54.知ってた
その後、他に連絡はないということで、朝ごはんを食べ終えた人から解散することになった。
部屋に戻り、私たちはそれぞれの部屋で支度を済ませる。出かけられる状態にして、月緋さんと一緒に太陽さんをロビーまで送ることにした。葉賀さんたちはとっくに出かけてしまっている。ちなみになつめさんについては葉賀さんにだけ、午前中行く場所と一緒に説明をした。けど反応はよろしくなかった。
「残念ですけど、それだけじゃ我々は彼を監視することはできないです。二人は安全に気を付けて移動してください」
部屋の中で急いで準備する葉賀さんに申し訳ないとは思いながらも、私は気になっていることを訊いた。
「警察の捜査状況を教えてもらえることはできますか?」
葉賀さんは難しい顔をした。月緋さんは「ただの学生には教えられないってことすか」と不服そうに口をとがらせるけど、どうやらそうではないらしい。
「許可は下りてるんですけど、手がかりが本当に少ないんです。最後に被害者が映っている防犯カメラを確認しても、尾行している人は見つからないですし。犯人はこの地域に詳しいということしかつかめていないです」
「あと男性で一人」
昨日河川敷で話したことを月緋さんが付け加える。葉賀さんも「黒井守さんはその条件に当てはまっていますね」と言った。
「お二人の話だとスーツケースが運搬に使われたということですけど、それを参考に防犯カメラを調査するかもしれないくらいには、捜査は進んでないです」
それと、と葉賀さんはもう一つ付け加えた。
「別件ですけど、最近白タクがはやっていると聞きました。SNS上で募集の投稿をよく見かけるそうですが、運転免許を持つ京都の学生をターゲットにしているそうなので、太陽さんにも気を付けるように伝えてください」
それでは、と外へ向かう葉賀さんは、捜査の難航が響いているのか疲れているように見えた。
手ぶらの私と月緋さん、そしてスーツケースにリュックと大荷物な太陽さんは廊下を歩き、エレベーターへ向かう。
「事件解決したら教えてね」
寂しそうにする太陽さんに、「ニュースで確認しなよ」と冷たく対応する月緋さん。そんなことは気にせず、「泉璃ちゃんも」と太陽さんはこっちを向いた。
「ツキと別れたら教えてね」
「付き合ってないです」
「それなら付き合った方がいいよ。その感じで名前のない関係はよくないからねん」
「どの口が言ってんだよ」
月緋さんは呆れた顔を見せた。そういや誤解といてないな、と私たちは恋人でも何でもないことを説明するが、太陽さんは「二人で言うとかえって怪しくなるねー」と話し損なことを言ってくれた。
エレベーターの前に着き、月緋さんが下矢印のボタンを押す。私たち以外に誰も待っていないからか、沈黙が気まずく感じた。
京都に到着した時から思ってたけど、月緋さんが幼馴染みに対してローテンションなのはどうしてなのか。ちょっとずっと疑問に感じている。余計な話をよくするからかと思っていたけど、一時は仲良さそうに見えた。けど今は、また少し微妙な空気が流れている。
二人の頭上の時間に変化を与えないくらいの、些細なことだ。
太陽さんは何も思っていない様子なので、月緋さんが引き起こしていると思われる。
月緋さんは、静かに口を開いた。
「……太陽さ、お前犯人分かってるよな」
疑問でも押しつけでもなく、事実を確認するような言い方をした。私はつい隣に立つ月緋さんの顔を見て、それから前でエレベーターを待つ太陽さんに顔を向けた。
月緋さんはなつめさんの話をするときのような軽蔑の顔は見せなかった。むしろ当然というような、いつも話すような表情だった。太陽さんもまた、月緋さんの方を振り向き、その言葉を待っていたかのような笑顔を浮かべる。
「いつ気づいた!?」
エレベーターが到着する音を聞き、3人で乗り込む。都合のいいことにエレベーターの中にも他の宿泊者はいない。ボタンを操作して、月緋さんは続けた。
「泉璃がカードキーの話をした時。掏られたら危ないって言ってたけど、犯人が泉璃を狙うとは限んないじゃん。多分太陽はさ」
エレベーターが開く。タイミングが悪いのか月緋さんは黙った。太陽さんに続いて降りる。
二人してロビーでチェックアウトを済ませる太陽さんを後ろの方で見守る。
「犯人分かってるってどういうことですか?」
私は小声で月緋さんに訊く。今日は暑くなるという予報を参考にしてか、ノースリーブの服を着ている金髪は、幼馴染みじゃないと知らないような情報を教えてくれた。
「勘がすこぶるいいんだよ」
どういうことだろうと考えていると、無事チェックアウトを終えたようで太陽さんがやってきて、一緒にラウンジへ移動した。「土田さんいつ来るの?」という太陽さんの質問に、「あと30分くらい」と月緋さんは答える。太陽さんはスーツケースを引っ張り私たちの向かいに座った。
「じゃあちょっと話そ」
私は混乱しつつもただ二人を見守る。
月緋さんは「さっきの続きだけど」と話を戻した。
「見たんでしょ、ノックしてるの。一回目は太陽は忙しくて部屋戻れないはずだから、多分二回目の方」
「一回目があったんだ」
ほうほう、と太陽さんは相槌を打つ。ノックを見たというのは合っているらしい。
「逆にいつ気づいた?犯人が誰なのか」
「確信したのは泉璃ちゃんの部屋の前に見た時。報告書の休憩がてら夜散歩いこーって外出ようとしたらスーツケース持って泉璃ちゃんのとこにいて。だからドアから覗いてた」
大概そういうのってばれてると思う。今は口に出さない。
「でも怪しいって思ったのは会場で教授の代わりにあいさつした時。さっきも言ってたけど彼女いるらしいのに誰のことも好きじゃないからさ。お金目当てかと思ったけど」
話の流れ的に、太陽さんはなつめさんが犯人だと確信している。誰のことも好きじゃない、というのはすこぶるいいと言われる勘から分かるのだろうか。
「なんで言わなかったんだよ」
「違ったらやだなーって思って。顔と名前一致してなかったし。でもツキがそういう言い方をしたってことは、犯人なんだってなって今発表中」
両手を広げて発表アピールをする。「俺が聞かなかったらどうするつもりだった」とあくびをしながら月緋さんが言う。疑問を解消できてリラックスしているようだ。太陽さんは背負ってたリュックからくしゃっとしたメモを取り出す。
「これだけ渡すつもりだった」
月緋さんが受け取り、私は覗き見る。人の名前が10人ほど書かれていた。何これ、と隣は首をかしげるが、私はどう頭が働いたのか、一つの可能性を導き出す。
「もしかして白タクの」
向かいから「なんで知ってんの!?」と大きく驚かれる。
「葉賀さんから聞いてたんです。SNSで募集されてて、お金がほしい大学生がターゲットにされてるから、太陽さんに気を付けるようにって」
太陽さんは「俺巻き込まれると思われてたのーショック―」と大して悲しくもなさそうに椅子にもたれた。上を向いたまま話し続ける。
「メモに書いたのは実際に白タクした人。昨日サークル行って誘われたから乗るふりして誰がやってんのか教えてもらっちゃった。事件関係ないけどちょっと強引に言われて嫌んなったから売ってやろうと思って」
にひひ、と笑う太陽さんに私は驚く。こっわこの人。とにかく怖い。無害そうに見えて実は最も敵に回しちゃいけないタイプ。
こんな人と幼馴染みだったんだ、と若干引きながら月緋さんを見ると、眉を八の字にして笑っていた。
「相変わらず小賢しいよな」
これはありがとう、とメモをスマホカメラで撮っている。恐らく松さんか葉賀さんに送るのだろう。液晶画面に親指を滑らせている。
太陽さんの隠された一面に引いてる私に向けて、送信し終えた月緋さんは教えてくれた。
「こいつこういうとこあるから。限りなく自分軸で生きてるっていうか、身の回りの不利益候補に容赦ないというか。親切ができないからってのもあってあの数字」
基本の時間を見て納得する。この能力を知らない太陽さんは「ネガキャンしてる?」と冗談めかす。
「まあ俺生きるの上手いから」
自慢げに言う太陽さんに「それはちょっとうらやましいけど」と月緋さんは言った。さっきの微妙な雰囲気は感じない。
もしかしたら、太陽さんに隠し事をされるのが苦手なのかもしれない。どうせ最終的には分かるんだろうけど、月緋さんは察知力が高い割に話をさせたがる。
昔馴染み同士分かり合ってる、という感じに、私は少し寂しくなった。




