第40話 精霊と人間
思っていたよりも短時間でペンダントの修復は終わった。
「ってゆーか来るの遅すぎだろ、シルフ」
「それよりも、石が壊れた原因は何だったんです?」
「原因として考えられるのは、単に限界が来たというところですね。さっきも言ったように傷つきやすい石なので、ちょっとした衝撃も致命傷になり得ますから」
「じゃあ、別に頭悩ませる必要はなかったってわけか。あー疲れた」
ダリウスがわざとらしくうなだれると、ギュスターが言った。
「やはりお前がいないと駄目だな、魔宝石なんてよく分からない」
シルフが手を止めて彼を見る。ギュスターは気まずそうに視線をそらした。
「まだまだ魔宝石は研究が進んでいないからな。そのために魔宝石を勉強するのは、一般人には難しいらしい」
そうからかい混じりにシルフが返すと、うつむいたギュスターは鼻で笑った。
「ふん、どうせ頭が悪い俺らには理解できないんだろ。知ってるさ、それくらい」
シルフが楽しそうに笑い声を漏らすと、ギュスターも珍しく笑った。
室内が和やかな空気に満たされたところで、ノーアは車椅子の少女へ視線を向けた。
「ところでミス・オード、何故あなたまでここに?」
「さあ、シルフィネスがついて来いと言うので来たまでです」
「そうでしたか。何か、新しい情報はないのですか?」
「そうですね、強いて言うなら……近く、また闇魔法の勢力が動き出しますわ」
* * *
愛するギュスター様へ
ここ最近、あなたとシルフさんとの仲がよくなったように思います。二人の間に何があったのかは分からないけれど、わたしはうれしく思っています。
シルフさんから貸していただいた本に、精霊の話が書かれていたのを、昨日ふと思い出しました。
学校でも習いましたが、はるか昔、この世界は精霊に支配されていました。中でも最も強い力を持つ者、最高神がその頂点へ立ち、わたしたち人間を生み出しました。
次に最高神は、精霊と人間が共存できる世界を作り出そうとしましたが、その最中に悪神に狙われてしまい、精霊はわたしたちの見えない世界で生きるようになりました。
才能のある魔法使いは精霊を使役することが出来ますが、それは女神が最高神の意志を継いだ結果です。だから精霊を呼び出すことは出来ても、言うことを聞かせるには契約が必要になります。
その方法はいろいろですが、一般的なのは精霊に自分の血を飲ませることだそうです。そうすることで互いの間に見えない絆が築かれ、いざという時に助け合うことが出来るようになるそうです。
飲むのは血でなくても構わないようですが、何だかすごいですよね。
ノーアさんは契約可能な精霊のすべてと、契約を完了させたと聞きました。シルフさんは力がないので、下級精霊との契約しか行っていないそうです。ノーアさんのように四大精霊を使役できたらかっこいいんだけどな、と、ぼやいていました。
剣にしか興味のないあなたには、少々退屈な話だったかもしれませんね。ですが、これで魔法のことを少しでも知ってもらえたなら、ノーアさんやシルフさんに対する理解も深まると思うのです。
ちょっと生意気だったかもしれませんね、ごめんなさい。
イザヴェル城のユーティアより
* * *
「せめてイズンだけでも、ここから出してやれないのか?」
「無理です。彼女が貴族の生まれであっても、それとこれとは関係ありません」
両翼を縄で拘束されたハティは不満げな顔をした。
「僕は村の生まれだし、家族とはもう絶縁状態にある。でも彼女には帰る場所があるんだ」
ノーアは動じなかった。
「それはあなた方の拠点ですか? 何を言っても無駄です、いい加減に新しい情報を教えてください」
するとハティは口を閉ざした。どうにかして救いの手を打とうとしているのが見え見えだ。
しばらく沈黙が続いた後で、ハティはおそるおそる顔を上げた。
「それなら、ひとつ聞いてもいいか? 答えてくれたら僕も君の質問に答えよう」
と、突拍子もなく提案をする。
「ええ、分かりました」
ノーアは少し驚いたが、彼が何を聞いてくるのか気になった。
ハティはこちらをじっと見つめて、どこか遠慮がちにたずねてくる。
「……その髪は、生まれつきか?」
まったく関係のない、それこそ個人的な内容の問いだった。そういえばハティの髪も白髪で、ノーアのそれと近似している。
「残念ですが、私の場合は染めています。元は茶髪なんですが、幼い頃から白髪が多かったので、それをごまかすためにやっているだけですよ」
事実をそのまま述べると、ハティは少し落胆した様子を見せた。
「……そうか」
どうやら彼の髪は本物らしい。
ふとノーアは自分の過去を思い出す。――数本の白髪でも他人にからかわれて嫌な思いをさせられた。すると、生まれつき白髪である彼は、きっと自分以上に嫌な思いをしてきたのではないだろうか。
「次は私の番ですね。流行り病を起こした理由を教えてください」
他にも聞くべき質問は多くあったが、ノーアはそうたずねていた。
「仕返ししてやりたかったんだ。ただ僕は村のみんなを恨んでいて、やり返す方法をたまたま見つけてしまった。……それだけのことだ」
原因は言わずとも知れていた。やはりノーアの推測は当たっているようだ。
「そうするのが禁忌だと知っていて?」
「……自分も、死ぬつもりだったからな」
翼の生えた人間は、その痛みで普通は命を落とす。そう知っていて、彼はその道を選んだようだ。
「それなのにあなたは今ここに生きている。……残酷ですね」
そうノーアが返すと、ハティは小さくうなずいた。
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