第17話 メイリアスとダリウス
「さっきから聞いてれば、あんたはあたしを馬鹿にしてるの? それくらいあたしにだって理解できるわよ。でもね、こっちには女のプライドってものがあるのよ!」
とうとうメイリアスが怒りを表情に浮かべ、ダリウスも負けじと返す。
「んなもん、捨てちまえ! オレにはパシェイソン家の息子としてのプライドがあるんだ!」
「だったら、何であたしなんかを選んだのよ? 優越感に浸りたいから? あたしを金銭的に助けて、恩でも売るつもりなの?」
室内に響く二人の声。
これほど激しい言い争いを聞くのは久しぶりだった。ここへ来て間もない頃の彼らを思い出し、ユーティアはどこか懐かしく思う。
しかしイズンは言った。
「止めないのかい?」
「え、止めた方がいいですか?」
と、聞き返してしまったユーティアに、イズンは呆れたようにため息をついた。だが、それ以上は何も言わずに傍観を決め込む。
「オレはお前が好きだから、あれこれ気を回してやってるんだぞ! それなのに、お前はどうして――」
「それはこっちの台詞よ! あたしだって、何度も話したでしょう? まだ結婚式や婚約発表をするには早いの。ユーティアのことも落ち着いてからじゃないと、あたしはあなたと結婚できない!」
「だけど婚約発表くらいはいいだろ? 何で嫌なんだよ?」
「嫌とは言ってない、不必要だって言ってるだけよ! そんなことしたところで、あたしが他の人たちに笑われるだけだわ」
「大丈夫だよ、オレが守るから!」
「そう簡単に言わないでよ! あたしはあんたの、そういう単純なところが嫌いなの!」
ユーティアははっとした。
「そんなに嫌だ嫌だって言うなら、もういいよ」
と、ダリウスはむすっとして彼女へ背を向けた。
「貴族の家に嫁ぎたくないなら、最初からそう言えよな」
そして彼はメイリアスから距離をとると、窓辺に立った。開放された窓からは少し冷たい風が吹きこんでくる。
「……そうじゃないって、何度言えば分かるのよっ」
と、メイリアスも怒った様子で再び仕事を始めてしまった。
ついに険悪な雰囲気へ突入した二人を見て、ユーティアはおろおろし始めた。
「ど、どうすれば……」
「だから言ったでしょう? 止めないのか、って」
と、イズンは意地悪に言うだけだった。
魔法は便利だが、魔力を必要とする。それがなければ魔法は使えないし、魔法使いと呼ばれることもない。そうした魔力との関連を証明しているのが禁忌だ。
「魔法は基本、痛いものね」
「さすがはイズン、無属性の魔法を使えるだけのことはありますね」
「褒められてもうれしくないよ、アデュートール」
言葉どおりうれしくなさそうな顔をするイズンを見て、ノーアはくすっと笑った。
「では、話の続きにしましょう。ユーティアも見たことがあるので分かると思いますが、禁忌を犯すと背中に翼が生えます。その時に命を落とすと言われているのは、大量の出血だけでなく、大量の魔力を放出するからでもあります」
「魔法を使うにはそれ相応の魔力が必要だからね」
と、イズンはまた口を挟んだ。
「魔力は生命力と連動しているため、どちらかが汚されると致命傷を負いかねません。禁忌は使いすぎた魔力のせいで生命力にも影響を与え、術者の命を奪ってしまうのです」
「だから、禁忌なんですね」
「そうです。とても古い例ですが、禁忌に限らず、自分に見合わない魔法を使って翼を得たという記録も見つけました。おそらく、魔力の限界を超えるとそうなるのでしょうね」
と、ノーアは言った。
「闇に染まるのは簡単だけど、それとこれとじゃ違うのさ。魔法を使って痛みを得るのは同じだけどね」
実際にそれを体験したイズンの言葉に、ユーティアはただうなずく。
「それと、無属性の魔法っていうのは魔力の消費は他より多いが、属性に頼らないからその分だけ使いやすいんだよ」
「どちらかというと、生命力に近い部分の魔力を使うとされていますしね」
「そうそう。だからあたしでも使うことが出来たってわけさ」
「なるほど……」
まるで魔法使いがもう一人いるようだった。
それはノーアも感じていたのか、ふとイズンへ問いかけた。
「ところで、あなたは何級をお持ちなのですか?」
「あたし? そうだね……たぶん、三級くらいは取れるんじゃないの? 闇の力を借りてではあるけど、下級精霊の使役もできたしね」
予想外の返答にノーアとユーティアは目を丸くした。
そして何事か納得したノーアが言う。
「ミス・オードの予言は、確かに当たりそうです」
いざという時には彼女の魔力を解放して戦力にしようと考えていることを知り、イズンは鼻で笑った。
「ずいぶんとあたしは、信頼されてるようだ」
「信じてはいませんよ。ただ、頼りにしているだけです」
と、ノーアは訂正をする。
何も分かっていないユーティアだけが、置いてけぼりにされていた。




