第4話 政治家のアデュートール
朝食を終えて間もない頃、部屋に来客があった。
「ミシュガーナ!」
久しぶりに会う友人にユーティアはぱっと顔を明るくする。
車椅子を操りながら、ミシュガーナはにこっと笑みを返した。
「お久しぶりね、ユーティア」
「うん、久しぶり! 体調はどう?」
「平気よ。でも、今日はみんなに話があるの」
と、ミシュガーナはユーティアのそばに控えていたメイリアスへ目を向ける。
「あとの二人、連れてきてもらえるかしら?」
「はい、かしこまりました」
メイリアスは返事を返すと、すぐに部屋を出て行った。
いつものようにミシュガーナの世話役となっているシルフィネスが椅子をどかし、そこへ彼女を着かせる。
「また、何か悪いことでも?」
と、ダリウスがシルフィネスへ問うと、彼は首を振った。
「さあな」
本当は、予言者であるミス・オードがいい知らせを持ってこないことくらい、とうに分かっていた。特に関係者を集める時はそうだ。
ミシュガーナの隣へ座ったユーティアを見て、ダリウスも椅子を引いた。その隣にシルフィネスも腰を下ろす。
やがてノーアとギュスターがそろうと、黒髪の少女は神妙な面持ちで口を開いた。
「まず始めに注意しておきますが、以前のように一刻を争うことはありません。ですが、くれぐれも気は抜かないでください」
四人はそれぞれに真剣な眼差しを彼女へ向ける。
ユーティアもまた、ミシュガーナの言葉に耳を澄ました。
「人と人との……いえ、精霊と精霊との戦いが始まりますわ。おそらく、季節が春へ変わった頃に」
何を意味するのか思考しようとして、ノーアはやめた。問わなければならない現実はすぐそこにあったが、彼女の言葉を肯定することになると思ったのだ。それはノーアにとって、あまり好ましいことではなかった。
「それは、エノータ派のことを意味しているのですか?」
と、特に考えもせず、ギュスターは質問を投げかけてしまう。
するとミシュガーナがうなずく前にシルフィネスが補足をした。
「俺たちの追っているエノータ派に禁忌が隠されているということか? それとも、精霊の世界を巻き込む何かが?」
「おそらく、そうでしょうね。ですが、詳しいことは分かりません」
と、ミシュガーナはノーアを見つめる。
その視線を受けて、特別神衛部隊の隊長は冷静に返した。
「ありがとうございます、ミス・オード。どうやら私たちのしていることは、無駄にならずに済みそうです」
「そもそも、精霊って何なんですか?」
ミシュガーナを送りに行った三人の背中を見送り、ユーティアはたずねた。
「わたしたちとは違う世界に生きていると言いますが、それってどういうことなんでしょう?」
「うーん、オレもそんなに詳しくないからなぁ……」
と、ダリウスはうなり声を上げ、ユーティアの胸元に見える魔宝石のペンダントを見つめる。
精霊について知らされていることは少ない。特に魔法使いでない者からしたら、その存在が理解できなくてもおかしくはなかった。
「とりあえず、オレたちの生きている世界の、ちょっと上の方にあるのが精霊の住む霊界だって言うな。そこにはオレたちと同じようにそれぞれの国があって、暮らしがあるらしい」
「精霊にも知能があるんですよね」
「うん、そう。でも、精霊は人間と契約する。それで何が変わるのかオレは知らないけど、そうすることで精霊の方にも何かしらのメリットがあるんだろうな。じゃなかったら、わざわざこっちの世界になんか来ないだろ?」
ユーティアはこくりとうなずいた。
「あとはー……うーん、話せるのはここまでだな。ぶっちゃけ、ノーアに聞くのが早いと思うよ。オレなんて精霊に契約を拒否されたしな」
と、ダリウスは自虐的に笑った。
「そうなんですか?」
「四級から三級になるには、下級精霊との契約が必須になってくるんだよ。で、契約しようとしたら力がないから駄目だって言われたんだ」
「精霊って、実はわたしたち人間よりも高等な生物なのでしょうか?」
ふと思いついたことを口にしたユーティアに、ダリウスははっと表情を変える。
「うわ、マジかよ。だったら拒否されて当然だな。あの時はオレ、精霊を下僕みたいに思ってたし」
半分冗談で言った彼を見て、ユーティアはくすっと笑った。彼の実体験と照らし合わせて考えると、意外と事実に近いのかもしれないと思ったからだ。
ふとユーティアはため息をついた。
「でも、やっぱりそうなっちゃうんですね……」
「何か問題でもあるのか?」
聞き返す彼へユーティアはたずねる。
「ダリウスさんは、ノーアさんのお兄さんのこと、知ってますよね?」
「ノーアの兄貴? ああ、アルバライトか。そういや、プリンセスから注意しとけって言われたなぁ」
と、のんきに言うダリウス。
ようやく話がつながったのか、ダリウスはユーティアへ顔を向けた。
「ユーティアは納得しないかもしれないけど……政治家のアデュートールは、ろくでもない人間だぜ?」
「え、そうなんですか?」
「オレの聞いた話によると、弟に嫉妬しまくって家では暴れまわってたとか。他にもよくない噂ばっかりで、それが嫌なのかノーアは家に帰らなくなりましたっていうオチまであってさ」
憧れていただけあって、ダリウスは当時のことに詳しかった。
しかしユーティアが次にたずねたのは、ダリウスにとって予想外のことだった。
「ノーアさん、お家に帰ってないんですか?」




