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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪
京都編

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53/60

53.三日目の朝

 翌日。分刻みに設定されたスマホのタイマーを何回か止める。ホテルのベッドは、いつもより寝付けないけど、起きたときはぐっすり寝ていたことを実感できる。夜更かしのせいか、いつもより重く感じる瞼をこすりながら布団の中で伸びる。体をねじり、ベッドの横に顔を向けた。


 隣のベッドで、月緋さんが寝ている。それもちょっと呼んだだけじゃ起きなさそうなレベルの寝息を静かに立てている。分類するならノンレム睡眠だ。


 掛け布団のすみっこが体にかかっているかどうか分からないほど寝相が悪い。そしてそんなことは今はどうでもいい。


 事態を把握し一気に目が覚めた。


 これは葉賀さんに怒られるやつだ。何もなくとも、同じ部屋で寝るのはまずいだろう。ただでさえなつめさんと太陽さん、前者はわざとだとして二人に誤解を招いている。今移動すればまだ間に合うはず。朝ごはんは昨日と同じ、ビュッフェの入口に集合する予定だ。


 私は月緋さんに近づこうとすると、トントントン、とノックがされた。まさかと思い、恐る恐る時刻を確認する。そして諦めた。


 スマホに設定しておいたアラームは何の意味があったのか、朝の集合時刻を5分ほど過ぎていた。




「じゃあ、本当に夜更かししただけなんだね?」


「そう言ってるでしょー松さーん」


 朝ごはんの席で向かい合う松さんと月緋さんは、さっきのことについてまだ話をしている。ドアを開けた葉賀さんが私たち二人を目撃し、月緋さんは直ちに叩き起こされ、二人して顔洗って着替えただけの状態で、出来立てのオムレツを持ってきたところだ。夜更かしの理由をちゃんと説明したおかげで珍しく葉賀さんから一応の理解を得られてはいるけど、松さんの方はそうもいかない。


 松さんの隣で食べている葉賀さんは「どうしてあなたたちはこんな紛らわしいことを」といつもの倍、呆れて言った。太陽さんはチェックアウトを控えているというのに寝坊したらしい。右隣に座る月緋さんの話など聞かず寝ぼけた状態でご飯を食べている。


「月緋くんに嫌な事されてない?」


 本人の前で聞くのもどうかと思うが、私は松さんの質問にしっかり首を振った。


「ほんとに何もないんですよ、七並べして遊んだくらいで」


「泉璃が寝ないとか言っといて寝たんで片づけて俺も寝て」


「そこが怪しい!」


 松さんはやたらそこに突っ込んでくる。話を聞いていると、どうやら昨日奥さんと話をしたらしい。妊娠中の奥さんは今里帰りしていて、とか性別はまだ聞いてなくて、とか月緋さんから聞いたような聞いてないような話を聞く。松さんは真面目に話しているようだけど、話し方のせいかただの親ばかに聞こえる。


「でね、僕思ったんだよ。もし僕に娘が生まれたらよく知らない人と旅行なんて行かせられないって」


 おととい葉賀さんから聞いたような話だ。「話逸れてない?」と覚醒してきた太陽さんは指摘し、月緋さんも「ほんと何もしてないんだって、歯磨きするよう起こしたくらい」と主張する。あれ現実だったんだ。よかった、と私は安心した。


 「息子はいいの?」「息子でも心配してやってよ」と男たちで話が進む。どうでもいいので誤解を解いている葉賀さんに何気なく話題を振った。


「葉賀さんたちって私と月緋さんのルームキー持ってますか?」


 葉賀さんは頷く。


 「元々二人用の部屋なのでカードも二つ用意されました。念のため糸端さんのを私が、佐野さんのを松が持っています」


 なるほど。だから昨日も今日も警察の二人はドアを開けられたのか。


「犯人に掏(す)られたら危ないね」


 松さんの話に飽きたのか、太陽さんがこっちに絡んでくる。月緋さんを間に挟んでいるというのにえらい地獄耳だ。挟まれてる金髪は思い出したかのように私の方を向く。


「泉璃寝た後部屋ノックされてたよ」


 なつめさんだろうか。そこまでされると恐怖を通り越して冷静になる。過ぎたことだし、人もいるからかもしれないけど。聞いてる3人は目線とジェスチャーで誰がノックしたのかを確認し合ってる。残念ながらここにはノックした張本人はいないようだ。やはりなつめさんかもしれない。


「焦ってるんですかね」


「そうなのかも」


 念のため辺りを見回すけど、なつめさんのような人影や数字、モヤは見当たらない。そもそも、仮にいたら月緋さんはもっと険しい顔をしているはず。「何か気になりますか?」という葉賀さんの質問に特にないと伝え、ご飯を食べ進める。


 それぞれご飯を食べ終え、学生3人がフルーツポンチを持ってきたころ、葉賀さんは今日の予定の決定版を発表してくれる。太陽さんはこの後チェックアウトしたら大学に行くらしい。


「教授の部屋に報告書と頂き物を置いてこなきゃ」


 そんなタスクがあるのによく観光しようって言えたものだ。ちなみに報告書は既に完成してるらしい。意外と仕事ができる人なのかもしれない。


 松さんと葉賀さんは昨日言ったように私たちとは完全に別行動だそうだ。特に補足することはないようで、私たちの話に移る。葉賀さんはデザートに持ってきたコーヒーゼリーをスプーンですくう。


「華里奈さんに会いたいということでしたが、午前は出かける予定があるとのことで午後2時に別荘に来るようにと伝言を預かっています」


「時間指定とか性格悪そうじゃね、行くのやめようよ」


「そういうわけにもいかないですよ。時間決める手間が省けてありがたいじゃないですか」


 月緋さんの推理通りなら、華里奈さんが被害に遭うのも時間の問題だ。本当はできるだけ早い時間に話したかったけど、仕方ない。


「じゃあ午前中は俺の調べたいとこに行きまーす」


 「ちなみにどこですか」と尋ねてくる葉賀さんに、「後で言いまーす」と月緋さんは説明を断った。話の流れでなつめさんのアトリエに行くと話してしまえば、太陽さんや松さんにも犯人を知らせてしまう。今は話さない方がいい。


「ところで、華里奈さんはどこにお出かけするか分かりますか?」


 話を変えようと私が話題を振ると、葉賀さんは気にせず答えてくれた。


「確か恋人と駅で待ち合わせると。土田さんからお聞きしました」


 恋人、というワードに私と月緋さんは動きを止める。こういうのは、月緋さんの方が繕うのがうまかったりする。


「……恋人って、黒井守なつめって人っすよね。昨日狗井華里奈から紹介された」


「参加者名簿にも記載されていましたね。松が二度接触してるはずです」


 突然名前を呼ばれた松さんは「よく覚えてますね」と驚いた視線を葉賀さんに向ける。


「一度目はドリンクを渡して、二度目はトイレの場所を聞かれたので口頭で案内しました」


 他の参加者にもたくさん対応していたのを思い出すと、松さんもなかなかの記憶力だと思う。二人とも田舎の警察署にいるのがもったいないような気もするが、異動されても困るので誉め言葉だけ口に出しておく。松さんは続けて話した。


「とても落ち着いていて柔らかい印象の人でしたよね。職業は粘土作家みたいな」


「人形作家と紹介されているのを聞きました。私も優しい雰囲気を感じましたね」


 どうやら警察から見たなつめさんの印象はいいらしい。周りの評価は普通そ(・)う(・)なんだろう。私たちも、能力がなければ疑うことすらしなかったに違いない。なつめさんはうまく誤魔化せている。私たちにとっては都合が悪い。


 午前中、華里奈さんとなつめさんは会う約束がある。なつめさんは殺人犯で、華里奈さんも標的にされる可能性がある。もし華里奈さんが午後の約束をなつめさんに話しても、焦っている彼は自分が犯人と知られる覚悟で華里奈さんを殺すかもしれない。午後に華里奈さんと会えなくなる、というのが最悪なパターンだ。


「二人で、デートですか?」


 人数知りたかっただけなんだけど、なんか訊き方がおかしくなっちゃった。左隣から「奇数でされても嫌だろ」と茶化される。もちろん葉賀さんは当然のように頷いた。しかしすぐに追加情報をくれた。


「そういえば、土田さんが深由さんの指示でボディーガードに尾行させるとか言っていましたよ」


 深由さんが?


 深由さんが華里奈さんの予定を把握していることにも違和感があるけど、尾行することの方が引っ掛かった。月緋さんは「ワンチャン狗井華里奈よりシスコンじゃね?」と声を潜める。ちなみに向かいには聞こえている。


 葉賀さんが「恋人がいるとはいえ、華里奈さんが被害者の特徴に当てはまるから心配なんでしょう」といかにもなことを言う。


 恋人が犯人という可能性をはやく伝えなければ。雑談をしながら私は義務感を感じていた。

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