第13話 特殊な能力
愛するギュスター様へ
イズンさんはとても意地悪な人です。最初はどう接したらいいか分からず、戸惑うばかりでした。でも、洋服や髪型、お洒落のことを話してみたら、わたしと変わらないことに気がつきました。イズンさんは少しひねくれているだけで、他は普通の女の子なんです。
わたしはイズンさんへ、以前プリンセスにいただいた髪飾りを分けてあげました。その時は迷惑そうにしていましたが、翌日からきちんと着けてくれていて、とてもうれしかったです。
それにシルフさんと話をする時は、とても可愛らしいんです。もしかしてイズンさんは、彼に恋をしているのでしょうか? ですが、彼にはミシュガーナがいるし……わたしはとりあえず、見守っていこうと思います。
そういえば、イズンさんの身元引受人になったのはシルフさんだと聞きました。詳しくは分かりませんが、イズンさんの住むところなども彼が用意したそうですね。お二人は学校の同級生だそうですし、イズンさんはやっぱりシルフさんに心を開いているのでしょう。
それでは、お仕事がんばってくださいね。
イザヴェル城のユーティアより
* * *
「私も心が読めたらいいのに!」
と、ミシュガーナは階段を下りてきたシルフィネスへ叫んだ。
「何だよ、急にでかい声出して……嫉妬してるのか?」
シルフは呆れたように言い返して、さっさと玄関へ向かってしまう。
ミシュガーナは車椅子を動かして彼を追った。
「当たり前でしょう? 私は確かに味方にしろと言ったけど、居候させろとまでは言ってないわ」
「だが、他に当てが無かったんだ。いい加減受け入れろよ」
「だからって、私の住む別館に入れることないでしょう?」
と、先回りして彼を立ち止まらせる。
じっとこちらをにらんでくるわがままないとこに、シルフはため息をついた。
「あいつの両親はな、あいつが家出したことにも気づかなかったんだぞ。数年前に引き取った養子の世話にかかりきりで、あいつの存在を無かったことにしていたんだ。だからあの家にはあいつの居場所はない。……分かるだろ? お前とは天と地の差だってこと」
そしてシルフはミシュガーナを避け、歩き出した。
「そのこと、彼女には――っ」
「言わなくても、もう気づいてる」
ミシュガーナは口を閉じた。玄関を出て行く彼の背中を見送って、車椅子を方向転換させる。
幼い頃は誰彼かまわず予言をして、多くの人々を困らせていた。両親はミシュガーナを別館へ追いやったが、それは娘の身を案じてのことだった。他人と距離を置くことで能力にきちんと向き合い、いい意味で予言を使えるように教育したのだ。
そのことを理解できるようになるまでは両親を憎んでいたが、今ではそれが愛情によるものだと知り、納得するとともに感謝さえしている。
「……シルフィネスは優しすぎるわ」
いとこが研究のためにミシュガーナを必要とするようになってからは、両親との接触も増えた。彼に押されて庭を歩いていると、時々両親が手を振ってくれる。それだけで、普段離れて生活していても家族であることを実感できた。
「でも、それで私にどうしろって言うのよ……?」
他人と違う特殊な能力を持って生まれた気持ちは分かり合えるかもしれないが、ミシュガーナはまだ自分から彼女へ近づこうとは思えなかった。
ユーティアはイズンに言われたことが響いたのか、図書室からエノータ派に関する本を借りてきていた。
真面目な顔で読みふけっている彼女を見て、イズンは罰の悪そうな顔をする。
「まったく、本ばかり読んでいったい何になるって言うのさ」
読み終えても再び初めから読み直し、納得行くまで読み込むユーティア。この数日間、ずっとそうしている彼女がイズンにはむずがゆく、理解不能だった。
「何も知らないよりはマシだと思うが?」
シルフィネスはユーティアの横顔から隣にいるイズンへと視線を移した。
「ああ、そう」
と、冷めた返事をするイズン。
「あんた、さっさと上級精霊と契約したらどうなの? アデュートールにプレッシャーかけられてるんでしょ」
「な……急に何だよ。俺にも事情があるんだ、そう簡単に覚悟は決められない」
少しむっとした様子でシルフは言った。
「じゃあ、あんたはただの便利屋でいるつもりかい? 他の三人のように、確かな戦力になろうとは思わないの?」
「俺だって、すでに十分な戦力になってるさ」
「強がったって無駄だよ。あんたは運と勘がいいだけで、実力は基本的な二級魔法使いの域を越えていない。それは自分から越えようとしていないだけだ。
上級精霊を操ることが出来れば、本当の意味で魔法使いになれるのに、それをしようとしないから、あんたはいつまでも便利屋なんだよ」
シルフは押し黙った。ナイフを使った近接戦を得意としているが、それは自身の身体がそのスタイルに向いているだけだ。自分より上手い戦い方をする者はたくさんいるし、魔法においても同じだった。
「凡人から抜け出したいのなら、さっさと契約しておしまい」
イズンの一言が思うよりも胸に重く響く。
ため息をついてごまかし、シルフはうなずいた。
「ああ、そうだな」




