51.明日に向けて
その後、私は仕事を終えた葉賀さんと合流してお風呂に向かった。昨日と同じように高級ホテルの力を全身に浴び、来た道を戻る。今夜も備えられた傘の出番はなかった。周囲に人がいないのを確認し、葉賀さんに訊く。
「パーティーに参加した方は帰られたんですか?」
「半数以上は京都府外に住んでいると聞いていますので、その方々は泊まっていると思います」
「なるほど」
そうなると、京都に住んでいないけど別荘を持つ華里奈さんは例外となる。そして、京都に修行に来ているというのにスーツケースを持っていたなつめさんもまた、例外だ。
夜は二人で会う予定はないのだろうか。華里奈さんがなつめさんとホテルに泊まるという線もなくはないけど、それならパーティーの前に別荘にいるのは少し変。
そもそも、なつめさんが事件の犯人だと知っているか。協力、はさすがに無いはず。頭上の時間を姉のことでいっぱいにできるはずがない。黙認、もないと願いたい。
恋人が自分と同世代の女性を殺していると知った時、華里奈さんはどうするだろう。あれほど好きでも、受け入れることはできない。覚悟を持たせる時間なんてないだろうし。ってあれ?
どうしてなつめさんは、華里奈さんを殺さないのか。条件はぴったりなのに。
「糸端さん?聞いてますか?」
「わ、すみませんもう一度お願いします」
考えすぎか。単純に、身近な人物を狙えば怪しまれるリスクが高まる、それが理由だろう。葉賀さんが話していたのに気が付かないくらい考え込んでいたようだ。申し訳ない。
葉賀さんは特に気にすることもない様子で、「今日は疲れましたよね」と、フォローしてくれた。
「明日の連絡をするので、このまま私の部屋に来てもらいますということだけ伝えておこうと」
「分かりました」
まっすぐ葉賀さんの部屋に行き、後から男性陣もやって来ると、そのまま業務連絡がされた。今日と同じように朝ごはんを食べた後、また別行動だそうだ。太陽さんは今日泊まった後、朝ごはんを食べてそのままチェックアウトらしい。
「太陽くんと観光とかはしなくていいの?」
松さんが月緋さんに尋ねた。普段こんなゆるい質問をしたら葉賀さんに締め上げられるだろう。葉賀さんが何も言わないあたり、警察の中で、内情を知る太陽さんは少しばかり疑われているらしい。そんなことは知らない太陽さんは「いいねどこ行く?」とはしゃいでいる。月緋さんは首を横に振った。
「しなくていいっす」
それは犯人ではない、ということも示していた。葉賀さんは意図を汲み取り、「それでは、明日以降は何かあれば恩田さんに連絡しますね」と柔らかい表情を太陽さんに向けた。太陽さんは寂しそうにしつつも、数字に変化はなかった。
「仕方ないよね」
月緋さんが京都に来た目的が自分ではないと分かっているけど、どうも遊びたかったらしい。口をとがらせている。
「またちゃんと遊びに行くからへこむな」
月緋さんは幼馴染みにぶっきらぼうな言葉を使うが、ちゃんと気にかけている。太陽さんは半分納得したように唇をぐるぐるさせた。今のところ、太陽さん以外でそれをしてる人は見たことがない。
葉賀さんは進行するため、話を続けた。
「私と松は引き続き府警と協力します。ちょっと目を離してしまいますけど、大丈夫ですよね?」
あまり信用されていないようだ。約束を守れる自信がない私たちが目を泳がせていると、太陽さんは提案があるらしく右手を勢いよく挙げた。
「土田さんが多分見ててくれると思うよ」
太陽さん曰く、重丸さんから必要に応じて面倒を見るように頼まれているらしい。
「なんでそこまでしてくれるんだろう」
松さんの呟きに月緋さんが低いテンションで答えた。
「警察が教えてくれない動向を探るためでしょ」
月緋さんの中で、狸坂家への信頼はそこそこないらしい。そんな言い方しない、と葉賀さんに睨みつけられる。
「とりあえず、明日は土田さんを頼りましょうか。佐野さんたちは明日確認したい場所などありますか?」
葉賀さんの質問に月緋さんが答える。
「車使うんですけどいいすか」
「土田さんにお願いしておきます」
私も、と小さく手を挙げた。
「華里奈さんにもう一度お会いしたいです」
月緋さんは疑問に思ったようでこちらを向いた。葉賀さんは「土田さんへの連絡に入れておきますね」と軽く流してくれた。
「何かあれば私か松まで電話してください」と言うと、それ以上の連絡はないようなので、私たちは軽く挨拶をして、ぞろぞろと部屋の外へ出る。
葉賀さんになつめさんのことを言おうか迷ったけど、今日はやめた。お風呂の間も事件の話はしていないし、仮に伝えたとして、その先の説明をする段階には至っていない。私たち以外から見れば、物腰柔らかそうなただのアーティストなのだ。また必要に応じようと思う。
太陽さんと松さんに挨拶をし、部屋に戻るのを見届けると、横で何か言いたげな顔をしていた月緋さんが口を開いた。周りに配慮してなのか、声は小さい。
「狗井華里奈に会うってどういうこと?」
私は通路で話すのも良くないと思い、月緋さんを部屋に招くことにした。既に寝るべき時間にはなっているのだけど、話しておかないと月緋さんの寝つきが悪いだろうと思った。




