第41話 失われた古代魔法
シルフが仕事に復帰してくれたおかげで、すっかり元通りになっていた。
「あのペンダントのことだけどな、今の魔宝石は三代目なんだ」
メイリアスとの会話に夢中になっているユーティアを見つめながら、シルフはふと言い出した。
「は?」
「ハティに襲われた時、彼女にペンダントを取られただろ? その時、床に落ちた衝撃からか、石は完全に割れていたんだ」
「……それは初耳だな」
と、ギュスターは複雑な気分で返す。
「でも、いつ修理したんだ? あの時はそんな時間なかっただろう」
「ああ、お前たちが怪我の治療を受けている間にな」
あいかわらず淡々とした口調で言うシルフに、ギュスターは思わず首をかしげた。
「お前、あの時怪我しなかったのか?」
「少しはしたさ。ただ治療が早く済んだから、お前たちを待っている間にペンダントを直しておいたんだ」
うらやましくもある行動力に、ギュスターは苦笑いを返す。
「あいかわらずちゃっかりしてるな、シルフ」
するとシルフは彼に目を向けてたずねた。
「それは褒め言葉か?」
「まあ……どちらかというと、な」
あれ以来、ギュスターは素直に言葉をかけられるようになりつつあった。シルフもギュスターに対する見方を変えたようで、軽い冗談も言えるようになっていた。
「そうか。だが正直、お前に言われてもうれしくないな」
以前の二人であれば、どちらかが会話の途中で黙り込んでいたはずだが、今は違う。
「じゃあ、さっきのは皮肉にしておこう」
と、ギュスターは口元をゆるめ、シルフも笑った。
「はは、その方がお前らしいかもな」
「とりあえずの問題は解決しましたが、心配ですね」
本部で書類に目をやっていたノーアはふいにつぶやいた。
机でうとうとしていたダリウスは、はっとして聞き返す。
「どういうことですか?」
「闇魔法の彼らについてですよ。目的も組織の構成も、まだそのほとんどが推測の段階でしかありません」
「ああ、一番情報を持ってるはずのハティさえも、何も吐かないんですもんね」
「次が最後になるのか、はたまたまだ続くのか……とりあえず太陽の上がっている時間にこちらを襲うことは考えにくいですね」
ダリウスは机の上に重なった資料の束を見てうんざりする。
「あのハティが夜に来たとなれば、次も夜か。魔法使い並みに強かったら、マジで洒落になりませんね」
「そうですね。しかしハティは、検定で測ると三級にはなるでしょう。つまりそれ以上の者が来ることは間違いありません」
「マジですか。それじゃあ、やばいですね」
「やばいですよ、本当に」
ノーアは苦い顔で言ったが、ダリウスは構わずにあくびを漏らした。
「せめてもの救いは、シルフが戻って来てくれたことでしょうか。あのままでは戦闘になった際、確実に不利でした」
ダリウスは眠気を押し殺しつつ、シルフのことを思い浮かべて言った。
「それと、ギュスターとの仲が前よりよくなったことですね。この様子なら、ちゃんと協力し合える」
「ええ、そうですね」
以前から彼らの仲があまりよくないことを二人とも心配していた。いつかは打ち解けてくれることを願っていたが、実際にそうなると何となく複雑である。
「だいたいにして、ギュスターが素直じゃないから駄目だったんですよ。シルフも優しくないから、あいつには何も言わないし」
「それが突然仲良くなるなんて、まったく不思議なものですね」
しかし、この結果が悪い方向へ転ぶことだけはないと予感していた。ノーアとダリウスは目を見合わせて確かめ合う。
「あいつらが本気出して協力すれば、きっと上手くやりますよ」
「ええ、そうですね。ダリウスもいざという時は、本気を出して頑張ってくださいね」
「な、オレはいつだって本気ですよ!」
怒りだすダリウスがおもしろくて、ノーアは笑い声をあげた。
数日後。
「オースサズ、ド、ファルノウン、ホーパ、フィヨルニル」
錠が外れ、扉が開かれる。
人気のない図書室のその奥に入ったシルフは、静かに足を進めた。
――以前、ミシュガーナに言われた言葉を思い出し、最高神と宿り主について一から調べなおそうと思い立ったのだ。彼女の予言が当たるのならば、自分が望む以上の物を発見できるはずだった。
古ぼけた書物のたくさん並んだ本棚、そこから資料として一度は目を通した本を取り出してみる。
以前は見落とした文章があるかもしれないと思い、最後までページをめくり続けたが、新しい発見はなかった。
仕方なく本を棚へ戻すと、ちょうど下段にあった本の背表紙に目が行った。古い字体で『精霊魔術について』とある。
「……」
何故だか興味が湧き、それを手にとって表紙を開くシルフィネス。
何枚かページを進めていくと、現代では失われた古代魔法について書かれているのだと分かった。シルフはすぐに興味を失ったが、次のページで思わず目を止めてしまった。
『上級精霊を体内に収める方法とその解法』
「最高神は……元は精霊、だよな」
胸につけた緑色の魔宝石が、青く光った。




