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フリーアの娘〜最高神を宿した村娘が特別部隊に守られて役割を終えるまで〜  作者: 晴坂しずか
第1章 フリーアの娘と闇魔法

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エピローグ2

「ようやく終わったみたいね」

「いや、まだすべて片付いたわけじゃない」

 魔宝石を取り替えたばかりの車椅子で、ミシュガーナは庭を散歩していた。

「ユーティアの安全がちゃんと保障されるには、まだまだ時間がかかるだろう。現在捕らえられている闇魔法の奴らの処分も、まだ決まってないしな」

 と、隣を歩いていたシルフは返した。

「それでも、もう忙しくはならないんでしょう? よかったじゃない、シルフィネス」

 ミシュガーナがそう言うと、シルフは呆れたように鼻で笑った。

「そうだな。もうお前の予言を聞くこともなくなるだろう」

「それは私にとってもありがたいわね。もうお城に行くのは嫌だったの」

 と、少し生意気に返せば、シルフが呆れた顔をする。

「今さらだが、本当にお前って可愛くないよな」

 ミシュガーナは笑って彼を見上げた。

「そうかしら? シルフィネスだって優しくないわ」

「……あのなぁ」

 いつの間にか長くなっていた日が二人を見下ろす。

「そういうことじゃないだろ。お前はまだ子どもなんだから、もっと子どもらしくしろよ」

「いいじゃない、別に」

 ミシュガーナは速度を上げたが、シルフは追うこともせずにそのうしろ姿をながめる。庭の木々を風が通り抜け、彼女の髪を揺らした。

 そしてシルフがため息をつくと、車椅子が唐突に方向転換してこちらを向いた。

「でも私は、そんなあなたも好きよ!」

 思わず足を止めたシルフに、ミシュガーナは無邪気に微笑む。足元を過ぎたそよ風に、車椅子はまた前方を走りだしていく。

「……おい、ミシュガーナ!」

 我に返ったシルフはすぐにその後を追って走り始めた。

 彼女が大人びた表情を見せる一方、自分に対しては生意気で可愛くない子どもになるのも、シルフはすべて知っているつもりだった。だが、予言者である彼女には加えてどこか、人より成長の遅れた部分があるらしい。

「何、シルフィネス」

「あんまりはしゃぐと疲れるぞ。それにもうじき夕方だ、そろそろ戻ろう」

「そうね。でも、まだ帰りたくないわ」

「は? 何でだよ」

「私のこと、可愛いって言ってくれたら、帰ってもいいわよ」

 シルフは車椅子を捕まえて、無理矢理方向を転換させた。しかしミシュガーナはこちらを見上げて待っている。

 呆れてため息をついた後、シルフは言った。

「お前は可愛いよ、憎たらしいくらいにな」


「はい、ギュスター」

 と、ユーティアは、病室で静養を続けているギュスターへ数冊の本を手渡した。

「シルフさんが、お前はもっと魔法について知るべきだって」

「は? どういうことだ?」

 ギュスターはあからさまに嫌悪の表情を浮かべた。

 ベッド脇の椅子に腰を下ろしたユーティアは言う。

「わたしにもよく分からないの。でもシルフさんが言うには、契約を交わしたなら最後まできっちり責任取れって」

「……意味が分からないな」

「それとノーアさんも、契約は一度したら二度と取り消せない、永久的な物だって言ってたわ」

 彼らの言葉を理解出来なかったギュスターは、渡された数冊の内、一番上にあった本を手に取った。

「まあ、どうせやることもないんだからいいんじゃない?」

 そう言ってユーティアは椅子を立ち、棚の上の花瓶に手を伸ばす。

「お水、入れ替えてくるわね」

 ぱたぱたと部屋を出て行く音がし、ギュスターはぱらぱらとページをめくる。難しい文章の羅列《られつ》にすぐ飽きてしまったが、ふと本の最後に手紙が挟まれていたのに気づいた。

『どうやらお前は最高神と契約を交わしているらしい。死なずに済んだのもそれが理由だろう。契約の儀式については百十二ページ参照。』

 シルフからの物であるとすぐ分かったが、ギュスターは首をかしげた。契約なんてまったく身に覚えがない。

 ギュスターは詳しいことを知ろうと、そこに書かれていたページを開いて見た。

「植物って素敵よね、目で見るだけで体調が分かるんだもの」

 と、戻ってきたユーティアは花瓶を元の位置に戻す。

 それから椅子に腰を下ろしたユーティアに、ギュスターは本を閉じてたずねた。

「なあ、俺……ユーティアの血を舐めたことって、あったっけ?」

 ユーティアは怪しむ様子もなく答えた。

「血? ああ、そういえば、そんなこともあったわね。確かあれは、わたしが十二歳の時だったかしら」

 ギュスターの顔が心無し青ざめていく。

「わたしが小さい子たちに果物をむいてあげようと思って、ナイフで指を少し切っちゃったのよね。そしたらギュスターが、恥ずかしげもなく……」

 言いかけてユーティアは目をそらした。

「あ、あの時、わたし、すごく恥ずかしかったんだからね! みんながいる前で、本当に自然に、ゆ、指、舐められて……!」

 そして互いに気まずい沈黙が訪れる。まさか幼い頃の些細な出来事が、こんな結果につながるとは思ってもみなかった。

「そ、そうだったな。ごめん、ユーティア」

「別に、今はもう、いいけど……」

 と、ユーティアは言うが、その顔はうつむいたままだった。

 ギュスターはごまかすようにに再び本を開く。

 ユーティアは気を紛らすように窓際へ向かった。まだ太陽は傾き始めたばかりだ。

「でもギュスター、何でいきなりそんなことを?」

 と、ユーティアは彼を振り返る。

「ああ……なんとなくだ。気にするな」

 シルフの言いたいことがよく分かった。――契約は二度と取り消せない、取り消してはならない。

「そう言われると、気になっちゃうわ」

 彼女と彼女の中に宿る最高神を守るのは、自分だけだということ。

「お前は知らなくていい。どっちにしろ、この事実は変わらないんだから」

「何それ、どういうこと?」

 不満そうに首をかしげる彼女に、彼はふっと微笑んだ。

「俺たちは一生離れられない、ってことさ」

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