8 掃除係
補足「お金の単位」
1セクタ=1円
100セクタ=1ルース 100円
1ルース=100円
100ルース=1モア 1万円
1モア=10000円
1000モア=1アセント 1億円
1アセント=1億円
100アセント=1ハイルース 100億円
私達は近くにあった宿へ入った。ぼろい宿だが、店員の対応が親切なことで有名なホテルだという。
部屋の鍵をもらって、2階まで上がって部屋に入った。そこはとても蒸し暑く、薄くボロボロなベッドが二つと机がある窮屈な部屋であった。その薄いベッドに飛び込むと、そのまま私は気絶するように寝付いてしまった。
寝てしまう直前に彼のあくびが聞こえ、何か支度をしている物音だけが聞こえた。
明日の準備をしているのだろう。やはり獣人の力はすごいな……。
気がつけば朝で、私のベッドも彼のベットも、寝相で揉みくちゃになっていた。体もべっとりと汗をかいているし、ふくらはぎや太ももなどが痛い。筋肉痛が激しく起こっているのだろう。
起き上がり伸びをしようとすると、今度は首が凝り固まっていて欠伸すらできない状況にあった。
着替えを出し、その場で彼が寝ている内に済ましてしまった。すっかり汗臭くなった服は、大変強い匂いを発していて、鼻がひん曲がるほどだ。
その後服を脱いで、杖を出して魔法を使い、なんとか新品同様なほどには汚れを落とす事ができた。
だが昨日山の中を歩いて舞い上がった土を浴びたのか、土の臭いが強く残っていて、どうするか悩んでいると誰かが入ってきた。
「こんにちは〜洗浄係のアラでーす。この部屋からちょーっと臭って来ちゃったので、よかったらあなたの服、消臭しますよ?」
その洗浄係と名乗る「アラ」という人物は犬の獣人で、頭にタオルを巻き、磨く用のブラシと泡立った液体の入った霧吹きをもってきた。
朝から大きな声を聴いてやかましいと思ったが、消臭をしてくれると聞いてイライラも吹っ飛び目を輝かせた。
彼はそのやかましい声で起きて、自分の服を見ると絶望した。くっさと鼻を抑えている。私より鼻が利くのだからきっと吐くほどに臭いだろう。
「その服、すぐに洗っちゃいましょうか?」
「えっ?む、無料でですか?」
「無料ではないですけど、格安お値段でお掃除しますよ!」
私達は洗浄係さんを見つめ、さらにお互いを見合うと、くさい服を見てはまた洗浄係さんを見て、そこで二人でアイコンタクトを取り、決めた。この人に服を丸ごと掃除をしてもらおう、と。
嬉しさが理性を押しつぶし、我慢できずに飛び跳ねてしまった。
「おおおおお客様!下の階の人にだいぶ響くのでやめてください!」と制止されてしまったので、慌てて足踏みをやめた。そのかわりにお互いの手を強くハイタッチした。肉球の柔らかい感触に思いっきり手の平がぶつかり、パン!といい音がなった。
アラさんはスプレーを持ちながら彼の脱いだ服と私の臭い服に近づくと、ピンと伸ばして汚れの具合を確認して、鼻を近づけ匂いを確かめる。案の定しかめっ面をした。汗をたくさん吸った服なのだからもちろん臭いに決まっている。
少し離れて全体象を見たあと、納得して頷いた。
「では、急ぎ洗浄をするということでよろしいですね?」
「はい!お願いします!」
私は元気に返してしまった。声が少し大きくなってしまって思わず喉を抑える。
「わかりました。宿泊代にプラスで10ルース(1000円ほど)かかりまーす」
10ルースなら私でもポケットに常備してあるような金額だ。ほんとに安くて正直びっくりしてしまった。
ポケットの中にある財布に入っているはずだ。案の定ポケットの中をまさぐると、ちゃらちゃらと音がして、財布があるのを確認した。中身を確認すると、ちゃんと入っていることを実際に確認すると、そのお金のうち10ルースだけ出した。
財布には全部で100ルースしか入っていなかったため、本当に危ないところだったのだと安心する。
アラさんは金貨を受け取り、眺めたあとそのままポケットの中にぐちゃっと突っ込んでしまった。
「はーいちょうどいただきました。お時間は20分ほどかかりますが、よろしいですか?」
「えーと……国王様面会時間は今から一時間ほど空いているから……もうちょっと時間をかけて大丈夫ですよ。」
「はーい了解いたしました~……ってえ?」
ぼそっと彼が言った独り言が聞こえてしまったのか、去ろうと後ろを振り向いて止まってしまった。 掃除係さんがその服を下ろし、適当にもみ洗いをしようとした腕を止めた。
そういえば、国王との面談とは伝えていなかった気がする。受付の時にも聞かれなかったし、完全に忘れてしまっていた。
「ええっと……なんだか聞きなれない言葉が聞こえたので、つい驚いてしまって。一応聞きますが、明日。なにかあるのですか?」
「いえ、今日。ですね。私一応国交の機関で働いていて、ええと身分証……あった。」
彼はバックの中から名刺入れを取り出した。
そういえば、今までさんざん歩いてきたせいでこの国に来たメインを忘れてしまっていた。なんという失敬。私も名刺を出そうとしたが、バッグの中をまさぐるも、なかった。
彼は「国交大臣」だ。と私は一言いえばいいものの、ちょっと焦って記憶があいまいになっていた。
身分証を出し、礼儀正しく渡して見せると、声も出せずに驚きながら、少し眺めて現実を受け止めたであろう時に返してもらった。
いつもの彼との結婚生活で、私はなんとなく国や近所の人から依頼された仕事をし、そっけなくこなしていた。そのせいかあまり仕事という意識は無くなっていて、お手伝いのような物だと考えてしまっていた。……と、これは言い訳になってしまうか。
再度バックをまさぐる。
身分証など探してもなかったのだからあるわけがないと思っていたが、バックをまさぐると綺麗に専用の袋に詰めてあった。
過去の私が推測していたのだろう。心の中でガッツポーズをした。
私の名刺も渡すと、その人は目を点にして、手だけで受取り、その後名刺を受け取った。
少しの沈黙の後にハッと目覚め私の肩を持った。
「えええええええええ?!それを早く申してださい!ヤバいヤバいヤバい!」
急にあわただしくなり、名刺も返してくれた。だが服の洗浄を放棄し、廊下へと風のように走り去ってしまった。私の言葉を聞く間もなく、洗浄係さんは飛び上がり、洗浄用具を置いたまま廊下に飛び出していってしまった。
気になって廊下を覗くと、アラさんは階段の下に向かってありったけの声で叫んでいた。
「洗浄係緊急集合――――っ!」
その声はとても響き、宿中を揺らすほどであった。
その数秒後、廊下の向こうから地鳴りのように足音がしてきて、そこには慌てて走ってきている何匹かの白猫が見えた。ただの猫だったが、アラさんと同じように頭にバンダナを巻き、雑巾を背中にかけていた。
それが合計3匹。
「にゃ!」「に!」「ぶなぁ」とかわいい声をあげるその丸っこい3匹は、自ら手をあげて点呼をし、3匹全員いると示した。
「おや、今日はこれだけかい。客が多いもんだね。」
1匹が頷く。大きな首を一生懸命振る姿は私の母性を刺激した。
人間の国の宿だと、洗浄係は貴族の宿でも一人しかいない、もしくは洗浄係すらいないのが当たり前だが、獣人の国の宿だと洗浄係は何人もいて、それがなんと一般的になっているようだ。
珍しい物を見て、私は唖然としてしまった。いや何匹かでやるのか、しかもなんで全員猫なのかなど考えてしまった。特に意味もないのに。
彼が私の肩を優しく掴むが反応はしなかった。それに耳に息を吹きかけられてしまった。
「ひゃひん?!ちょっ……急に驚かすのやめて!」
「いひひ……。」
また狐のように妖艶な笑みを浮かべた。急になんだというのだ。こんな時に。
私は一発だけ優しく怒りを伝え、背中をつまんだ。しっかり彼は痛そうに顔を歪ませた。
洗浄係全員が集まって敬礼をしている姿を見て、私はまた可愛いと思ったが、犬の獣人さんの顔はそれに反して番犬のように怖かった。
「今日は大事な大事なお仕事です!しっかりと掃除するように!これができたら昇進チャンスですよ!」
「「「「はいっっ!」」」」
そう元気な返事をしてその3匹は走って私たちの部屋に入ってきた。そしてすぐに置いてあった桶を使い、洗浄へと取り掛かった。
せわしなく動き回り、洗浄をしながらこちらに早口で聞いてきた。
「時間は何分ですか?」
「ええっと……あと30分ほどで済ましてほしいです。」
彼が慌てて計算をしなおして、何とか答えると、水がバシャバシャと飛んでいる中洗浄係さんが叫んだ。
「30分!大会とおんなじ時間よ!ミスはゼロでね!」
「「「「はいっっ!」」」」
た、大会?そんな洗浄大会とかあるの?と突然の言葉にいろいろと聞きたくなったが、何とかその気持ちを抑えてその洗浄を待った。
彼女らの士気がたかまって、今までバラバラだった動きが、まるで軍隊のように統率の取れた動きになった。その技術で見事に掃除が進んでいく。バケツをリレーしながら、表面がギザギザになっている板で、服の細かい部分までしっかりと汚れを取ったり、職人のような手さばきで毛玉を器用に取ったりしていった。
そして5分、大体汚れが取れたところで、天井から干して乾燥に専念し始めた。窓から吹く風を使い、服をゆらゆらしながら風通しを良くしたり、厚い大きな紙で必死に仰いだり、なかなか乾かない首もとや襟などの細かい所を柔らかいスポンジなどで優しく叩きながら、水洗いでも残ってしまっていた汚れを取っていたりしていた。
なんという手つきだろう、と見惚れていると、
私達はその間に身支度をした。歯磨きなどもアラさんが一緒に回収してくれるらしく、そこまでやってくれるのか!と驚愕してしまった。
その後部屋の洗面台で私の髪の毛の支度をして、部屋に戻るとちょうど服が乾き始めていた。彼の薄い上着とズボンが初めに乾いていた。
彼はその服を体に纏うと、目を丸くさせ、その服の感触を確かめていた。着た瞬間驚きで声が漏れ、その服を撫でまわしていた。
「おぉ……すごいぞ!」
「そんなにすごいの?」
「ああ、毛布並みにふっくらだし綺麗だ。ただの薄い毛布なのに。」
珍しいことを言うなと思った。
彼が服のことをこんなに嬉しがって褒めることは滅多になかった。むしろ時々嫌悪感で顔をしかめることが多い。そんな彼が言うなら相当なものだろうな、と期待を抱きながらその服に腕を通してみた。
「おぉ、ふわふわ」
その瞬間、彼の言っていることが分かった。服では感じたことのないふわふわな感触に驚いた。これなら肌に擦れることもないだろうし、生地も肌にフィットして動きやすい。
「こちら、師匠が教えてくれた「裏起毛」というものです。勝手ですが無料で付けさせてもらいました。」
「これが無料で?良いんですか?」
「はい、王様によかったら紹介居てくださいね!」
なんとこの裏起毛が無料だという。特別待遇をしてもらって申し訳ない気持ちになった。これは王様に紹介しないとがっかりされるだろう。
「これで去年は大会でだいぶいいところまで行ったんですよ」
さっきも言っていた大会というやつだろう。
「大会?」
「洗濯技術なんとか大会があるらしいな。」
「そんなのがあるの……?」
彼が教えてくれたがソレ以上言及することもなく、ただ乾くのを待っていた。
不思議そうに洗濯物を見ていた私を察してか、アラさんが、洗濯物がどれだけ綺麗に心地よくなるかを争う大会です、と教えてくれた。
その後、15分ほどでその洗濯物たちは完全に乾いた。いとも早い手さばきで思わず感心して拍手を送りたくなってしまった。
一方3匹の猫たちは反省会のようなものをしていた。よかったところとダメだったところを紙に書いているようだ。その姿も見ているととてもかわいく思えてきた。
私たちは荷物準備もすでに済んでいて、再度忘れ物がないか確認して、準備がやっと整った。寝起きなので欠伸をして無理やり体を起こすと、臭くない服に感動して涙が出そうになった。
「がんばってくださいね。」
と部屋から出るときに優しい笑顔で言われた。3匹の猫も反省会を切り上げて元気に返事をしていた。
「はい!ありがとうございます!」
そういってドアを閉じる。感謝を伝えて
「さあ、もう時間がない。行こうか」
彼が肩をつかみ、仕事モードの丸い目で私を見る。私はそれに一つ頷くだけだ。服の匂いのおかげで不思議といい気分になり、なんだかいいことが起きそうに思えた。
久々です やっと小説が書けるようになりました
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