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フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

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第24話 ノーアがいない

「お、似合うじゃないか」

 シルフィネスは満足そうに言った。

 メイリアスに髪を結い上げてもらったイズンは恥ずかしそうに押し黙る。

「可愛いですよ、イズンさん」

 と、ユーティアも鏡越しにイズンを見ていた。

 癖のある赤毛は左右で分けられ、上半分がそれぞれ高い位置で結ばれていた。右側のリボンには灰色の石が取りつけられている。

「でも、こんなことしていいんですか? 大事なものなんでしょう、この石」

 と、ユーティアがシルフにたずねると、彼は笑った。

「金具にはめ込んでいるだけだから問題は無いさ。それにユーティアじゃなく、イズンが持っている方が安心感あるだろ?」

「誰もあたしに近づけないから?」

 と、呆れた口調でイズンは聞き返す。

「お前が誰も寄せつけないからだろ?」

「……ふん」

 シルフィネスの楽しそうな表情が気に食わなかった。ユーティアといるからなのか、今日は笑顔ばかり見せてくる。――いや、本当は彼の心の動きにも気づいている。だけど、そのことについて本人が何も言わないから何とも言えないでいた。

「アデュートールよりも、オードの方が嫌な性格だね」

 イズンが素直だけど素直じゃない言葉を吐くと、シルフはおかしそうに言った。

「はは、そうかもしれないな。だが、お前だって性格悪いぞ?」

「それは褒めてるの?」

「聞くなよ。お前なら分かるだろ」

 イズンはむっとした。

 二人のやり取りをながめていたユーティアとメイリアスは顔を見合わせてくすっと笑い、愛らしく変わったイズンに手を伸ばす。

「では、次はお着替えをしましょう」

「その髪形に似合う服、見つけてあげますね」

 無理やり椅子を立たされたイズンは、抵抗する間もなくクローゼットの前へと連れて行かれてしまう。

「少々お待ちくださいね」

 と、メイリアスがカーテンで部屋を仕切る。

 シルフィネスは、やれやれと息をついた。日に日にイズンが普通の女の子に変わっていく様を見て、不思議と自分も心を許すようになっていた。初めはイズンの社会復帰が目的だったが、今ではユーティアのいい友人となっている。その変化が自分には何故だか喜ばしい。

「……」

 好きとか、そういう類の感情とは違う。しかしシルフは、イズンに対してそれまでになかった感情を抱くようになっていた。いとこの世話をしている時に似ているが、ユーティアに抱いていた想いよりも確かなものだ。

 彼女のことばかり考えている自分に気づき、はっとする。

「そうか……そうだな」

 自分に言い聞かせるようにつぶやき、シルフはつかの間、不思議な心地に浸った。


「ダリウス、ノーアを見なかったか?」

 本部へ出勤するなり、ギュスターは先に来ていた同僚へ声をかけた。

「え、まだ来てないけど。寝坊してるんじゃないのか?」

「いや、それがいなかったんだ。だからもう本部にいるのかと思ってたんだが……」

 寮暮らしのギュスターは本部へ来るまでに仮眠室の前を通る。いつもなら準備を終えたノーアと鉢合わせするか、その背中を見ることになるのだが、今朝は違った。

「ふぅん、珍しいな。どこ行ってるんだろうな、ノーアのやつ」

「ああ……」

 ギュスターはいつものように自分の席へ腰を下ろし、今日の仕事の確認を始めた。

 ダリウスも同じように書類のチェックをして、室内に沈黙が訪れる。

「……」

「……」

 はた、と気づいて二人は手を止めた。

 お互いに顔を見合わせ、ようやく異変に気づく。

「ノーアが来ないなんてこと、ありえるか? この時間になっても、だぞ」

「ないな。仕事人間のあいつにそれだけはありえない」

「つまり……?」

「急いでシルフのとこに行こう!」

 がたっと席を立ってギュスターとダリウスは廊下へ飛び出した。


 イズンの着替えが終わった頃、慌てた様子でやって来た二人を見てシルフは怪訝な顔をした。

「どうした、そんなに慌てて。何かあったのか?」

「ああ、ノーアがいないんだ」

「仮眠室にも、本部にも来ていない」

 シルフは真面目な表情で問う。

「気づいたのはいつだ?」

「さ、さっき……」

 と、答えを返すダリウス。その隣でギュスターも冷や冷やしていた。

 副隊長はわざとらしく息をつき、昨晩のことを思い返す。ノーアが責任を感じていたのはその様子から見て取れたし、本気で一人で片付けようとしていることにも気づいていた。

「ダリウス。昨日の夜、ノーアは王女の部屋に行ったか?」

「え、どうだろう」

「お前、遅くまで本部にいたはずだろう?」

 ユーティアの護衛の前日は早めに仕事を終えるため、シルフは自分が部屋を後にしてからのことを彼にたずねていた。護衛についていたギュスターは、ユーティアが就寝するまで部屋にいるため、本部のことは知らなくて当然だ。

「うーん……そういえば、オレが仕事終わる前に出て行ったな。王女に会いに行ったかどうかは分からないけど、その可能性は充分にありうると思う。あの時間なら王女もまだ、寝る前だろうし」

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