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 さて、長い通路をひたすら歩くこと15分。


 コロシアムのような大きな空間に出た。その先は天井から吊るされた頑丈な長い橋しかなく、今私達はその上にいた。

 あまりにも明るかったので外に出たかと錯覚したが、気のせいだったようだ。

 勘違いするほど明るい原因は、下を覗くとわかった。

 そこはとても賑わっているが、たくさんの人間と獣人たちが深くフードをかぶったり顔を隠したりしながら色々と取引をしている。あとは売っているものがやけにでかかったり、なんと明らか人が打っているようにも見えた。

 いくつかひもが上に伸びてきて上を歩いている住人を引きずり下ろそうとしていた。中には捕まってしまって落下し、怪我だらけになってそのまま商品として売られているような動きがよく見ると見えた。

 ちょっとだけ地上の市場と似ているように見えたが、それは最初だけであって、私はここに異様な雰囲気を感じた。

 ジャスさんが近寄ってきて、小声で説明をする。

「ここは闇市です。よく親に「闇市には来るな」と言われたことあるでしょう?」

「……ああ、ありますね。私も聞かされました。」

 それは、よくわたしが子供の頃駄々をこねて嫌がっていたときに、決まってその話をされた。その話のなかに、闇市には行くな、という台詞があったような記憶が薄っすらと頭の隅っこの方にあった。

 今まで子供を脅すために作られた話かとずっと思っていたが、まさか本当にあったとは。

「ここでは、見ての通り、いろんな武器だったり違法な薬とかを売買してるんです。もちろん、奴隷も。ですが私たちがいる場所は比較的安全な道ですので。下を眺めてみたかったら、ぜひ見てください。私たちがお守りしますが、たまにこの高さにも、上の人を引きずり降ろしににロープが飛んできますので気を付けてください。」

「安全なの……?」

「完全な安全なんて闇市にはない。闇市では安全な方ということだよ」

「あっ……はい」

 彼がジャスの言葉に付け足しをする。私はその説明に恐怖を感じ、何かを察しては背筋が凍るような思いをした。

 話し終わった後、なんとなくジャスさんは不気味な笑顔でこちらをわざと怖がらせているように見えた。やはり獣人なので彼と似ているところがあるのだろうか。きまって人をビビらせた後にはこう怖がらせるクセが特に顕著に出ている。。

 さらに上を見上げても橋が何本もかかっており、その上にもお客がいた。偶然その橋を渡る人が跳んできたロープに捕まって下に落ちていったのをみてしまった。その人は運悪く、まるで子供のおもちゃのようにぺちゃんこにつぶれてしまった。ついでにその血で汚れたとその縄を投げた人も殺されていた。

 私はその光景のあまりの恐ろしさに声すらでなかった。

「ああは絶対なりたくないですね……」

 ジャスさんも思わずそう口から漏れてしまう。私はそのまましばらく腰が抜けて動けなくなってしまった。

 やがて腰が治り、下を覗くのをやめると、そこで安心して彼らに気を取られているところにロープが飛んできた。狙いは完全にわたしだ。気づかれないように下を覗いていたのだが、バレていたのだろう。

 後ろを振り返り、目の前にそれが見えてから引っ張られる感覚があったのは一瞬だった。

 掴まれたのは、髪だった。あっという間に引っ張られ、私は空中に投げ出される。

 その瞬間、死んだ、と脳裏に言葉が浮かんだ。 

 私は抵抗もできずに落ちそうになったところに、足首にやわらかいものを感じ、その後急に熱を感じた。すぐ後に体中に炎が張られる。

「あっつう!」

 一瞬だが、足から頭までの直線上にとんでもない熱を感じる。だがその炎のおかげでロープはタコ糸のように簡単に焼き切れて、あっという間に橋の上に引っ張られた。

 その後なにかに捕まろうと手を伸ばすと、そこには杖の先端の丸い宝石があった。

 どうやら私の杖を彼が途中で受け取っていたおかげで、彼が魔法を使い助けてくれたようだ。 

「おちる!はやくう!」

「安心しろ。もう大丈夫だから。」

「ひえええ!」

 私は彼に軽々と引っ張り上げられると、橋の上でしゃがみこんで胸を押さえた。恐怖で呼吸が乱れ、心臓の鼓動も速くなっているのが分かる。その心臓の音で体が震えているように感じた。 

 私にとって今の出来事があまりにも一瞬過ぎて、何がなんだかわからず混乱している。

 一体どうしたのか、と怖いもの見たさで下を見ようとするが、また覗くとあのロープが飛んできそうで怖い。恐怖で慌てて彼に抱きついた。彼はそれを気遣って私を抱き上げてくれた。

 下からは叫び声と木が炎で燃えるパチパチ音が聞こえた。私は下を見れないので何が起こっているのか教えてもらうと、ロープを伝って火が下に回ったらしい。とのことだ。

「……だから気を付けろっていったよな」

「ふぁい……ぎうぉつげまず!(気を付けます)」

「ちょっ、静かに」

「……!」

 気がつけば涙が溢れて鼻水も溢れて、心のそこから安心していた。私は口を抑えられて泣き止んだが、声を聞いたのかまた懲りずにロープが来たが、それも彼の魔法の炎により焼き切られ、下に火の手がさらに燃え広がった。そして最後の方にはすっかりなにもなくなっていた。 

 彼がいなかったら私はここで奴隷となっていたのだろう。

 本当に彼がいて良かった。

 いくらありがとうを言っても言いきれなかった。

 私は彼に抱きつき、立ち上がって手をつなぎながらもう一方の手で涙をぬぐった。

「ありがとうありがとうありがとう……」

 そんな私を見て彼は、朝と同じように飽き飽きしていた。 

「こんな様子じゃあ、この道を使うのは今回限りとするか……帰りは山の上のルートになるが、仕方ない。」

「そうですね……すみません。」

 ジャスさんは落ち込んで自分自身に悔いているようだった。彼はそんなジャスさんを見てちょっと笑った。

「君は悪くないよ。私たちの油断のせいだからね。ふふ」

「わかったからその冷めた目を向けるのをやめてくれ!なんか鳥肌が立つ!」

「ははは」

 その笑いに感情はこもっていなかった。

 あ、やばいこれ怒ってるときだ。と私は感づき、涙はすぐに引っ込んだ。無理に大事にはしたくないのであえてジャスには黙っておいた。

 こりゃあジャスは後で水筒におトイレと友だちになる毒でも盛られるだろう。彼はそんな獣人だ。

 そして私たちは早歩きでその橋を渡り、また長い廊下の続く道に入っていった。

 その間、ずっと私は静かに丸まっていた。

 ドームの下からはずっと悲鳴が聞こえていて、ひどく焦げた匂いも漂ってきた。

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