↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
68/87

第18話 禁忌の代償

「禁忌って、全部でいくつあるんでしたっけ?」

「詳しい数字は分かっていませんよ。代表的なものとしては、自ら手を下さずに相手を殺す方法――ハティの『流行り病』が、まさにそうですね。

 他には他人を操る方法だったり、天と地をひっくり返す方法なども禁忌に含まれているそうです」

 ノーアの返答にうなずきながら、ダリウスは机へうなだれた。

「ふーん、それじゃあ禁忌は最高の魔法なんですねぇ。自ら手を下さずに相手を殺すって……あれ、それってやばくね?」

「やばいですよ。ハティを例に取ると、結果的に彼はその他の人々も巻き込んでいますから、それだけ強大な力であったことが分かります。そしてそれは、おそらく術者の意思に関わらず、影響をおよぼしたのでしょう」

 と、ノーアはダリウスへ鋭い眼差しを向けた。

 その視線にびくりと起き上がって、それまでまとめていた資料を慌てて手に取るダリウス。しかし、ふとつぶやく。

「でも、そんな魔法があるのに使う人が少ないのは、やっぱり……」

「『死と引き換えだから』ですね」

 と、ノーアが冷静に答える。

「普通の人は、そこまでして目的を達成しようとは思いません。代償があまりにも大きすぎますから」

「ですよね」

 エノータ派についての資料はほとんどそろっていた。確証のあるものから、何の根拠もないことまで、手に入れられるものはすべて手に入れた。唯一得られていないのが、一年ほど前からの――おそらくアルバライトが関わり始めた頃からの――資料だ。外部資料は手に入ったが、内部の事情は少しもつかめていなかった。

 それでも、そこに禁忌が関わっているであろうことは十分に予想できる。ダリウスは心がざわつくのを感じながら、資料を再度確認し始める。

 仕事が一段落したらしく、ふいにノーアが立ち上がった。

「少し、休憩してきます」

 と、さっさと部屋を出て行く。

 以前までは無理をしてでも仕事に集中することの多かった彼を、ダリウスは心配していた。こちらが声をかけないと休憩はおろか、食事さえも取らない彼だったのだ。

 しかし、ここ最近は頻繁《ひんぱん》に休憩を取っている。仕事に支障は出ていないが、そうして気を休めている彼のことが気がかりだ。

「……こういう時、イズンみたいに心が読めたらいいのにな」

 ぽつりとつぶやいて、ダリウスは一人で苦笑した。そうすればメイリアスとのこともすぐに解決できるのにと、苦く思う。


 残りわずかな夏の日差しに目を細めた。

 空気はじんわりと温度を下げ、日を追うごとに冷たくなっていく。あっという間に秋が訪れ、気づいた時には冬になっているのだろう。そんなことを思いながら、誰もいない中庭を見回した。今は勤務時間だ、のんびり休んでいる人間なんて自分しかいなかった。

 設置されたベンチにそっと腰を下ろし、ため息をつく。

 白く染めた髪がふわりと風になびいた。この色にしたのも、思えばプリンセス・クランベリーの提案から始めたことだった。

『いっそのこと、白く染めて目立っちゃおうよ。白髪も隠せるし、便利だよ』

 そう言ってにこにこと笑みを浮かべる彼女は、まだ幼かった。だけど何故だか、その子どもじみた安易な考えに乗ってしまった。次の授業の時、髪を白くしてきた自分を見て彼女は笑った。

『似合ってるよ、ノーア! それならお家に帰らなくても、噂になって家族の耳に届いちゃうねー』

 そして自分もあの頃は、まだ幼かった。家に帰ることを拒否しながら、家族を心配させまいとしていたのだ。しかし、間違いだった。自分はもう、あの場所へは帰れないのだ。二度と帰らない場所に、気を遣う必要などなかったのだ。

「目立つよ、サジェス兄さん」

 はっとして立ち上がる。見覚えのある懐かしい顔がこちらへと歩み寄ってきていた。

「お久しぶり」

 にこっと笑う頼りない弟。記憶にあるのと変わらず、彼は小柄で華奢だった。軍人だとはとうてい思えない。

 神妙な表情でノーアは弟の様子をうかがった。

「何故、こんなところに?」

「何でって、僕も軍人だよ? 小さいけど今は隊を任されてるし、昇格だって約束されてる」

 ティースはその場に立ち止まり、あらためて兄の顔を見た。

「兄さんこそ、こんなところで何をしているの?」

「……少し休んでいただけです。では、私はもう仕事に戻りますね」

 逃げるように歩き出した兄の腕を、すれ違いざまにティースは捕まえた。

「駄目だよ、サジェスライト。僕はずっと、あなたと話をしたかったんだ」

 その力は思ったよりも強く、初めてノーアは自分が動揺していたことに気がついた。

 無理やり振りほどくこともできたが、それでは自分らしくない。冷静に思考し、ノーアは弟を振り返る。

「分かりました、いいでしょう」

「ありがとう、兄さん」

 と、微笑む弟だが、目が笑っているようには見えなかった。

 ノーアは何か言いしれない恐怖のようなものを感じながら、隙を見せないように気を引き締めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。