第42話 闇魔法の使い手
本部へ戻る途中だった。今夜は何か様子が変だと気付いてはいたものの、まさか自分が狙われるとは――。
「よくそんな大勢で城に入ってこられたな」
前方を塞ぐ数十人の人々をにらみつけながら、ギュスターは剣の柄に手をかけた。
「……」
まったく、東棟は軍の本部だろうに、何故こいつらを止められなかったのだ。
否、貴族の振りをして城へ入りこみ、衛兵たちをかわしてやって来たのか。武器を持っている者もいるが、多くが魔法の使い手だと分かる。もちろん闇魔法の、である。
敵意を向ける人々にギュスターは意識を集中させる。しばらくにらみ合いが続いた後、最初に行動を開始したのはあちら側だった。
ノーアとダリウスの魔宝石が同時に青く発光し、二人は顔を見合わせた。
「これは、ギュスターですね」
夕食の後片付けでメイリアスは部屋を出ていた。
心配そうな顔になるユーティアを見て、ノーアが指示を出す。
「ダリウスは念のためここにいてください。私が行ってきます」
と、すぐさま部屋を飛び出して行く。
ユーティアは彼を見送って、困惑するような様子を見せた。
ダリウスはそんな彼女に顔を向けて言った。
「そんなに心配するなって。あいつのことだから、闇魔法に遭遇してもすぐ返り討ちにするだろ」
彼女の気を紛らわせようと軽い口調でそう言ったが、内心ダリウスも胸騒ぎを感じていた。
「とにかく待とう、ユーティア」
うつむいたユーティアは、ただ首を縦に振った。
次々に襲いかかってくる敵を剣で薙ぎ払う。魔法はすべて避けていたが、じきに避けられなくなるだろう。
「ラティ・ノート」
「グレイプニル・ノート」
「スヴィティ・ノート」
こちらへ向かってくる紐と岩を、ギュスターは敵を盾にすることで防ぐ。隙を作る間もなく他の敵へ攻撃を返し、振り下ろされた斧をギリギリで避ける。
「グローイ・パース」
相手が闇ならこちらは光、と、ギュスターは手にした剣に光属性を付加する。一時的に強くなったそれで数人を一気に切り捨てたが、その数はまだ多かった。
「ロギ・ノート」
「ラーグ」
飛んできた火の玉をとっさに水でかき消す。基本的な魔法なら使えたが、やはりこの戦闘は不利だ。それでもギュスターは、自尊心を捨てなかった。
「グレイプニル・ノート」
しつこく向かってくる敵を振り払い、まっすぐに伸びてくる黒い鎖を避けようとして――その存在に気が付く。
「!」
背後から投げられた小形のナイフ。避けきれず利き腕を直撃した直後、前方から黒い鎖が身体を拘束してくる。抗うこともできずに床へ伏せたギュスターは、ついに剣を手放してしまった。
「くっ……」
隙だらけになったギュスターに、闇魔法の使い手たちが攻撃を加え始めた。少しでも痛手を抑えようと頭を抱えたが、魔法使いでない自分にこれ以上身を守る術はなかった。
「――ギューフ・ニーズホッグ、ギューフ・フギン!」
徐々に遠ざかりかける意識の中、聞き慣れた声がする。緑色の蛇と大きな鷹が自分の周りから敵を離し、ギュスターは目を開けた。
「大丈夫ですか、ギュスター」
やがて二匹の幻獣は消されたが、一級魔法使いの登場に相手は少々怯んだ様子だった。
「ウル・イス、グローイ」
と、ギュスターの腕からナイフを抜き取って傷口を癒す。ギュスターは苦痛をこらえながら再び立ち上がるが、短時間で大量に受けた痛手のせいで足元がおぼつかない。
勇敢に攻撃を再開し始めた数人をノーアが炎で制し、ギュスターへこの場から遠ざかるよう目でうながす。しかしギュスターは聞かなかった。
「まだ、やれます……っ!」
「駄目です、ここは私に任せてください」
負けず嫌いのギュスターだからこそ、今のように強くなれたのだろう。しかし、今回ばかりはそうも行かない。どんなに回復魔法を使ったとしても、体力に限界が来ているのは目に見えていた。
「ベルカナ・カーリ」
ふいに突風が吹きぬけ、敵を翻弄する。足音の響く方を振り返ると、シルフが遅れてやってきた。
「何ですか、この状態は」
と、合流したシルフは二人へ問うが、ノーアは言った。
「それよりもまず片付けましょう。ギュスターはもう何もしないでいいですから」
その言葉にギュスターは悔しくなるが、大人しく口を閉ざした。
ますます怯んだ敵にノーアとシルフは同時に魔法を唱える。
「ウル・レーヴァ」
「グローイ」
避けようとして慌てふためく人々を強大な光が包んでいく。それが鎮まっても、まだ数人の使い手が立っていた。
「ベルカナ・ラーグ」
「ノルズリ」
量を増した水の流れが敵を翻弄する。役目を終えた水が消えていくと、ようやく騒ぎは収まった。一人で相手するにはきつい人数だったが、一人一人の実力は平均的なものだったらしい。
ギュスターが床に片膝をつく。
「これだけの数を一人で相手にするなんて、無謀です」
と、ノーアはまたギュスターに回復魔法を唱えたが、まだ体力を回復するには至らない。
「……っ、すみません」
シルフは倒れた人々を見まわしながら思考していた。――盾であるギュスターが狙われたということは、やはりイズンの言うことは本当だった。そうすると、ギュスターが一時的でも力をなくした今、次に来るのは……。
三人の魔宝石が黄色く光った。
「これは罠だ!」
シルフが駆け出し、ギュスターもはっと立ち上がる。ノーアは二人を交互に見た後、ギュスターへ言った。
「後から、応援に来てください」
そしてシルフの後を追って走って行く。




