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猫の紳士と翻訳家の異種恋愛物語  ~獣人と人間の恋愛の行方や如何に~  作者: トリ寝る
0章

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2 もっと早く

 それからもう5年。


 すっかり仲良しカップルになってる今でも、彼の容姿の美しさは変わらない。

 むしろ私が彼をもっと磨きあげているのでより美人になったし、匂いも薔薇の香りがかすかに程よく漂うようになった。



 私は食事をする前に席を立ち、お茶を入れた。

 冷静になるためだ。


 彼は料理担当に今はなっているが、唯一お茶を上手く抽出することができないのだ。

 なのでその担当は私である。

 いつも通り茶を作ろうとしたが、今回は少し工夫をしてみた。


 いつも抽出する茶葉の中に少しだけ別の草を入れる。そのお茶を注ぎ入れ、机に置いた。


「今日は少しだけ猫惹草を加えてみたんだ。」


 猫惹草ネコビキソウは猫を夢中にさせる草の総称である。マタタビ、猫草などいろいろな種類があるが、そのなかでも一番薄いのを一つまみほど入れてみた。


 人間にはただの草の匂いしかしないが、猫にとってはリラックス効果があるらしい。


 彼はそのお茶の匂いを嗅いだ。


「ああ、なんとなくわかる。ちょっと緊張がほぐれるよ。ありがとう」

「いえいえ~」


 彼に喜んでもらったようで私はとても嬉しかった。


 私も横に座り、目玉焼きをパンにのせ口にいれると、少しだが塩の味がした。次にトマトスープを口に運ぶと、トマトの酸味が良いアクセントになっている。お茶は鼻に通るいい匂いがした。


 目玉焼きは塩と醤油がいいと結構前に言ったが、まだ覚えていたのか、と驚愕しつい手がとまった。


「ん?どうかしたか?」

「あっいやぁ、なんでもないよ」

「ふーん」


 そのふーんはなにか意味ありげに横目で私を見ていた。


 作戦通り、とでも言いたげだ。


 彼は私の感情におそらく気づいている。私の感情もわかるほど鼻がいいと前言っていた。


 他の獣人にも聞いたことがあるが、「本気で意識しないとそこまでは嗅げない」と言われた。ということは普段から意識されてる……ということだろうか。


 私は顔が火照って行くのを感じた。


 その気持を解消するために、いつもより早く食べ進めた。


 パンは完璧な焼き加減で外サク中ふわで、さらに卵の塩と醤油が噛み合わさり、口の中が旨味で満たされるようだった。


 いつもより早く食べ進める私を見て、なぜか彼は狐のような妖艶な笑顔を見せた。


 その顔を見て、また手が止まった。


 わたしの目まぐるしく動く感情を面白がっているのだろうか?


「……フフフ」

「な、何?」

「ああ、終わったあとの買い物を想像しててね、ついに買いたいものが買えるんだ。」


 何だそんなことか。とちょっとだけ気分が下がった。


「あの耳ピアスのこと?」

「そう!わたしに似合いそうなやつをこの間見つけてね、それを今日仕事が終わったら買いに行くんだ!」

「へぇ~、何色なの?」

「わたしの毛並みと同じ茶色っぽい黄色だよ。」


 といって彼は毛をつまみまとめる。


 自分的には茶色かかった黄色というよりは茶色とレモン色が合わさったように見えるが、彼なら何でも似合うだろう。青でも赤でも。


「いいね、終わったら一緒に買い物行くから見せてよ」

「ああ。もちろん一番に君に見せるよ。」


 フフフ、と最初と同じような妖艶な笑顔を見せる。


 私はその妖艶な笑顔と目に惹かれて、またパンを一口かじろうとした所で手の動きが止まってしまい、頬が赤くなっていくのを感じた。


 彼の目は美しい茶色の瞳が宝石のように澄んでおり、吸い込まれるような感覚を感じる。


 ずっと見ていると催眠術にでもかかったようだ。気がつけばパンを置いていた。目が乾き瞬きをすると、首をかしげてさっきのことがなかったかのようにきょとんとしていた。


「ん?……なんだい?ゴミでも付いてるかい?」

「あぁいやあ、ハハハ、つい……なんでもないよ」

「そう……フフフ」


 彼は妖艶な笑顔のまま答えた。赤い顔をごまかすためまた大口で食べ進めた。


 私は悔しく思った。このままじゃあ起きたときの立場と逆ではないか。


 朝のことを狙ってやったと思っているのか?べつに私は寝起きで意識がはっきりとしていなかっただけなのに……。と心の中で、勘違いをしているとも気づかず、愚痴を吐いた。


 そして最後の一口を食べると、容器を重ねて洗面台に置いた。彼も同じタイミングで食べ終わったようだ。


「あむ……ごちそうさま。」

 と私は手を合わせた。


「はいよー、あんまり時間ないから、早く片付けてくれ」

「ん?そんなに早いの?」

「あと1()()()()にはある場所に集合s」

「はあああああああああああ?!ちょ!早く言ってよ!もっと早く起こしてくれてもよかったのに!」


 私は抑えられない怒りが一気に爆発し、つい立ち上がって怒鳴ってしまった。

 だが彼はそのまま笑顔で

「起きないのが悪い!」と一蹴した。

「ぎく……」

「何回起こしたと思ってるんだ。あれの1時間前から10分おきに起こしに行ってるんだぞ?」

「はい、すみません。」


 確かに起きない私が悪いのだろう。と思った。



 あわてて片付けると、すぐに準備へと急いだ。


 残り時間は、1時間。着替えて身支度をするとしたらあとは髪の汗臭い匂いを取るくらいしかできないだろう。


 なぜ出かける時間を早く教えてくれなかった。と何度でも言いたいと所だが、あいにく時間がない。


 片付けて器に水を入れてから、急いで部屋に走るが、左足が段差に躓いて一瞬減速する。激痛に耐え、どうにか悶えながら左手で足を抑え、右手で床にに手をつき、右足で弾みながら登っていく。


「むりすんなよー」

「うるっっさい!黙っといて!」

「はいはい……っく」


 やはり、なにか恨みを晴らしている気がする。さっきからまるで「ざまあみろ」とでも思っているかのようだ。


 ……後で聞いてみよう。



 部屋からドライヤーを出し、洗面台に走る。


「それよりも髪ぃぃぃぃ!やばやばやばやばやばやばやば……」


 慌てすぎてさっきまでののどかな部屋の空気はドアのぶつかる音にぶち壊された。


 もうのどかな日差しとか言っていられない。部屋から着替えと髪結びを取って駆け下りた。


「ハイ石鹸!」


 目の前のキッチンから慌てている私に彼が髪の毛を洗うための石鹸を投げてくれた。なんだ彼も優しいところがあるじゃん。と私の心は手のひらを返された。


 ちょうどよいとことに投げてくれたが、急いでいたのもあり体がずれてしまって、その石鹸が滑り落としそうになってしまう。そこで諦めずにあわてて取ろうとして、前に倒れてしまった。


「あい!……ったああ!」


 お陰で洗面台の入口にある台に足をぶつけて倒れてしまった。


 幸い洗面台の上には何もなかった。それを見て私は心から安心した。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫……」


 いつもそこにあるのはだいたい彼の大事にしていた私物が置いてある。


 私はそれを見て心の底から安堵した。


 もし壊すと、その勢いで噛みつかれそうだと思わされるほど叱責をされ、深く反省をして項垂れて「はい」としか頷けないでいるくらい正論ばかりで疲れる真面目な説教をされるのだ。


 その後2日くらいその怒りを引きずるものだから困ったもんだ。まあそれも慣れれば可愛いものだけど。


 洗面台の前に立つと、私は深呼吸をして落ち着きながら、肩まである髪の毛を全体的にさっと上から順番に濡らす。なるべく洗面台の外に髪が飛び散らないように気を付けながら。


 濡れた髪にゆっくりと石鹸を当てていく。そして端の方から細かく洗って髪を1本1本ほぐす。


 これに大体2分はかかる。軽くスッと指を滑らせるようにするのが意外にも難しいのだ。


 石鹸を流すと、今度はブラッシングだ。植物性オイルが染みた櫛を使い何度もゆっくりとほぐしていく。無理矢理やると髪の毛が千切れたりして、果てはチリチリになってしまうのである。


 これに大体20分。寝癖も伸ばすのでこの作業が一番時間がかかる。いくら短くやろうとしても10分はかかるのだ。


 そして今度は潤滑剤をまんべんなく丁寧に、と行きたいが時間がないのでさっとだけつけた。


 洗い終わりかけたころ、彼が覗いて話しかけてきた。


「できたかー?」

「あとすこし……よし!」


 彼が陰から何か柔らかいものを取って洗面台の横にあった机に書いた。


「着替えおいとくぞー」

「えっ!助かる!ありがとう!」


 リビングに置きっぱなしだった着替えを取ってきてくれたようだ。薄手のチェック柄スカートに白のシャツ、それとシンプルなベージュ色の長袖がおいてあった。彼が選んでくれたのだろう。


 いつもはしてくれないフォローをしてくれた。

 彼はなぜかこういうときだけ頼りになる。これも彼の得意な意地悪に繋げるための作戦だ。油断してはいけない。


 服の中には下着も入っていて、それだけちょっと雑に入っていた。

 きっとつまんで入れてくれたのだろう。なんともデリケートな精神なのだろう。


 今は家族なんだから、下着くらい触られたってどうってことないのに。


 シワだらけで少し違和感があるが、きにする時間などない。


 全て着ると、時間まで15分あることに気がついた。意外と時間が残り、私はビックリした。


「……はぁ……はぁ」

「お疲れ様。今度は僕の番だよ」


 早く退いてくれと言わんばかりの強い視線が私を突き刺す。


「はいはい」と言いながらそこを去っていくと、彼は急いで入りカーテンを閉める音がした。


 そういえば、カーテンを閉めていなかったな……と思うが、彼に裸を見られたところで私にとっては今更なことであり「まあいっか。」と他人事のように気にしないでいた。


 彼は歯磨きをして軽く毛並みをブラシで整えただけで出てきた。

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― 新着の感想 ―
スパダリな猫彼氏さんが最高ですね!! 主人公の有能さも気になります! 支援ブクマと星、失礼します!
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