3
家を出てから数十分ほど町中を歩くと、喫茶店が見えた。外観は真っ白であまり窓は無く、少し暗い印象を持つ喫茶店「魔術」だ。
そこに入るとすぐに見えるのは、茶色やオレンジ色が中心となっているモダンな落ち着いた印象を持つ空間だ。その中に赤い丸椅子やお酒の棚が並んでいる。外とは違い、中はとっても暖かい印象の店だった。
入口の正面にある長いカウンターの内側にウエイターさんが立っていて、紳士らしい白いシャツに黒いベストとスラックスを着て、コップをピカピカに磨き上げていた。
「いらっしゃいませ。」
「やあ、ジャス!猫がきましたぞ!」
そういいながら笑顔で彼は店の中を除く。コーヒーを挽きながらこちらを見てくるその紳士は、この喫茶魔術のウエイターさんこと「ジャス」だ。
最近ここのコーヒーが好きでよく来ているのだが、ここになにかあるのだろうか。私も顔なじみなので、目があったら笑顔を振りまいてくれた。
「はい、では早速ですがこちらへ」
ジャスさんはコップを置き、カウンターの中から出てきた。彼が扉を閉めるとすぐ、何かに納得したかのように二人は頷きあい、ジャスさんに部屋の奥にある暖簾が目立つ部屋へと誘導された。
暖簾の奥は短い廊下があり、途中左手に厨房が見える。その先突き当たりの横に男女別々のトイレになっている。私がいつも使っているところだ。
さらにジャスさんがその壁に手を突っ込んで穴を開けたかと思えば、急に力を込めて回し始めた。
だんだんと回すのが早くなっていき、壁ももうボロボロな状態になってしまったかと思えば、穴を開けていたと思った手は、なんと壁を貫通していたのだ、と気がついた。
どうやら正面の壁が透明な壁で、その奥に歯車のように回転する扉があるようだ。
やがてその扉が開かれると、長い傾斜の1本道があった。炭鉱のような手作業で掘られた空間のようだ。
彼はそれを見て驚いた様子もなかった。きっとジャスさんとなにかつながりがあるため、事前にここの存在を分かっているのだろう。
そこに入ると、私はその中の空気の薄さに驚いた。だが別に酸欠になるレベルでもないくらいなので問題はないのだろう。
「驚いた。なに?ここ。」
「獣人の国に行く道。」
「獣人の国か……ってファラン!?」
獣人の国、ファラン。獣人しか正式にすんでいない、完全な獣人の国である。彼の出生地であり、職場であり、今現在人間とちょっとだけ差別関係で揉めている国である。そんな国に人間である私が行っていいのだろうか。と心配が募る。
もしかしたら行ってしまったらそのまま捕虜とかになって奴隷と同等の扱いをされてしまう……彼のことだからたぶんそれは大丈夫なのだろうがと考えたいが、どうしても心配だ。
「さっきも説明しなかったか?」
「えっ?……あっ言ってたような……」
私はそこで家で獣人の国について説明されたことを思い出し、少し恥ずかしくなる。
だが彼も不思議そうに考えていた。
「わたしも何故か分かんないけど、王様がわたし達ををお呼びなんだよ。」
「ふぇ?なぁんで?」
「さあ」
彼もそれ以外は何も知らないようで、いつもと違って自信がなさげであった。
私たちは疑問を抱きながらも、その壁の中に入り、ゆっくりと入り口閉めて、外の空気と遮断されていった。
その道は本当に薄暗い坂道で、かろうじて前が見えるくらいだった。壁には謎の明かりが3メートルほどで等間隔に立て掛けてある。一体これは何なのだろうか。不思議でならなかった。
それに、なぜジャスさんはこの空間を知っているのだろう。色々と質問が湧いて出てくるため、処理してしまうことにした。
「あっ、そういえばジャスさんはなんでこの道知ってるの?人間なのに……?」
「私ですか?……あぁそうでした。いまは人間でしたね。とりあえず、降りましょうか。この先には広い空間がありますので。」
私たちはジャスさんに導かれるままにその階段を下りた。長めのその階段を下りると、その先はドーム状の広い空間があった。その空間の中にジャスさんが走っていくと、彼とアイコンタクトを取った。
「もういいですよね?」
「ええ。いいと思うよ」
その返答を聞いたジャスさんは少し嬉しそうだった。
彼は私の肩を持ち、少し後ろに引っ張った。下がってろという合図だろうか。
ジャスさんがその空間の真ん中辺りに立つと、急に肩を回し始めた。足を伸ばして体を柔らかくしていて、まるで準備運動のようだ。
「じゃあ行きますよ……ふっ!」
ジャスさんが体に力をこめると、中に潜んでいた筋肉が服を破りながら盛り上がり、みるみるうちにでかくなって行く。なぜその服の中に入っていたのが不思議なほどにでかい。やがてその身長は2mもありそうなの筋肉質な狼の獣人がそこに現れた。
その予想だにしなかった大きさのせいで、私は後ろにあった壁に後頭部が当たりそうになった。彼が手を置いてくれたおかげで助かったが。
「うわぁ!?」
ジャスさんの姿を見ていると結局足に力が入らなくなってしまった。これは恐怖というより驚きすぎて状況が飲み込めておらずにプチパニック状態になっているのだ。
「すみません、私も、獣人なんです。」
「ええええええ!?」
灰色の体毛に、赤い目をしている全身もふもふな犬獣人であった。
まさかあんな穏やかで優しそうなおじさん顔の正体が、こんな大きくて恐ろしい姿だったなんて。
私は目を見開いて固まってしまった。
「驚いただろう?」
私は強く頭を縦に振る。驚いたというと食べられそうだと感じたからだ。
「彼も、私の仲間だよ。体もでかいし力も強いから心強い後輩だよ。」
「お褒めいただき。光栄です」
ジャスさんは彼に向かって、手を前に出し、丁寧に深くお辞儀をした。この2人が先輩後輩関係なのだとそこではっきりと実感した。
彼は私の頭に手を当てた。そしてわしゃわしゃと動かした。頭が揺さぶられ、はっきりとしてくる。朝起こしてきたやり方と同じだ。
「さぁ、行くぞ。正直あまり止まっている時間がない。」
「そうですね、王様もお待ちですし早めに行きましょうか」
彼は私の手を掴み、みんなで一緒に歩き始めた。彼の手がいつもより暖かく感じた。
だが早々に問題が起こった。
2人はずいぶんと早足で、普段外を歩かない、もしくは歩いても数メートルほどの私にはついていくのがやっとだった。
「しばらく長い道ですから、気を付けてくださいね。」
そうジャスさんがこちらを呼びかけてくれたが、体はまだ早いままだった。焦るのは良いがこちらの体力の問題もちょっとは考えてほしいものだ。
「ちょっと!早いよ!」と疲れ切った声で私は言った。リュックも背負っているのが大きく、とても体に負担がかかっている。
「おぉ、ごめんごめん!」と彼が謝った。だが2人がペースを落とす様子はなかった。
お仕置きに尻尾を握った。ほとんど毛ばかりで掴みにくかったが、その尻尾は軽く曲がってしまった。おまけに体力がつきかけた私が止まり、彼の尻尾が引っ張られると、「ぐにゃっ!」と彼が痛みで叫んだ。その叫び声がツボに入り、おもしろくてつい吹いてしまった。
私が疲れ切っているのがやっと2人に伝わると、彼が杖などの荷物を持ってくれた。
まったく言葉も介さずにここまでしてくれるなんて、なんて察しのいい彼氏なのだろうか。
いい人を持ったもんだ。
獣人の国に2回驚いてたので修正




