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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪
京都編

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47/60

47.訪問と

    

 華里奈さんの彼氏は、困った顔を浮かべているようだ。


 糸端泉璃の部屋から、佐野月緋が出てきた。部屋を間違えたかと、なつめさんは一度首をひっこめる。その動作のせいでなつめさんの数字はよく見えないけど、お菓子のにおいがしそうなほど、周りの色は甘ったるかった。


「泉璃になんか用すか」


 冷たく対応する月緋さん。彼の服装でうまく誤解してくれたのか、なつめさんは無理に部屋に入ってこようとしない。位置的に月緋さんの顔はもちろんのこと、なつめさんの表情もよく分からない。


「いくつか作品を見せようと思って持ってきたんだけど」


 廊下にスーツケースを置いているらしい。ごろごろ、と音がする。


「部屋番号誰からきいた?」


「華里奈に訊いたよ。これ拾っちゃってさ。そのまま見つかったら縁起悪いかなって思って」


 そう言って何かを差し出す。月緋さんは嫌そうに受け取ると、なつめさんは「邪魔だったかな?」と首をかしげた。


「そう思うならそっとしといて」


 月緋さんは普段見せないほど冷たい。対してなつめさんは数字から出ているはずの色を広げていく。本来前向きな意味を持つはずの色に、なぜか嫌悪感を抱いた。


「狗井華里奈は?」


 月緋さんの質問に、なつめさんは困ったように笑った。


「まだ会場だよ。知ってるでしょう、僕は華里奈のお姉さんには勝てないんだ」


 あのシスコン具合は恋人にも認められているらしい。感心しているところで、「ともかく」となつめさんが話をつないだ。


「泉璃ちゃんに後で言っておいて。僕のアトリエに来てくれると嬉しいって。それじゃあ」


 ベッドのすぐ横までピンク色のモヤが届いたかと思えば、なつめさんは月緋さんの挨拶を待たずに、扉を閉めてしまった。閉まると同時にモヤも消えていく。月緋さんはしばらくドアに張り付き耳をすましていると、「よし」と頷いて戻ってくる。


「いたずら成功。お疲れ」


 なつめさんから受け取ったはずの何かをごみ箱に捨てた。それは後で確認するとして。


「感謝はしますけど形が最悪です」


「誰だってこういうとこには遭遇したくないでしょ」


 そりゃごもっともなんだけど。もっと他に方法はあったはずだ、と考えかけてやめた。


 きっとこれが最善だったんだろう。


「……最悪だけど、ありがとうございます」


 この能力がなければ気が付かなかったかもしれない。今が、私の生死の境だった。月緋さんが最も懸念していた出来事だった。あまりにもあっけなく、人生の重要な分岐点にしては些細なことだった。


 月緋さんのおかげで起こらなかった。方法はともかく。当の本人は安心しきっている。私が掛け布団をとって座ると、「よっしゃああ」と叫びながらその横にどかっと腰を下ろした。揺れて少し酔う。


 今、死んでたかもしれないんだ。


 人を恨んで刺したり仕返ししたりする悪意とは、まったく違うものに触れた。まるで、ぐちゃぐちゃに歪んだ好奇心のような。甘ったるいあの色は、人を傷つけることで本人が感じる、「喜び」の色。月緋さんの言動でしか察することしかできなかった。


 選択されなかった未来の自分を案じて、涙が出てくる。頬を伝って自覚してから、顔がぐしゃぐしゃになるまで時間はかからなかった。出会ったときから、月緋さんに助けてもらってばかりだ。


 気づかれないようにしていたのに、その努力もむなしく。「泉璃まじでー?」と顔を覗き込んでは頭をくしゃくしゃしてくる。


 「もうあっち戻んないよね」と自らアレンジをしたくらげヘアから、一個ずつ丁寧にヘアピンを取っていった。


「こういうのもう慣れたかと思った」


「……慣れる、わけ、ないじゃ、ないですか」


 私の悪態に、「そーだね」とだけ呟く。


 それからしばらくして、バーガーもやってきたし、私も落ち着いてきた。ほどいてもらった髪は、ヘアクリップで一つにまとめる。


 そして。



『なんで僕は呼ばれてるのかな』


「いやあれよ、三人寄れば文殊のあれってやつ」


『そこまで出てるなら諦めないでよ』


 ドレッサーの前には月緋さんのスマホ。私たちはベッドに座ってバーガーを食べている。スピーカーモードにして聞こえてくる声は。


「柚希先生」


『なんですか糸端さん』


 いつもよりくだけた口調の先生は、あれからだいぶ月緋さんと親交を深めているようだ。


「琴子の前で言ったこと忘れてませんから」


『アルコール入ってるときは学校の話禁止ね』


 時計を見てみると19時半を過ぎている。教師に夏休みはないと聞くが、いやないからこそなのか。学生にとって夏休みだとしても平日だ。お酒に強いのか分からないけど、既にだいぶ飲んでいるらしい。この時間から酔ってないとやってられない日もあるのだろうか。本人は『ところで』とこの場の最年長らしく進行まで務めてくれる。


『聞いてた話、連続行方不明事件の犯人が糸端さんの部屋に来たってことだけど。なんで分かったのかってのと、そもそも犯人がいるような事件なのかってのと、疑問点が多いわけで』


「それは俺が説明する」


 月緋さんは立ち上がるとスマホに手を伸ばした。さすがにベッドから遠かったらしい。手元に置いて、ついでにドレッサー上のジュースも取ってもらう。月緋さんは一度ジンジャーエールを飲むと、「まず」と話し始めた。


「行くところあるから泉璃に予定空けさせといて、って頼んだじゃん、柚希に」


 相槌を打つ柚希先生と、そんな曖昧な依頼を受けたのかと呆れる私。月緋さんは話し続ける。


「その予定が今回の事件の解決依頼で。かくかくしかじかで、犯人っぽい人と接触って感じ」


 説明を諦めたようだ。状況は簡単にさっき言ったし、繰り返すのが面倒になったんだろう。柚希先生は質問をしていく。


『じゃあ犯人が分かったわけじゃないんだ?っぽい人ってだけ?』


「絶対犯人。これは言える」


 能力のことを話すつもりはないらしい。そもそも話されるのもするのも好きじゃなさそうだしな。『えー』と聞こえてくるスマホに向かって二つ目の質問にも答える。


「行方不明者は腕とか顔が遺棄されてたって、昼くらいに話された。ニュースになってると思ってたけど」


 しばらくして『ほんとだ』と柚希先生は呟いた。どうやらニュースを見る習慣はないらしい。先生はニュースを見てもあまり納得がいってないようだ。


『けどこれ全員じゃないからさ。その子たちが示し合わせていなくなって、帰ろうとした人を他の人たちが殺しちゃったかもしれない』


 柚希先生の推測に私は反対するが、『僕もそうだとは思わないけどさ、部屋に来ただけで犯人を決めるのはちょっと早とちりだと思う』と、能力を知らない人が考える真っ当な意見を述べた。月緋さんは冷静に「理由はある」と言った。


「今パーティーに参加してきて陶芸家?みたいな男と会ってー、の流れは説明したじゃん?」


 スマホの向こうから確認の頷きがある。


「泉璃も正直犯人だって思ってないと思うのね、隠れてたし。だから完全に俺視点なんだけど」


 私に対しても前置きをする。月緋さんの反応だけを見てなつめさんを犯人と決めつけたわけではないけど、他の根拠はというとまだまとめられない。私は小さくうなずく。


 月緋さんはバーガーを一口かじった。このタイミングか?と思いつつ時間に隙間ができたので私も口に入れると、案の定先生に『え二人同じ部屋なの?』と変な誤解を生む時間を与えてしまった。月緋さんは飲み込んで、質問をスルーする。せめて否定してほしい。代わりに私が否定しておいた。


 炭酸を飲んだ月緋さんが説明しようと口を開いたその時、『ちょっと待って』と先生から声がした。布がこすれる音もする。


『バーガー届いたから取ってくる』


「なんで頼んでんの」


『いや食べてるって言ってたから。うらやましくなっちゃって』


 また遠くから『離席しますー』と是非も問わず取りに行ってしまった。開いた口からため息が出た月緋さんは、「もう切ろうかな」と画面を見て呟いた。

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