プロローグ
枝から落ちた枯れ葉が木枯らしに吹かれて宙を舞う。
「秋ももう終わりね……」
肘かけに取りつけられた魔宝石に手を置き、車椅子を動かしてゆっくりと窓辺から離れる。
離れたところに立つメイドへ目を向け、ミシュガーナは続きをうながした。
「それで、ミスター・アデュートールの様子は?」
「まだしばらくの間、静養が必要だそうです。仕事に復帰されるのは、もしかすると来年のことになるかもしれません。シルフ坊ちゃまからの伝言は、以上になります」
「そう、ずいぶんと時間が空くのね……。それまでに何も起こらなければいいのだけれど」
両目を閉じてみたが、ミシュガーナの脳裏には何も見えない。予言するほどの悪い出来事はまだ起きない、ということか。
「ありがとう。もう下がっていいわよ」
メイドが部屋を出て行くのを見送ってから、ふうとため息をついた。
特別神衛部隊は今、ノーアをのぞいた三人で動いているために忙しかった。シルフィネスが別館へ来るのはイズンの送り迎えだけとなり、ミシュガーナはもやもやしていた。車椅子の定期メンテナンスも忙しさが落ち着くまで休止となっている。
ふと壁に取りつけた鏡を見て止まった。ぼーっとこちらをながめている自分と目が合う。長く伸びた黒い髪に白い頬、これまでと何も変わっていない自分自身。――以前、人から言われた言葉をふいに思い出す。
「……そうね、そうよね。待ってるだけじゃダメ、自分から外へ出ないと」
すぐにミシュガーナはベルを鳴らしてメイドを呼んだ。
「これから出かけるわ、仕度をするから手伝ってちょうだい」
遠くにそびえるイザヴェルの城を見上げて、少女はぽつりとつぶやいた。
「大きい、です……」
ここまで乗せてきてくれた馬車が去っていき、少女は手にした地図をぎゅっと握りしめる。
「いいえ、圧倒されている場合ではないのです。エイルはエイルの使命を果たさなくては!」
地図を鞄の中へきっちりしまうと、少女は薄い茶色の髪をなびかせながら一目散に城を目指して駆け出した。




