第30話 パーティーの招待状
「どうしてあんたは、いつも軽傷で済んじゃうのかしらね」
と、メイリアスはどこか呆れた風に言った。
「何だよ、オレもノーアみたく両腕壊せばよかったか?」
ちょっとむっとして言い返すダリウスにメイリアスは笑う。
「そんなわけないでしょう?」
歌うように言って階段を下りていく。
あいかわらずメイド服の似合う彼女を追いかけて、ダリウスは言った。
「なぁ、相談があるんだけど」
「何?」
「オレ、やっぱり婚約発表したい」
メイリアスは踊り場で足を止めた。
「またその話? 今すぐじゃなくたって――」
「今すぐじゃないとダメなんだ。お前も話は聞いてただろ? あいつらが、ティースが何をしようとしたか」
と、真剣な顔でダリウスは彼女を見た。
メイリアスは今回の顛末を思い出し、表情を暗くさせる。
「ローズルを、よみがえらせようとしたって……」
「そうだ。この世界がローズルに取られちゃうかもしれないってことなんだ」
メイリアスは押し黙った。彼の言うことはよく分かっているつもりだが、あらためて考えてみると恐ろしく思えてきて返す言葉が無くなってしまった。
そしてダリウスはわずかに震える声で言った。
「今度こそ世界があいつの手に渡って、オレたち人間は滅亡させられるかもしれない」
最悪の結末だった。そうならないために彼らは、そして自分たちは動いているのだ。しかし、ノーアが負った怪我を思うと、自分たちに残された時間が有限であることを実感する。ゆっくりしていられるほど、世界は平和ではなくなってきている。
メイリアスは迷った末に、こくりと小さくうなずいた。
「招待状?」
ダリウスから渡された封書を見てギュスターは首をかしげた。
「どういうことだ、これは」
「オレとメイリアスの婚約発表パーティーだよ。今のうちにやっておこうと思ってさ」
そして同じものをユーティアへと手渡す。
「ノーアにも許可はもらってるし、一日だけなんだから来てくれよな」
ユーティアはキラキラと瞳を輝かせた。ギュスターの腕をそっとつかんで言う。
「ギュスター、わたし初めての社交界デビューだわ」
「サロンに行っただろ、お前」
と、呆れたギュスターが言うも、ユーティアはかまわなかった。
「でもパーティーは初めてよ。わたし、絶対行きます!」
と、ダリウスへ元気よく返事をする。
ギュスターは思わずため息をついてしまったが、親しくしている友人を祝わないわけにも行かなかった。ましてや、メイリアスはユーティアの親友だ。護衛をかねて付き添わなければいけないだろう。
「で、どうしろっていうんだ?」
と、シルフィネスは苦い顔をした。
「俺に相手がいないと知ってのことか?」
パーティーには普通、男女ペアで出席するのが一般的だ。相手がいないシルフには出席したくても条件がそろっていない。
するとダリウスはにこにこと笑って言った。
「何言ってるんだよ。貴族のご令嬢なら、すぐそこにいるだろ?」
「は?」
聞き返すシルフは、本気で分かっていない様子だった。
ダリウスは地団太を踏み、彼に詰め寄る。
「馬鹿か、お前! すぐそこにいるだろって言ってるんだよっ」
「お前に馬鹿と言われるとムカつくな」
「だーかーらっ、そうじゃなくって考えろって!」
シルフはしぶしぶ周囲にいる女性を思い浮かべた。
「ミシュガーナは無理だしな……」
「ああ、確かに呼びたいと思ったけどなー」
ふとダリウスを見て、顔の向きを戻し首を振る。
「いやいや……まさか、あいつか? 断られるぞ、きっと」
「何言ってんだよ、この色男! お前は特に気に入られてんだから大丈夫だって」
と、ばしばし肩を叩かれてシルフは反応に困った。
その日の夕方、仕事が一段落着いたシルフはユーティアの部屋へ向かった。
いつものように扉をノックして、中へ入る。
「……イズンは?」
「あっちで着せ替えられてる」
と、椅子に腰かけて退屈していたギュスターはカーテンの向こうを指差した。
音を聞きつけたメイリアスがカーテンの隙間から顔を出してはっとする。
「あら、ミスター・オード! イズンさんにご用事ですか?」
「ああ」
メイリアスはすぐに向こうへ戻ると、イズンに何か言った。抵抗していると思しきイズンにユーティアが「大丈夫ですよ」と、言うのが聞こえてくる。
シルフは微妙な気持ちでイズンを待った。
「……驚くぞ、お前」
と、ふいにギュスターは言い、シルフが首をかしげたところでカーテンの開く音がした。




