第11話 イズン・ノッド・セアーズ
「予言者がそう言ったなら仕方ないねぇ」
黒ずんだ赤毛を手で梳きながら、イズンはつぶやいた。
檻の前に立ったノーアとダリウス、ギュスターを見上げて当然のように心を読む。
「でも、あたしなんかを味方にして大丈夫なのかい?」
「その点は心配ありません。しばらくあなたには見張りをつけさせていただきます」
「ふぅん。でも、あたしが逃げ出さない保証は無いだろう? もしかすると隙を突いてあんたたちを殺してしまうかもしれない」
すると反射的にダリウスは口を開いた。
「でもシルフは殺せないだろ?」
思わずむっとして口を閉じるイズン。
ダリウスはそれを見て、したり顔を浮かべた。
ノーアとギュスターが呆れ顔を彼へ向けたところで、イズンは口を開く。
「それで、あたしを使って何をしようっていうの? エノータ派との戦いにあたしの力を利用しようって? それであんたらは得をするかもしれないけど、あたしには何の利益があるのさ?」
「外へ出られます。協力していただければ罪を無かったことにしてもいいですし、ある程度の期間が過ぎれば自由にもなれるでしょう」
「ふん、そんなの興味ないね。だったらあたしは一生、ここで暮らすことを望むわ」
イズンの強い意志を見て取ったノーアは、すると檻の鍵を外し始めた。
「しかし、これは決定事項です。ミス・オードの予言は当たりますからね」
がちゃりと扉が開かれても、イズンは立ち上がらなかった。
仕方なくノーアは手を伸ばし、彼女の手をつかんで立ち上がらせる。
「あなたに拒否権は無いのです」
「……ふん、それくらい知ってたさ」
と、イズンはしぶしぶ外へ出た。
ハティの前を通り過ぎる時、イズンは短く声をかけた。
「お先に失礼するよ、ハティ」
男たちに連れて行かれていく彼女を、ハティは黙って見えなくなるまで見送った。
翌朝、ユーティアはひどくうろたえた。
「あ、あの……お、おめでとうと言うべきなのでしょうか? それとも、初めましてと言うべきでしょうか? あ、いえ、そんなことよりまずはえーと、自己紹介を――」
「ユーティア、落ち着け」
「は、はい……っ」
ダリウスにぽんと肩を叩かれて、ユーティアは口を閉じると深呼吸をした。
「で、そんなわけだから社会復帰のために、ユーティアにはイズンと友達になって欲しいんだ」
と、ダリウスは手にした鎖を持ち上げて見せた。その先にはイズンがつながれている。何かしようとしても阻止できるよう、初めの三日間はこの状態だと言われていた。
「あたしは何もしないよ。こんなものまではめさせられてるしね」
そう言ってイズンは左手首にはめたブレスレットを見せた。銅で出来たそれには虹色に光を反射する魔宝石が取りつけられている。魔法を使わせないための抑止装置だ。
「あ、シルフさんが昨日調整してたやつですね!」
と、ユーティアが口にすると、イズンはわざとらしく顔をそむけた。
さっそく不機嫌になったイズンを見て、ダリウスは困った様子で頭をかく。ノーアの提案により決まったユーティアとの対面だが、この様子では先が不安だ。
「友達いないんだから、ちゃんと仲良くしろって。じゃないと、女としてもったいないぜ?」
と、ダリウスは鎖を手繰り寄せてイズンをそばへ置いた。
「そうですよ、イズンさん。小さくて可愛らしいんですから、もったいないです!」
と、ユーティアも後押しをする。
イズンはため息をつくと、ユーティアの瞳をじっと見つめてまくし立てた。
「怖がるのは勝手だけど、あたしは仕方なく協力してやってるだけだよ。あんたみたいな幸せ者と仲良くする気なんか少しもないし、仲良くしてもらおうとも思わないね。
だいたい、あんたは素直すぎるんだよ。もう少し自分で物事考えたり、行動してみようとは思わないの? それとも、お姫様のように扱われている現状に満足してるから、何もしようとしないだけかい?」
「……そ、そんなことないです。わたしだって、出来ることがあるならしたいです」
「じゃあ、出来ることが無いから何もしないってわけかい? ふん、まだまだお子様だね」
言うだけ言ってすっきりしたのか、イズンは椅子を引くとそこへどさっと座り込んだ。
「まったく、こんな小娘が最高神の宿り主だなんて、笑わせるねぇ」
ユーティアは唇を震わせ、両目にじわりと涙をにじませた。相手が自分より年上なのは分かるが、好き勝手に言われて傷つかずにはいられなかった。
ダリウスもその様子には気づいていたが、イズンは元々ひねくれた性格だ。それを理解していないと、彼女とは上手く付き合っていけない。
「分かりました。わたし、もっと頑張りますっ」
「何を?」
と、顔も向けずに問うイズン。
その意地悪な態度にもかまわず、ユーティアは言った。
「わたしに出来ることを探します。それで、やるだけやってみます。駄目だったら他のことを――」
「だから素直すぎるって言ってるんだよ。人の言うことを真に受けてどうするんだい? それが本気かどうか、たとえよく知らない相手でも疑ってかかるのが普通でしょう?」
イズンはそう言ってユーティアを見た。
「え?」
「疑って、吟味して、自分にとってその言葉をいい方向へとらえないと、あんたはいつまでも根暗なままだよ」
「根暗……」
今度は頭が真っ白になった。そんなことを言われたのは初めてだったのだ。しかも相手の言うことはすべて図星にしか思えず、ユーティアの胸はずきずきと痛むばかりだ。




