55.太陽の内側
そろそろ大学に行く、と太陽さんが立ち上がった。聞きたいことを聞いてすっきりした月緋さんは、まっすぐに太陽さんを見ることができていた。
「今更だけど、俺最初の方太陽が犯人かと思った」
突然の告白に太陽さんは「えええ」と素で戸惑う。私も正直疑っていた。頷いてしまってたみたいで、「まじで?泉璃ちゃんも?」と今度はちゃんとショックを受けているような反応をされた。
「だよね怪しかったよね、テンションとか泉璃への対応とか」
「俺もう泣こうかな」
冗談を流して太陽さんを外に連れ出す。とことこ歩く太陽さんは「さすがにあそこまで自分大好きじゃないよ」と意味わからない理由で犯人説を否定した。
「明日時間あったら帰り見送るね」
別れが寂しいのか話し続ける。月緋さんも頷いた。
「なくてもまた遊びに来るから」
「次も泉璃ちゃん連れてきて、二人でデートしよ」
「俺どうすんだよ」
流せなかったみたい。私も「二人はいいです」と断る。
月緋さんが駐車場まで行こうかと提案するが、太陽さんはそれを断る。怪しいポイントだ、と二人で疑うと、太陽さんは口をぐるぐるとさせた。
「ここまで来てくれたから悪いなーって思っただけですー。じゃあねー」
手を振る太陽さんに、私たちは振り返す。
戻ろうか、と背を向けたとこで、太陽さんから「ツキー」大きな声が聞こえる。
「まじで自分のことしか頭にないからね、泉璃ちゃん守ってー」
月緋さんの返事を待たずに、太陽さんは行ってしまった。名前だけ出された私はどういうことか分からない。
「分かってるって」
ぶっきらぼうな口調で月緋さんは呟くけど、表情は京都に到着した時より明らかにご機嫌。
私は一連の流れを見て率直に思ったことを伝える。
「太陽さんって、何考えてるか分かんないです」
「俺も―」
眠いのか月緋さんはあくびをした。この人、ずっと眠そう。夜更かしなんかするから。とりあえず、私たちはスマホしか持ってきてないので、土田さんが来る前に部屋に戻ることにする。
「そもそも、勘がいいってどういうことですか?好きとか好きじゃないとか、なんで分かるんですか?」
ラウンジの横を通る。月緋さんは「中学の時一回だけ聞いたことあるんだけど、分かりやすい答えなんか返ってこなかった」と言いつつ、教えてくれた。
「誰が誰を大切に思っているか、分かるらしい。確信が持てるほどに。視覚的に判断できる、とかは教えてくれなかったけど。もしかしたら俺らと似た、能力かもってとこで、俺の中では着地してる」
エレベーターに乗り、今度は私がボタンを押す。
「太陽さんはそれで、なつめさんが誰のことも好きじゃないって言ったんですね」
顔と名前が一致していないって太陽さんは言っていたけど。ドアの隙間から見た人物がなつめさんだと分かったのは、私たちと同じ、見えるものだからなのかもしれない。私だって人の姿で判別ができなくても、頭上の時間で人を認識していた節がある。
「分かってたらもっと早く教えろって思うけど。狸坂の人らと話したときにも何かしら分かったことがあるはず」
勘って表現してるあたり、いつでも認知できるものじゃないのかもしれない。もしくは。
「違和感がなかったんじゃないですかね。好き嫌いの関係に」
月緋さんは「あるかも。みんなして狸坂深由のことばっかり気にしてそう」と納得していた。
突然電話の着信音が鳴る。鳴ったのは月緋さんの方のスマホだ。「松さんだ」と言うと電話に出た。エレベーターのドアが開き、部屋へ向かう。
『月緋くん?いやあありがとうメモ送ってくれて!』
どうやらメモの送信先は松さんだったようだ。興奮しているのかこの距離でも松さんの声が聞こえる。さすがに月緋さんも「ちょっと声でかい」と注意した。
それぞれカードキーで部屋を開ける。月緋さんは電話しっぱなしのようで、「でも又聞きだし。……え何それ」と会話する合間で「じゃ後で」とこちらに手の平だけ見せてきた。
何か新しい情報が入れば教えてくれるはずだ。私は約束の時間まで部屋に待機することにした。




