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フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

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第28話 メテオライト

 ゆっくりと近づいてくるティースをどうにかしようとして、イズンは口を開く。

「まだ本気出してないって言うの? しかも自分自身の意思で動いてるわけね」

「悪いけど、心を読まれたところで僕は動じないよ。イズン・ノッド・セアーズさん」

 心を読ませない諜報部には、心を読まれた際の対処法も教えられているようだ。

 イズンはユーティアの前に立ち、両手を広げた。

 ティースはかまわずに近づいてくる。そしてふと足を止め、背後から剣を振りかざそうとするギュスターの脚に逆手で剣を突き刺した。

「っ――!!」

「そんなに殺気立っていたら、勝てる相手にも勝てなくなっちゃうよ? ああ、だけど、恋人を守るのに必死になっちゃうのは仕方ないよね」

 勢いよく剣を抜き、イズンの目の前まで来るティース。

「あ、あんた……本当にそれを?」

 彼の心を読んだイズンは目を丸くした。

「だけどそれには準備が必要なはず。莫大な時間と、金が……」

「僕はオークライト=ティース・エルフィリード・アデュートール。未来のアデュートール侯爵だよ?」

 そう言って彼はイズンの頭についた髪飾りに手を伸ばした。

「こんなところにあったのか、メテオライト」

「あ、あぁ、やめて……っ」

 イズンの叫びもむなしく、ティースはそれを力任せに奪い取った。

 そして怯えているイズンを見下ろす。

「アルファズルはもらっていくよ」

 血のついた短剣がイズンの胸を刺した――。


 信者たちは雑魚だった。シルフが本気を出すまでもなく、全員が床に伏していた。

「問題はあっちだな」

 と、アルバライトに遊ばれているノーアを見つめる。

 ダリウスの攻撃が当たることはなく、時間を経るごとにアルバライトの翼は大きく広がっていった。

「アルバライト! いい加減ノーアを解放してくれっ」

 叫ぶダリウスだが、その声が届くわけもない。

 右腕までぶらんとさせたノーアは、立っているのがやっとという様子だ。

「ダリウス、あいつの手を狙えるか?」

「手って、下手すると人形を撃っちゃうぜ」

 犯された禁忌の魔法がどういったものなのか、二人とも何となく理解していた。

「怖くてできねぇよ、そんなこと」

 ダリウスの声は震えていた。

 アルバライトの罠は実に巧妙だ。こんな兄を持ったノーアが哀れにも思えてくる。

「そうか……それなら、この場を混乱させるだけだな」

 そうつぶやいて、シルフは覚えたての魔法を唱えた。

「ギューフ・シルフィード!」

 その場に突然現れた美しい鳥は、シルフの意図に合わせてアルバライトの周囲を飛び回る。

 目が回りそうなその動きにも動じず、アルバライトは言った。

「ふん……無駄だ」

 手にした人形の首を絞め、アルバライトはノーアとそれを交互に見ながら手に力を入れた。

「!」

 ノーアの呼吸が苦しくなる。のどが押しつぶされて、窒息しそうだ。

「ベルカナ・カーリ!」

 建物の中に大きな竜巻が起きた。シルフの元に戻ってきたシルフィードが一声鳴く。

 風は風を呼び、教会内から一切の明かりを消していき、同時にアルバライトの足元をぐらつかせた。その隙にダリウスの放った矢が彼の腕に命中する。

 放り出された人形を拾い上げたシルフは、すぐにノーアの元に駆け寄った。

「大丈夫ですか、ノーア」

 彼は意識を失っていた。脈と呼吸は確認できたため、死んではいない。ひとまず安心するシルフだが、ふと視線に気づいて顔を上げた。

 役目を終えたシルフィードが消えて、その場が静かになる。

「始めよう、兄さん」

 ユーティアを抱き上げたティースがこちらへと向かってくる。

「ティース……そうだな。俺にはもう一つ、やるべきことが……」

 と、まだ何かしようとしているアルバライトにダリウスは弓矢を向ける。

 ティースは兄の近くまで来ると、乱暴にユーティアを床へ下ろした。

「ローズル様、これでようやく念願の――」

 びくびくと震えるユーティアの腕をつかんで、アルバライトは彼女を祭壇へ上げた。

「何をする気だ!」

 ノーアのそばを離れることも出来ずにシルフが叫ぶ。

 答えたのはティースだった。

「ローズルをよみがえらせるんだよ」

 そして手にした魔宝石を夜空へ掲げる。銅像のローズルが微笑んだように見えた。

 ダリウスはふと、アルバライトの背中がおかしいことに気がついた。月明かりだけでは頼りなく確認しにくいため、仲間へ声をかける。

「シルフ、光を頼めるか?」

「グローイ」

 ぱっと室内を白い光が照らす。

 アルバライトとティースがまぶしさに目を細めるのもつかの間、ダリウスは勝機をつかんだ。

「これで終わりだ!」

 放たれた弓がアルバライトの翼の付け根に突き刺さる。直後、生まれた亀裂から二枚目の翼が生えた。

 予想外の事態に目をみはるティース。いくらこの距離でも、禁忌の二重かけが見破られることは無いと思っていた。――翼の生える速度がゆっくりだったのは、どんな怪我でもすぐに癒してしまう究極の回復魔法をあらかじめかけていたからだ。その残酷なほどの治癒力を使用し、アルバライトは二度目の禁忌を犯したのだ。

 背中に生えた四枚の翼を大きく広げたアルバライトは、苦痛の叫びを上げながら血溜まりの中に倒れこんだ。

 ティースは兄の死を見てとると、魔宝石をポケットへしまう。

「また出直すことにするよ」

 と、祭壇をジャンプ台にし、壊れた窓から外へ飛び出した。


 イズンに応急手当をされている最中、ギュスターはティースが外に出てくるのを見た。

 あちらもギュスターに気づいたらしく、にこっと意味深長に微笑んで近くの森へ消えていく。

「あいつは殺していい人間だ。ファールバード、次は負けるんじゃないよ」

「――ああ」

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