第3話 歴史ある宗教
「禁忌について話せって? 馬鹿じゃないのか、お前」
ハティは鼻で笑った。
「だいたい、いつまで閉じ込めている気だ? さっさと解放するか死刑にしろ。このままでいるのはごめんだ」
と、ギュスターをにらむ。
しかし相手は動じなかった。
「そうだな、これまでも有益な情報は何一つ話さなかったしな。だが、禁忌の法を手に入れるには誰かと関わる必要があるはずだ。名前までは聞かないから、どこで手に入れたのか言え」
「……言ってもいいが、お前には言いたくない」
「何故だ?」
「馬鹿そうだから」
ハティは真面目な顔をしていた。どうやら、からかっているのではなく、純粋に相手がギュスターでは不満だということらしい。
「……分かった、他の奴に――」
「アデュートールを出せ」
ギュスターは彼をにらんだ。じっとにらみ返してくるハティは、両翼を火あぶりにされただけではこりないようだ。
「……分かった」
すぐに檻へ背を向け、ギュスターは歩き出す。
「で、お前はサボりに来たのか」
シルフィネスにそう言われて、ギュスターはむっとした。
「そうじゃない、ノーアに言われて来たんだ」
ユーティアの部屋で彼女と読書談義をしていたシルフィネスが腰を上げた。
「何を言われたんだ?」
「……シルフにこれを、と」
と、ギュスターは手にした本をシルフィネスへ手渡す。
「これは……、相手がノーアでなければ怒ってるぞ」
と、シルフィネスは苦い顔をした。
それは上級精霊についての教本だった。すでに魔法使いであるシルフィネスからしたら、わざわざ読むほどのものではない。
ギュスターも薄々そのことには気づいていたのか、微妙な顔をした。
「文句なら彼に言ってくれ。俺はただ頼まれただけだ」
「そうか……まあ、いいだろう」
と、息をつくシルフィネス。ノーアの意図することが透けて見えるだけに、受け取らないわけにいかなかった。
彼はよほど自分に期待してくれているらしい。確かに考えるとは言ったが、こんなことをされるとプレッシャーだ。
それまで彼らの様子を見ていたユーティアは、何を思ったのか二人の方へやってきた。
「どうしたんですか、シルフさん」
「あ、いや……」
と、言葉をにごすシルフィネスだが、その手にある本を見たユーティアははっとひらめいた。
両目をキラキラと輝かせ、シルフを見上げて問う。
「上級精霊ってことは、一級試験、受けるんですか?」
「ノーアに言われているだけで、俺にはそんなつもりはない。悪いな」
あっさり否定し、元いた席へ戻るシルフィネス。冷めた態度だが、ノーアの前では絶対に言えないことだった。
そんな彼に不満を覚えるユーティアだが、彼に言葉をかける代わりにギュスターへ問いかけた。
「でも、あのノーアさんに言われるってことは……」
と、恋人に視線をやる。
「そうだな、実力を認められたんだろう」
「……もったいない」
心なし気落ちした様子の婚約者に、ギュスターは口元をゆるめてみせた。
「気にするな。どうせノーアも思ったほど期待してないさ」
と、優しく彼女の肩を叩いて励ます。
エノータ派の教会は国内に数箇所あるだけで、世界的に見ても影響力の少ない宗派だった。歴史は古く、最高神アルファズルより先に人々から信仰されていたともされており、問題のある宗教ではあるが容易に手を出すことの出来ない組織だ。
「悪神とされているローズルも、ただ最高神と敵対してるってだけですしねぇ」
「だからこそ、エノータ派は悪ではないんです」
さらさらと報告書を書くノーアを見て、ダリウスは言った。
「犯罪すれすれのことはしてきたのに?」
「仮に指導者が大罪を犯しても、無関係の信者たちまで罰することは出来ませんから」
「なるほど」
結局、歴史ある宗教を真っ向から否定したり、排除したりといったことは出来ないらしい。
ダリウスは机に頬杖をつくと、ため息をついた。
「危険因子を全部排除できればいーんだけどなぁ……」
ノーアは顔を上げなかった。
ハティから聞き出せたのは、彼がとある礼拝堂でエノータ派の集会に参加したことだった。そこで彼は禁忌の法を見つけたのだと言う。それが真実なら、エノータ派が闇魔法に関わっていた可能性も十分に考えられた。
「これから向かっていく方向が定まっただけ、いいと思いますよ。特にダリウスは、ここのところ退屈していたでしょう?」
と、筆を置いたノーアはからかうような笑みを浮かべてダリウスを見た。
「さっそく明日からは、メイリアスではなくエノータ派を追いかけるようにしてくださいね」
「っ……わ、分かってますよ」
と、ダリウスは気まずそうに視線をそらした。




