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フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

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第15話 ミシュガーナとイズン

「頼もしい男たちに囲まれていながら、最高神の宿り主である自分を恨んだのか。そうして現実逃避をして、あんたは周りを傷つけた」

「はい、そうです」

「でもそのおかげであんたは今、とても幸せだ。それなのに、あたしの気持ちが分かると言うの?」

 それまで様子を見守っていたシルフが、おずおずと歩み寄ってくる。

「そんなのただの同情だよ。あたしはあんたみたいに恵まれてなどいないんだ。あんたはあたしが見てきたどの人間よりも傲慢だ! こんなものさえなかったら、あたしは今頃あんたを殺してるよ!」

 そう言ってブレスレットを外そうとするイズンの言葉に、ユーティアは微笑んだ。

「いいと思います、それで。イズンさんの気持ちは完璧に理解なんてできません。ですが、そうして他の人たちを傷つけている姿は、あの時のわたしと変わらないように見えます」

 イズンがはっとして動きを止める。

 仲裁《ちゅうさい》に入ろうと伸ばしかけた手を、シルフは引いた。

「自分の考えの中に閉じこもるのは簡単ですが、それだけでは見えないものもあるんです。他の人たちを受け入れることで、自分を変えていくことも出来るんですよ。

 ううん、世界を変えたいと思うなら自分がまず変わらなくちゃ」

 イズンの視界が歪んだ。頭痛がして頭を抱えたくなる。――違う、違う、自分はそんなこと……。

 力をなくし、イズンはその場にぺたりと座り込んだ。うつむいた瞳からぽたぽたと涙をこぼし、嗚咽を漏らし始める。

「うぅ……あたしは、変えたいなんて、ちっとも……っ」

 本当は変わりたかった。ユーティアのように他の人たちに愛される自分になりたかった。うらやましかった。

 シルフはイズンのそばに腰を下ろすと、そっと肩を抱いた。何も言わずに無言で抱き寄せる。その純粋な優しさがイズンの胸に痛いほど伝わってきて、もっと泣いた。

「あたしの気持ち、知ってるくせに……何で、優しくするのさ」

「どうしても放っておけないんだ、お前みたいなやつ。悪いな」


 その晩、いつものようにオードの屋敷へ帰った。館の主である少女とはあまり顔を合わせておらず、お互いに本当に住んでいるのか怪しいくらいだ。

 しかし今日は違った。

「シルフィネスから聞いたわ、イズン。お願いだから、扉を開けてちょうだい」

 扉の向こうから声がして、思わずびくっとした。車椅子の動作音は聞こえてきていたのに、いざ人の声がすると怯えてしまう。

 イズンは首を左右に振って立ち上がると、扉を開けた。

「何の用?」

 黒髪の少女はイズンの泣き腫らした顔を見て、大人びた表情を見せた。

「シルフィネスより幼く見えるわね、あなた」

「あたしを励まそうっていうのかい? いらないよ、そんなの」

 と、イズンは口にしたが拒絶の意思はなかった。

 それをミシュガーナは察し、車輪を動かして室内へ入る。

「あなた、すごく不器用みたいね。まぁ、ユーティアもあんな性格だから衝突するのも分かるけど、救われた身なんだから、新しく人生やり直そうとは思わないの?」

 適当なところで車椅子を止め、ミシュガーナはイズンを見た。

 椅子に腰かけたイズンは、彼女に横顔を向けていた。

「仮にもあんた、予言者だろ? あたしの未来を占ってみなよ」

「あら、知らないみたいね。私の予言は、悪いことしか見えないのよ? 起こりうるであろう事故や事件、それを回避する方法やヒントくらいしか見えないの」

「……じゃあ、あたしの未来はどうなのさ?」

「そうね、何も見えないってことは悪くないんでしょう」

 と、ミシュガーナは言った。しかし、すぐに何か気がついてはっとする。

「あ、だけど……イズン、ちょっと待ちなさい」

「何よ」

「あなた、シルフィネスのこと、気に入ってる?」

「は?」

 思わずそちらに顔を向けると、予言者は少し頬を染めて言った。

「私にとっては最悪の事態だわ……」

「ああ……あんた、あいつに惚れてるのか?」

 イズンが心を見透かすと、ミシュガーナは少し荒い口調で言い返す。

「惚れてるとか、そんなんじゃないわよ! 彼は私にとって必要な人っていうだけで……そ、それだけだわ」

 どうやらミシュガーナはまだ、それがどういうことなのかきちんと理解していないらしい。

 相手がまだまだ子どもであることを知りながら、イズンは意地悪に言った。

「でもあいつは、あの小娘に惚れてる」

「知ってるわよ、それくらい。だけど、もうあきらめたって言ってるし、私には関係ないわ」

「分かってないねぇ、あんた」

 イズンは呆れてため息をついた。

「どうしてそんなに頑ななのさ? もっと自分の気持ちに素直になって考えて――」

 ふと、天井を見上げて言い直す。

「ま、どっちでもいいわね。どうせ恋も愛も幻想に過ぎないんだ、自分に嘘をついていたいならそうすればいい。それにあんたは狭い世界しか知らないようだから、外に出てみればいくらでも変わるだろうしね」

 イズンのつぶやきに、少女は理解不能と言うような顔をしていた。しばらく考えてみるが、分かったのは後半の言葉だけだった。

「そうね、確かに私はもっと見聞を広めないと駄目だわ。外に出て、いろんな人と出会わなきゃ」

「……まったく、おかしな奴だね。これが予言者の素顔だなんて」

 イズンがそう返すと、ミシュガーナは顔を上げて彼女を見た。

「私は元々こういう性格よ。暗くなっててもしょうがないから、出来るだけ明るく努めてるの」

「そうかい。……というか、何を考えてるんだ、あんた――っ」

「え?」

「まさかそれ、予言なのか? あたしに関することって、それしかないのか?」

 戸惑い、顔をそらすイズン。

 その怯えたような姿に、ミシュガーナはぎこちなくうなずいた。

「ええ、そうよ」

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