子ども?」
目を丸くするユーティアにダリウスは言う。
「だから怪しいんだ。とにかく今日は様子見ってことで、ユーティアと対面させることになってる」
「そういうことでしたか……。ちょっと、わくわくしてきました」
「ユーティア、いくら子ども好きでも気をつけなきゃダメだぞ? ティースの手下かもしれないんだから」
「あ……その可能性もありますよね、すみません」
と、ユーティアは両目を伏せた。
その名前を聞くと、嫌でもあの時のことを思い出してしまう。いまだに自分を悩ませ続ける言葉を、すぐそばで聞いているかのように思い出してしまう。
ダリウスは彼女の様子に気づきながら、へらりと笑った。
「まぁ、今日は楽しい日になると思うぜ。よくも悪くも、な」
そして朝食を終えた頃、イズンが一人で部屋へやってきた。
「おはようございます、ユーティア」
「あ、おはようございます、イズンさん」
髪の毛を高い位置でポニーテールにしたイズンは、少しだけ口元をゆるめた。罪人だった彼女は、今では立派なユーティアの話し相手になっている。ユーティアの心を知る唯一の人物でもあるイズン自身、この生活に満足していた。
「話は聞いたよ。今日、変な奴が会いに来るんだってね」
と、イズンはソファに座っているユーティアへ近寄った。
「わざわざ敵のアジトにのこのこやってくる馬鹿はいないと思うけど、シルフィネスやファールバードはピリピリしてたよ」
「そうですね。でも、わたしは大丈夫です。相手がどんな方でも、まず始めに疑って見るつもりですから」
「賢明な判断だね。まぁ、あたしの言えたことじゃないんだけどさ」
と、イズンはユーティアの隣へぼすっと座り込む。
自分よりも小さな年上の友人をながめて、ユーティアはふっと微笑んだ。
「イズンさんがいてくれて、本当に心強いです」
「……何よ、いきなり。あたしはね、ただあんたがあまりにも頼りないからそばにいてやってるだけで、これが仕事じゃなかったら、こんなところにわざわざ来たりしないよ」
「はい、分かってます。ありがとうございます」
嬉しそうににっこりと笑うユーティアに、イズンは口をとがらせてみせた。少しずつ変わってきたとはいえ、いまだ彼女のように素直になれない自分がもどかしい。
そっぽを向いたイズンを見て、ユーティアはくすくすと笑う。一日のほとんどを共に過ごしているため、イズンの考えていることが分かるようになっていたのだ。自分とは正反対な相手だからこそ、互いを知ることがおもしろかった。
「そういや、シルフィネスに頼まれたことがあるんだった。ユーティア、魔法を習得する気はない?」
「え? わたしが、ですか?」
目を丸くして驚く彼女にイズンは一通り説明をしてやった。
「アデュートールが抜けた今、少しでも護身してもらえると助かるそうよ。魔法とはいわず、武術でも何でもいいみたいだけど……ほら、あたしみたいに特殊な能力を持っているだけでも、それが武器になるわけでしょ?」
「武器……そうですね、わたしも守られているだけじゃダメですもんね」
「で、質問なんだけど、あんたは特技を持ってないのかい? さっき言ったように、あたしの特殊能力みたいなものだよ。魔法に関連する事柄だから、習得していかないと普通は気づけないものらしいけど、そういう武器になりそうなものを持ってないのかい?」
ユーティアは言葉を返せなかった。魔法をほとんど使ったことのない自分には、まったく思い当たる節がない。
「……分からない、です」
「そうか。じゃあ、やっぱり魔法を覚えた方がいいかもね。努力しだいでは三級までいけるわけだし、その間に特技が分かるかもしれないしね」
と、イズンは宙を見た。シルフィネスとの会話を思い出し、彼女へ伝える。
「魔法使いはだいたい、全員が何らかの特技を持っているんだってさ。アデュートールの場合は光を自在に操ることが出来る。それは四大精霊を使役できることと関連しているらしい。そしてシルフィネスは瞬間移動を特技にしている。風の属性が得意だから可能なのだけど、実際にやるとすごく疲れるから、よほどの緊急事態でない限り使わないらしいよ」
ユーティアはふとひらめいて尋ねた。
「その特技って、ミシュガーナの場合もそうですよね」




