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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪
京都編

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59/60

59.ピザ

 車に乗り込み、戸を閉めた。


 いろいろ言いたいことはあるけど、開口一番。


「兄弟子いい奴だった!」

「お師匠さん何か知ってますよね……って」


 最初に言うことじゃないでしょ。「確かにいい人でしたけど」と共感する隣で「命吹き込むっていいなー」と兄弟子の言葉をかみしめている。無視して運転席の土田さんにも言いたいことを言わせてもらう。


「都合いいですけどお嬢様って呼ばないでください!気恥ずかしいです」


「土田さん帰るタイミングナイスだった」


 月緋さんは拍手を送る。土田さんはまんざらでもなさそうに「重丸様の使用人ですから」とほほ笑んでいる。


 そうじゃなくて。


 私は予め「すみません、土田さんが分からない話します」と土田さんに断っておく。土田さんは「構いませんよ」と返事をしてくれたのでお構いなく月緋さんの方を向いた。


「お師匠さんの数字見ました?」


 月緋さんは口をとがらせ黙り込む。さっきまでの変なハイテンションはいい奴過ぎる兄弟子のせいじゃない。どちらかと言えば、車酔いからくる気持ち悪さを誤魔化すのに近い。今は安全運転のおかげで酔ってないのは置いといて。


 時間の見え方のずれを、心配している。


「私も、ひびが入って見えましたよ」


 120y、130y、と寿命をはるかに超えていた師匠の数字は、もう少し話していれば、時間が完璧に崩れる瞬間を見届けることができただろう。そうしなかったのは私たちの判断だ。


 それを聞いた月緋さんは大きく息を吸い込み、そして脱力するように息を吐いた。


「よかったあ」


 師匠の前で表情を作っていたのは、月緋さんから見た方が、時間はひどい色をしていたからなんだろう。


「色は?」


「先生の時と似てました」


「……俺も」


 柚希先生は。薊くんの復讐が周りに知られないように、そしてうまくいくようにすら願っていた。しかも、そもそも薊くんの復讐というのも先生が仕向けたことだった。


「共犯ってこと?それも師匠が仕向けてるってこと?」


「一方的に知っているだけじゃないですかね」


 私目線、兄弟子がなつめさんに本を貸していると話したときの師匠は誰よりも恐怖していた。


 なつめさんが人に興味を持っていることを知られた。しかも、華里奈さんの友人に知られた、と思っているはず。探偵だと知られていたとしても、あくまで作品を見に来た、と言ったのだからまだ怪しまれてないはず。


 師匠は何を恐れているのだろうか。


 私が華里奈さんに話をすること?師匠は目的を知っていて隠そうとしていた?


 あそこに住んでいる兄弟子が事情を知らず、たまにしか来ない師匠がなつめさんと協力関係にあるとは考えにくい。


 恐らくは、こう。


「『黒井守なつめ』という才能を買っているか、自分の弟子から犯罪者を出したくない、とか」


「名推理じゃん」


 どちらにしろ、師匠は自分のことしか考えていない。「私も探偵できますよ」と言うと、前の席で土田さんが話しかけてきた。


「お話の通りですと、犯人はなつめ様ですね」


 送迎からファインプレーまでしてもらって、今更隠すこともない。私は「まだ証拠が集まっていないので秘密でお願いします」と一応言っておく。


「お昼まで時間あるけどどうする?土田さんこれどこ行ってんの?」


 月緋さんの問いに、「少し早いですが私の行きたいファミレスに向かっております」と土田さんが言った。


「ファミレス好きだねー」


「一応訊きますけど華里奈さんたちと鉢合わせはしませんよね?」


 運転中の土田さんに言うと、土田さんは「鉢合わせしそうになったら深由様から連絡が来ます」と答えた。


 あの人妹にもエアタグ付けてるんだ、と月緋さんが若干引いた。


 車で10分ほど行ったところで、土田さんは車を止める。到着したのは、手ごろな値段で学生に人気の洋食チェーン店。


 お昼時には少し早く着いたおかげで、すぐに席に案内された。


 土田さんは「やってみたいことがあったのです」と言ってメニューを適当に開く。


「このページにあるものを全部頼んでみましょう」


「金ある学生みたいなことすんじゃん」


 開いたページはピザでいっぱいだ。「もし他に食べたいものなどあれば」と今更気にする土田さんに対して、月緋さんは「こっちの方が面白いからいい」と言う。私は言うまでもない。これでも好奇心家族の一員である。


 ピザチャレンジ、受けて立とうじゃないか。


 ここまでくると、傍から見ればお昼食べに来たおじいちゃんと孫たちすぎる。ちゃっかり月緋さんが訊いてくれたおかげで土田さんが奢ってくれることが決定している。ますます私たちは孫ポジションだ。


 ドリンクバーとピザをひと通り注文し終えて、商品を待つ。


 月緋さんはスマホをいじりながら、「葉賀さんに訊きたいことって師匠が何か知ってるんじゃないかってことと、あとなんだっけ」言ってきた。葉賀さんへのメッセージを書いているらしい。


「昨日私が言ったやつですね。朝は言いそびれちゃったんで」


 そうだった、と月緋さんは指で画面に打ち込む。向かいでメロンソーダを飲んでいる土田さんはメニュー裏の間違い探しを頑張っている。


 私が昨日の夜提案したのは、アトリエの電気代を調べてもらう、というものだった。


 昨日の月緋さんの話がもし事実と変わらないのなら、まだ見つかっていない被害者の遺体はなつめさんが保存していることになる。だから冷凍庫とか持っていて、そこに入れているのではないか、と考えていた。まさか本当に冷凍庫があるとは思わなかったけど。


 心配しているのは、一年前から冷凍庫がなつめさんの部屋にあることだ。せっかく葉賀さんに伝えて調べてもらっても、ずっと前から使っているのなら手掛かりにはならない。


「もし電気代に変化がなかったらどうしますか?」


「その時はもう部屋に行くしか」


 ちょうど一枚目のピザが届き、一番楽しみにしていた土田さんは顔をほころばせた。


「さあさあ、ひとまず食べましょう。時間はたくさんあります」


 お手拭きで手を吹いて、率先してピザをカットしてくれる。月緋さんもメッセージの送信ボタンを押して、続々と届くピザを受け取り、ピザのカットを頑張っている土田さんを私と一緒に見守る。


「なんかおじいちゃんと来てるみたい」


 ぽつりと月緋さんが呟くと、土田さんは「いっぱい食べてくださいね」と丁寧なおじいちゃん役に徹した。


 私たちはその後、思ったよりも量が多くて2時間近くピザパーティーを楽しまなきゃいけなくなるが、この時点ではまだ誰も知らない。

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