35 信頼できるからこそ
部屋番号は103と104、一部屋二人までと言われて、私と彼、ジャスさんとゲーシュさんで分かれた。
私たちは104。奥の部屋だ。
部屋に入る前に「イチャイチャするのはいいが、大きな声ではすんなよ?」とゲーシュさんにいじられた。
部屋の鍵を開け、開くとすぐに豪華な部屋が現れた。玄関横には洗面台とお風呂とトイレ。正面にはおしゃれな鏡まである。しかも上半身くらい大きいではないか。こんなに大きい鏡を作る技術があるとは、さすが高級宿である。普通のホテルなら全くない。
部屋の奥に進むと、町が見渡せる大きな窓と、ふかふかの2つのきれいなベッドが置いてあった。
「いやっほー!」
私はそのベッドに飛び…込みはしなかったが、荷物を持ったままベッドに全体重を預けて優しく倒れこんだ。飛び込んだら下の人に響いてしまうからだ。そのくらいのマナーはいくら興奮しても守らなければだらしない。
私も彼も荷物をベッドの下側において、そのまま座り込んだ。
「ふぅ……疲れたな。」
「だねぇー、特に前まで出かけることが、なかなか無かったからなあ」
「私もだいぶ体が鈍ってきたかね。」
「だとしてもあんだけ動けるのほんとすごい」
「だろ?」
ははは、と二人で乾いた笑いをした後、落ち着いてため息を深く吐いた。
彼が声に出すほど疲れているのはだいぶ珍しい。移動距離がだいぶあったのもあるが、何より彼は私を乗せて走ったのだ。最近2㎏太ってきてしまったこの私をだ。なので疲れているのも当たり前である。
……2kg程度、でもあるか。
まだ外は明るく、太陽が真上に位置している。あまりにもふかふかなベッドは眠気を呼び起こすのにちょうど良すぎる材料であった。
しかしここで寝てしまってはもったいない。
「よし、とりあえず荷物置いたら外の様子を見て回るぞ!」
「いや、その前に話がある。」
「え?何?」
彼は真剣なまなざしで上目遣いで私をにらむように見てきた。ついに彼がいつも悩んでいる方法を言うときが来たのだろう。
私はわざとらしく察していないないふりをした。
「おそらく察していると思うが……」
彼はつばを飲み込んでから続けた。
「ちょっと考えてみろ、なんで、私たちは、こんな高級なホテルに、泊まっているんだと思う?しかも国のお金で。」
そう彼は問いてきた。まず聞かれるとは思わずに戸惑ってしまった。
「え?えーと……わからないなあ。」
なんとなく嘘をついてみる。
その方が彼が何を思っているかがわかりやすいからだ。経験上だ。
彼はそれに乗ってきて、真剣なまなざしを向けた。
「たぶん私の予想はこう。「たっっっくさん投資してあげるから、国交、絶対成功してね!」って遠隔で言われたっていう。簡単にいった場合だがな。」
イマイチ言っている意味が私には掴みずらかった。まだその非常事態の大きさを把握できずにいたのだ。
彼は膝を強く叩きながら、歯を食いしばった。くそっ、と言いそうなほど強い怒りをそこにたたきつけていた。私もその衝撃を受けたように跳ね上がる。
「あぁ……えと、そうだね。」
私は何か言おうとしたが思い浮かばず、その前に彼が頭を抱えながら言った。
「これは、成功しないとたぶん私も、エーテルに帰れなくなって強制的に別れさせられることになってしまうかもしれない。あくまで最悪の結果だが。」
彼は泣きそうな声になりながらそう言った。鼻をすすっては顔を覆って涙をこらえている。
ある程度の事態は予測していたものの、最悪なパターンは「彼がファランから追い出され、私と一緒に人間の村で暮らす」ということだと思っていて、「別れる」ということまで行くとは思ってもいなかったため、驚いて声すら出なくなってしまった。
エーテルは生まれ故郷であり、今までずっと住んできた大切な地だ。そんな地を簡単に捨てなくてはいけないのだろうか。
「え、えぇ?」
驚きすぎてそれしか声がなかなか出なかった。喉の奥で何か引っかかっているようだ。
彼はぐしゃぐしゃになるほど頭を抱えた。すっかりこの状況の打開策が見つからないのだろう。同じく見当もつかない。
「はぁ……だが幸いなんとか遂行できるミッションではある。あ・る・も・の・の!期間がない!のが一番の問題だぁ~……いつに来るかわからない恐怖、まるで狐に摘ままれたみたいだよ。な?」
ネコなのに狐に摘ままれるとは。という突っ込みは置いといて、彼は冗談を言ってそっちに一生懸命気を紛らわせていた。あまりにも難しい、現状という高い壁を見ないようにするために。
そのおかげで聞こうとしていたことも聞きそこなったが、それはまたあとでにしてもよさそうだ。
「大丈夫だよ、私もいるし、これでも異種族交流長様だぞ?!人間社会に獣人が試しに入ったのも8割は私のおかげなんだからね!」
と私は真剣に彼を励ましながら、一緒に頑張ってくれるように頼れることを示した。胸を張って大げさになって魅せつけた。
「ああ、そうだな。そういえば、そうだった。」
彼が私の方に泣きそうで潤んでいる目を向けてそう頷いた。
「それにあのとき、こんにちわって言ってくれたのまだ忘れてないからね!」
「……いつのことだっけ」
「覚えてないの?初めてファランとエーテルが国交結んだ時の!」
「あぁ、あの。」
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