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フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第2章 フリーアの娘とエノータ派

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第10話 最大の愛情表現

 后には見透かされていたようだ。

「おもしろかったわね、あの王子の顔。シルフィネスも見たでしょう?」

 と、ミシュガーナは彼を見上げた。

「そんなことは言ってやるな、相手に知られたらどうなるか分かったものじゃない」

 冷静な口調でそう返しながら、シルフは彼女の乗っている車椅子をユーティアの座っているソファ近くに止めた。

 それから自分もソファに腰を下ろし、そわそわしているユーティアへ言う。

「さっきはああだったが、国王陛下はノーアには一目置いているから大丈夫だ」

「そうなんですか?」

「ああ。しかも彼は一級魔法使いだからな、いくら何でも無下にはしないだろう」

 その言葉を聞いてユーティアはいくらか落ち着きを取り戻し、ミシュガーナへ顔を向けた。

「それにしてもすごかったわ、ミシュガーナの演技!」

 紅茶へ手を伸ばしていたミシュガーナはそちらに視線をやると、満足げな顔をした。

「そうでしょう? 私も自分で意外なくらい、完璧な演技だったと思ってるわ」

「うん、完璧だったわ。プリンセスに頼まれた時はどうなるかと思ってたけど、成功してよかった」

 にこにこと無邪気に笑うユーティアをそれとなく見つめながら、シルフィネスはメイドの用意してくれた紅茶を一口飲んだ。


「いいのですか、あんなことしてしまって」

 ノーアは珍しく困った笑顔を浮かべていた。

 見合いから解放されたクランベリーはいつもの調子を取り戻して、大好きな彼へ微笑みかける。

「うん、いいの」

 夏の日差しが差し込む室内で、外見とは裏腹に大人びた思考を持つ少女はソファへ腰かけた。頭につけた華やかな髪飾りを手で外し、何も言わずに佇んでいる彼へ言った。

「だって、あれくらいしないとずっと一緒にはいられないでしょう?」

 ノーアははっとしたが、顔には出さなかった。彼女の想いは、自分が想像していたよりも深いものだったらしい。

「ぼくね、ノーアとじゃないと結婚したくないんだ」

 クランベリーは髪飾りをしばらく見つめてから、そっと脇へ置いた。日差しを反射してきらりと光るそれに両目を細める。

 国王と后は別室で休んでいた。別れ際に国王が小さくささやいたのを、ノーアはきちんと聞き取っていた。

『魔法使いと王の仕事はまったくの別物だぞ』

 その口調に責める響きはなく、ただ忠告をしただけのようだった。

 一級魔法使いになってから国王と直接顔を合わせることも増えたが、それだけノーアは彼に評価されていたのだと今では実感できる。

 一つ息をついて、ノーアは踏み出した。

 こつ、こつ……足音を響かせながら愛しい人の前へ来て、立ち止まる。

 おもむろにその場にひざまずいたノーアは、クランベリーの左手を取った。そっと甲に口付けてから、まだ幼い彼女の顔を見つめる。

「プリンセス・クランベリー、あなたが望んでしたことを後悔せずに済むよう、私があなたを守りましょう」

「ノーア……」

 丸い目がやんわりと細められ、いつもの明るく優しい微笑みを作り出す。

「違うよ、ぼくもノーアを守るから」

 にっこりと笑ったまま、そう告げるクランベリー。

 ノーアも彼女へ微笑みを返し、少し腰を浮かせた。彼女の脇に手を置き、もう片方の手を華奢な頬へ添えると、驚く彼女の唇へキスをする。――これまでずっと我慢してきた、最大の愛情表現だった。


   *  *  *


「ねぇ、アルバライト。もうこれ以上やっても、意味なんか無いんじゃないの?」

 灯りの中で炎が煌々(こうこう)と燃えていた。

 手にした一通の手紙を、アルバライト=オーフェはその辺に投げ捨てた。封筒さえもぐしゃりと握りつぶし、弟めがけて投げつける。

「そう思うなら、何故こんな時間にやってくる?」

「それは……」

 口ごもったティースは、足元に落ちた封筒を拾い上げた。それを両手で広げてから、数歩進んで手紙を拾い上げる。

 短い手紙だった。それでもティースからしたら、彼とのつながりを感じられる大切なものだ。

「準備はもう始まっている。今さら後に引くわけには行かないんだ」

「……うん」

 アルバライトは席を立つと、そっとティースへ近づいた。やわらかい栗毛を優しく撫でて、にこりと微笑む。

「俺にはお前が必要だ。お前だってそうだろう、ティース?」

 左目を隠すように長く伸ばされた前髪は、ティースを嫌な気分にさせる。それでも兄に逆らうことは許されなかった。

「うん、そうだね……」


   *  *  *


 青年たちが目の前を通り過ぎていく。ここ最近はただ過ぎていくばかりの毎日だったが、ようやく変化が訪れるらしい。

 黒い瞳をぎらつかせながら外の様子に耳を澄ましていたハティは、遅れてやって来た少年の腕へ手を伸ばした。

「何があったんだ?」

「っ、離せ……!」

 びくっとして白い腕を振り払うギュスター。

 ハティはなおも問いかけた。

「お前たちがまとまってここに来るのは初めてだ。何かあったんだろう?」

「しつこいな、お前に教える理由は無い」

 と、ギュスターは逃げるようにして仲間の後を追った。

読んでいただき、ありがとうございます。

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