第1話 ヴァルキュリア一族
特別神衛部隊の隊員、ギュスター・フォルセティ・ファールバードは困惑した。
「えーと、エイルと言ったか。お前は、何を知っているんだ?」
問いかけられた少女は笑みを浮かべ、自信たっぷりに答えた。
「エイル・ヴァルキュリアです。エイルは代々、女神フリーア様に仕えてきた一族のまつえいなのです。先日、祖父が女神様よりご神託を受けられ、イザヴェル城にいる最高神アルファズル様の宿り主様をお守りするという使命をいただきました」
しかしギュスターには理解が追いつかない。その格好から王都に住む者でないことは想像がついたが、茶色いおさげの似合う幼い少女の口から出た言葉を信用できるわけなどなかった。
「それは本当のことなのか? でっちあげや妄想ではないだろうな?」
「妄想なんてとんでもない! エイルは本物のヴァルキュリア一族なのですっ」
「ヴァルキュリアというが、そんな名前は聞いたこともないぞ」
「あ、そうでした」
エイルははっとすると、無邪気な笑顔を浮かべて説明をした。
「知らないのも当然なのです。何故かというと、ヴァルキュリア一族は代々、山奥で暮らしてきたからです。その昔、女神様が山の頂上へ下りてきて、先祖へ言いました。『いざという時、あなたたち一族には私の手伝いをしていただきたいのです。しかし、私と接触したことは誰にも話してはなりません』」
ギュスターは冷静に問いかけた。
「俺に話してるのはいいのか?」
「いいのです。だってあなたは、宿り主様と近しい方なのでしょう?」
「まあ、それはそうなんだが……」
何だか納得のいかないギュスターだが、エイルはかまわずに続きを話し始めた。
「そういうわけで、ヴァルキュリア一族はひっそりと暮らしてきたのです。歴史のどこにも名前は出てきませんが、陰で女神様へ協力してきた歴史ある一族なのです」
「うーん、そうか。ところで、今日の宿は決まっているのか?」
「え、宿……? ああ! 忘れてました」
「じゃあ、今からさっさと取って来い。今日中に会わせてやれるとは思えないんでな」
「そうですかぁ……めんどくさい手続きがたくさんあるのですね」
「ああ、そうだ」
エイルはため息をつくと、ギュスターへぺこりと頭を下げた。
「それでは、明日また来ます。エイルの話を聞いてくださり、ありがとうございました」
くるりと背を向け、とぼとぼと歩き出す。
その小さな姿をじっくり見据え、ギュスターは腕を組んだ。突然やってきた少女をどれだけ信じていいものか、計りかねていた。
シルフィネスはふと、砂糖を紅茶に入れている婚約者へ目を向けた。
「おい、それ何杯目だ?」
「三杯目だよ」
「入れすぎじゃないか? 紅茶は香りを楽しむものだぞ」
「あたしにけちをつけるつもり? 言っておくけど、あたしはあんたの奥さんになっても屈するつもりはないからね」
と、四杯目の砂糖へ手を伸ばすイズン。
シルフは呆れて息をつき、視線を彼女の隣にいる少女へ向けた。
相変わらずユーティアはぼーっとしており、心なしか笑顔の回数も減っていた。どうにかしてやらなくちゃならないと分かってはいるものの、彼女をかばうイズンが障害になっている。話して欲しいと言っても、イズンはユーティアの気持ちを優先して口を開こうとしないのだ。
幸いなことに今のところ、特別に悪いことは起こっていなかった。
「――ローズルは悪の象徴、でしたっけ?」
と、ふいにユーティアはシルフィネスへ問いかけた。
「ああ。それがどうかしたか?」
「いえ……」
するとノックの音がし、ギュスターが部屋へ入ってきた。
「シルフ、ちょっと相談したいことがある」
「ああ、分かった」
すぐに席を立って扉付近に佇む彼へ歩み寄るシルフィネス。
ギュスターは少し声をひそめて言った。
「最高神の宿り主、ユーティアに会いたいという少女が来た」
「一般市民か?」
「ああ。しかも相手は女神フリーアに仕えてきた一族だと名乗っていて、遠いところから遥々《はるばる》やってきたみたいなんだ」
シルフィネスは理解不能というように眉を寄せた。
「どういうことだ? もっと詳しく話せ」
と、顔を近づける。
ギュスターは困惑した顔を浮かべながらも、少女エイル・ヴァルキュリアに関することをすべて話した。
そして最後に付け加える。
「だが、そのエイルという少女はどう見たって十歳程度なんだ」
「……遊びか? いや、それにしても、宿り主である彼女がここにいることを知っているのはおかしいな」
「そうなんだ。だが、女神が現在も行動をしているなんて聞いたことがない。女神は沈黙しているんじゃなかったか?」
「うーん、判断に迷うところだな。可能性を否定することは出来ないが、もし子どもの遊びだったら一般市民を巻き込むわけだしな」
「しかしヴァルキュリア一族というのが本物であれば、まったくの無関係ではないだろうし……」
神妙な顔で言うギュスターに、副隊長は指示を出した。
「ノーアに話して、判断をあおぐしかないな」
「やっぱりそうなるのか……。分かった、行ってくる」
そしてギュスターは部屋の外へ出て行った。




