↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
82/88

第32話 世界中の誰よりも

 パシェイソン家の広間は城のそれと比べても見劣りしなかった。

「緊張しちゃうわ、ギュスター」

 と、やわらかい草色のドレスをまとったユーティアは彼とつないだ手に力を込める。

「俺だって緊張してるよ、ユーティア」

 と、ギュスターもやや挙動不審になりながら返した。

 さすがに公爵家は顔が広いらしく、見たこともないような数の人々が集まっていた。ユーティアもギュスターもしっかりお洒落をしてきたはずだが、すっかりかすんでしまっている。

「とりあえず、シルフたちが来るのを待とう」

「ええ、そうね」

 豪勢な料理が並び、いい匂いが漂ってくる。隣のダンスホールには音楽隊が本番に備えて準備をしていた。

 会場の隅で待っていた二人は、ふいに玄関の方がざわめいていることに気がついた。誰かすごい客でもやってきたのかと思った時、広間へ入ってきたのは見慣れた男女だった。

「ごきげんよう、ミスター・オード」

 と、声をかけられたシルフィネスはにこっと紳士の笑みを見せる。

「ごきげんよう、ミスター・フェネロス」

 こういった場に慣れているのだろう、シルフの様子はいつもどおりだ。しかしその隣にいたイズンはかちこちに固まっていた。

「そちらのお嬢様はどなたですか? 初めて見るお顔ですが」

「ああ、ご紹介します。私の婚約者のイズン・ノッド・セアーズ嬢です」

 相手の貴族がそれぞれにイズンへ挨拶をし、びくびくしながらも挨拶を返すイズン。

「お、お初にお目にかかります……っ」

 と、シルフを見上げる。こちらは場慣れしていないのが丸分かりだったが、その可愛らしい姿に女性たちはさらに声を潜めていた。ドレスと化粧がばっちり施されているだけでなく、イズン特有の少女っぽさが彼女自身を引き立てているのだ。

 挨拶を終えたところで、シルフはギュスターとユーティアに気づいて寄ってきた。

「ごきげんよう、ミスター・ファールバード」

「ご、ごきげんよう、ミスター・オード」

 と、ギュスターは普段と違う彼の態度に苦笑いしそうになった。

 それを察したのか、シルフは他の貴族たちに見られないよう、柱の陰へ移動した。

「ちゃんとエスコートできてるか? ギュスター」

「ユーティアには悪いが、まったく自信がない」

「そうだろうな。こういったパーティーは、最初だけ参加すればどうにでもなるから覚えておけ。今回はダリウスたちへの挨拶があるから、そう上手く抜けられないと思うが」

 ユーティアはイズンの姿をまじまじとながめていた。シルフの言葉など耳に入っていないだろう。

「パシェイソン邸にはいくつもバルコニーがあるから、そこで一休みするのもいいな。特にユーティアは、人ごみは苦手だろう?」

「え? あ、は、はいっ」

 と、慌てて返事をするユーティア。

 シルフはくすっと笑ってから、イズンに視線を向けた。

「お前もあまり無理するなよ。気分が悪くなったらすぐに言ってくれ」

「う、うん……分かってるよ」

 と、イズンはまた彼を見上げた。パーティーの間は極力そうならないよう、シルフを見ていることにしたのだ。それを言い出したのは彼の方だったため、イズンはさっそく実行させてもらっていた。

「それと、いい機会だから教えてやる。知り合いがいないなら知り合いを作れ。ファールバードの名を出せば、そこそこ食いついてくる者もいるだろう。ギュスター、お前も貴族を名乗るなら、それくらいやって見せろよ?」

 そしてシルフは背を向けた。

「さあ、行こう」

 と、イズンとともに広間の中心へ向かっていく。するとまた誰かに声をかけられて、幾度目かになる挨拶を彼らは繰り返すのだった。


 その後、ギュスターとユーティアがどのようにパーティーを楽しんだのかは分からない。

 バルコニーへ出たイズンは、疲れた顔を一切見せない彼に問いかけた。

「ずっと聞きたかったんだけど……あたしはいつ、あんたの婚約者になったわけ?」

 シルフはすると、心を読まれる前にイズンの前へ片膝をついた。びくっとするイズンの手をとって、まっすぐに彼女を見つめる。

「結婚を前提に付き合ってくれないか?」

「……やっぱりそうなるのか」

 と、イズンは顔をそらしてため息をついた。

「何だよ、やっぱりって。気づいてたのか?」

「あんたのいとこに予言されてたんだよ。あんたが最終的に選ぶのはあたしだって」

 立ち上がったシルフは首をかしげた。

「そうだったのか? でも、あいつはそんなこと――」

「あの子にとっては最悪の展開なんだよ。あの子自身がよく理解してないから気づかないのも無理ないけど、ちょっとは自覚しなさいよ」

 と、イズンは口をとがらせた。

 広間へ目を向けたシルフは少し考えて、イズンを見下ろした。

「お前こそ、自分が可愛いってこと、少しは自覚した方がいいぞ」

「!!」

 イズンが顔を真っ赤にすると、シルフは楽しそうに笑い声を上げた。


「ダリウス……あたし、疲れたわ」

「ああ、オレも疲れた」

「何であんたが疲れるのよ、貴族のくせに」

 メイリアスが思わず憎まれ口を叩くと、ダリウスはむっとした。

「これだけ人の集まるパーティーは久しぶりだったんだ。仕方ないだろ」

 すべての参加者が広間から出て行き、帰っていく頃だった。

 廊下の窓から人々を見送りながら、メイリアスは隣に立つ彼へ言った。

「まだメイドを辞めるつもりはないわ。だけど、今度あなたが大怪我をしたら……ちょっとだけ、考えてあげる」

 と、ダリウスの様子をうかがう。

「ありがとう、メイリアス」

 二人の時にしか見せないやわらかな表情を浮かべて、ダリウスはそっと彼女の肩に手を置いた。

 両目を閉じたメイリアスの唇に、触れるだけのキスを贈る。――誰よりも、世界中の誰よりも幸せだと思った。

 唇を離して目を開ければ、ほんのりと頬を赤らめた彼女が見えた。

「メイリアス、愛してる」

 彼女は少しうるんだ瞳で、こくりと確かにうなずいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。