36 別れ、思ったよりも長い
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その出来事は私たちが出会った、あのパーティー会場の前日に起こった会議での出来事だ。
王様に面会をしに来たカイラたち一行は、それはそれは華やかな馬車でこの町に入ってきては町の中心街を民お構いなしに突っ切ってきた。最初は私もとんでもない人たちだと思っていたので、まさかそれが運命的な出会いになるなんて思いもしなかった。
実は街中を突っ切る行為ははエーテル内でもよくあることであった。傲慢な立場に立ってしまった人か、もしくは相手を格下とみているやつしかやらない悪習慣ではあるが。権威の象徴として昔はよくやっていたらしいが、今はやっている人は見たことがない。
彼らは王城の門の前に着くや否やぞろぞろと降りてきて、そこにいた門番に話を聞いた。その内容は、王城への入り方を教えてくれとのことだと後で聞いた。
私はその様子を待合室の窓からこっそり見ていて、あぁこれは相当なめられているな、と感じた。門の入り方なんて調べればいくらでも見つけられるし、獣人の知能でも覚えられるはずだ。それをわざわざ覚えてこないということは、私たちの国にはほとんど興味がなかったのだろう。と考えられる。むしろ「来てあげたんだから案内してよね」という態度に見えた。
そうして、豪華な飾りつけがしてあり、何十人も入れるであろう広い応接室に行った。そこで様々な執事さんたちと一緒に出迎えをした。最初に王様が入ってきて、そのすぐあとにゲストである彼らがいた。
予想通りカイラ以外はなめた態度をとっており、クスクスと笑っているものまで居た。だがカイラ一人だけが常に冷静で、こちらをまっすぐ見ていた。私もつい目を合わせてしまうくらいに、その姿は美しかった。
「こんにちは。」「こんにちは」とお互いがお互いの言語で挨拶をし、会議は始まった。
私の仕事は主にここから始まる。一言で言えば、通訳だ。
私くらいしか完璧に両方の言語をマスターしていなかったのでやや聞き取りに焦るところもあり、この役割になって少し気が引けていたが、笑顔を忘れずになるべく相手の常識に合わせたわかりやすいような翻訳を作り上げていった。
あっという間に精神は摩耗し、後半は所々翻訳をミスをしてしまったりと、ひどければ戦争になりかねないようなミスはなかったものの、反省しなければいけない内容ばかりであった。
そして1時間、やっと休憩時間が取れた。
その会議は案の定、こちらをなめ切った態度のものであり、重圧的でその場から逃げてしまいたいほど酷な内容であった。
内容を一言で表すと、「獣人が人間の国に来てやるから、お前らは通常の3倍の金額を生活金として与えてくれよな!」ということだ。移民受け入れをしたことないわが国はそんな無茶苦茶な提案も普通であろうと軽々と承諾をしてしまった。心の中ではなにやっとんじゃああと叫びながら、そのことを正確に通訳すると、ファランの人達は機嫌よくなって大笑いをした。
まったくといって人間のプライドがなくなってしまっている会議であった。
私は会議を振り返りながら、疲れて休憩をしようと控室に向かおうとすると、そこで誰かが私の肩を叩いた。
「こ……こん、にちわ」
そこにいたのは、紳士的なスーツに身をまかれた小顔の猫獣人、カイラであった。
その獣人である彼が、なんと人間語で挨拶をしてきたのだ。
私も思わず人間語でこんにちわと言ってしまった。すぐに獣人語に戻して謝罪をした。
「すみません、驚いた、しまう。」
カタコトになってしまった。なんでこんな時に限って緊張をしてしまうのだろう!と自分をなげいた。首をかしげられるかと思っていたが、意外にも意図は伝わり、意外な返答がかえってきた。
「大丈夫です。実は、驚かせたくってやってみたことなので……アハハ、変ですよね、こちらこそごめんなさい。ではさようなら。」
彼はそう言って仲間の方にすぐ歩いて行った。とても良い笑顔を向けられながら私は手を振り返した。
彼の獣人語は、すらすらとしたきれいなものだった。しかもいつでもわかりやすい単語で話してくれている。なんと優しい獣人なのだろう、と私はたぶんその瞬間にほれ込んでしまった。
しばらくの間そこで立ちすくんでしまい、その後ハッとして待合室にて休憩をとっていたが、なぜかドキドキが止まらなかった。
そしてなぜか、その後の翻訳も会議も調子がよくスムーズに流れていった。
ファランとの条約の改善を休みの間に提案する機会を設けてもらい、それを人間陣営に理解させることができたのがまず1.そしてその後にファランとの猛抗議の末、獣人国の人達に私たちの伝統芸能とか職人技とかを教えるということになった。
短期的な金よりも、長期的な知識を優先させることができたことは、私の貢献であったが、その後のパーティではなにもなかった。
というのも、その時にとあることがあったからである。もう既に作品内には書いてあることだ。
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思い出しているうちにだんだんとニヤニヤしてしまっていた。
「あの時照れ顔はほんとにかわいかったなぁ~~」
「そ、それは……その、ほんとにその場で言った通りで……」
彼は慌てて否定しようとしたが、思いつかず仕方なく肯定してしまったようだ。なんとツンデレでかわいいのだろうか。
「……やっぱあのときの彼は何回思い出してもかわいいって思っちゃうな。」
「かわいい?……そんなかわいいか?あんな不器用な人間語。ただの馬鹿にしか聞こえないような気がするんだが。」
「不器用だからかわいいんだよ。どんくさい猫みたいで。今もかわいいけど別格にかわいいの!」だから、と一緒に空中で指を刺して協調をした。
「なんでだ?あんまり理解できないな」
「さあ?なんでしょう?」私はわざと首をかしげて見せる。
「と、というか、あんまかわいいなんていうな。」
と拒絶しているように見せながらも顔が満更でもなさそうな彼。
「いいでしょ?たまには。」
私はいつものうっ憤を晴らすように満面の笑みで彼に怪しい笑顔を振りまいた。彼の妖艶な笑みをまねしているつもりである。
こんな時でしか彼に仕返しはできないのだから。その時の彼の顔ほどかわいいものはない。今の顔も、まるで子供のほっぺたのように赤く丸くなっている。目も大きくて点になっているのもとってもかわいらしかった。
「と、語るのはここら辺にしといて……ほんとうにどうするよ?この後。」
「考えが全く思いつきません!」
私は手を上げて宣言した。
「俺も思いつかない!」
そう彼も手を上げ合い宣言した。
そう、私どころか、二人ともどうするかわからずに王様の命令を承諾してしまったのだ。といっても普段からそんなことも多いのだが。
エーテルからあの傲慢な王様をファランに連れてくるなんて、戦争を吹っ掛けられそうだから来てくれ、ということにするしかないのではないか。とも思ったがさすがにまずいであろう。もしやったとしたら厳戒警備体制みたいなのを敷かれてしまうかもしれない。
私たちはとても悩んだ。
それからはたぶんダメそうな計画を出しては、欠点がボロボロと出て、また次に計画を出してはボロボロと欠点が出てくる。まるで砂の城を作っているようで、長い作業ある。やがてその繰り返しにより1時間後にはすっかり嫌になって、窓の外を二人でぼーっと眺めてしまっていた。
さすがに二人とも疲弊してきたため、外に出て散歩でもしてきて、スッキリとしてから考えようということになった。
ここで、私は彼と別れてしまった。
そう、別れてしまったのだ。
その判断が、のちにあんなに大変な目になるなんて思いもしなかった。




