↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪
京都編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/60

46.パーティーにて その3

 深由さんと別れた後は、狸坂家のみなさんのところへ順番に挨拶に行き、ふきさんに連れられて主要な招待客にも挨拶まわりに行った。30人には挨拶した自信がある。重丸さんの友人、重虎さんの友人、仕事仲間、深由さんの友人。途中でなつめさん一行のところにも行き、月緋さんには改めて華里奈さんの恋人として紹介された。


「黒井守というのはアーティストとしての名前なんですね」


「下の名前は本名をそのまま使ってるけどね。なんて言うんだろう、師匠の一門?として活動するには苗字を揃える必要があるんだ」


 なつめさんとはそんな会話をしたような。なつめさんの師匠や兄弟子にあたる人にも挨拶をしたけど、名前も長いしあまり覚えていない。そもそも、初対面の大人の顔と名前を挨拶だけで認知するのには無理がある。


 地獄のような体験の後、ふきさんの目を盗んで二人で会場の外で休憩していた。ビジネススマイルを保っていた月緋さんは、今は缶コーヒーを片手に壁に寄りかかってしゃがんでいる。表情筋は充電切れのようだ。


「つっかれた」


「分かります」


「てか狸坂ふき(あのひと)、俺らのこと紹介するときおかしくなかった?」


「たしかに。『深由さんを慕う学生カップル』、でしたっけ」


「くそ意味わかんねえ」


 男女二人でいれば恋人、というのは安直過ぎないだろうか。現代、二人組がカップルだとか性別では決まらない。そもそも二人組がカップルとは限らない。


「あと、なんとなく予想はしてましたけど、こういうパーティーってあまり食べられませんね」


「俺ら移動ばっかしてたし。あとでデリバリーでもしよ」


 みんなお祝いがメインなんだろうか。会場を見たところ料理はちゃんとあったものの、みんなが立っていてところどころに立食用の丸いテーブルがあるようじゃ、ご飯目当てに参加はできなさそうだ。教授の代わりに、とかわいがられていた太陽さん以外、ばくばくと食べている人は見かけなかった。


 私もしゃがんで休憩をすると、月緋さんが近くに人がいないのを確認し、それでも小声で訊いてきた。


「黒井守なつめと会ったの?」


 パーティーより前に?という意味だろう。その場で聞けなかったのには、何か理由があるのだろうか。私は簡潔に説明する。


「月緋さんたちがお手洗いに行ってる間に。でも華里奈さんから紹介されただけで、二人で話したとかではないです。数字も0でピンクでしたし、華里奈さんのことばっかりのイメージです」


 月緋さんは「ピンク」と呟いたきり、黙ってしまった。疲れてるんだろう。


 名前と顔は全然覚えていないけど、他の人も数字と色は覚えている。ほとんどが今日か本当の深由さんの誕生日を祝っていた。涼しげな色をしている人には遠回しに訊いてみたら、実は仕事のミスを隠しているとか、会ったばかりの人にプロポーズをするとか、そんな話ばかりだった。色を見る限り、きっとばれるし失敗するんだろうけど、その場で予言者として活躍するつもりはなかった。


「挨拶終わりとかさっき言ってたよね?帰っていいかな」


「もうパーティーで食べること諦めてますね」


 月緋さんはスマホをいじっている。もうたのむ気しかないらしい。


「ハンバーガーとカレーどっちがいい」


「和なやつ食べないんですか。ハンバーガーで」


「飲み物どうする」


「抹茶系お願いします」


「シェイクがあるからそれで」


月緋さんは何度かスマホをタップすると、注文し終えたのかポケットに入れて立ち上がった。


「行こう」


「部屋戻るんですか」


 パーティーはこれから本番、というように会場の外からでも声が聞こえる。ちらっと聞いた話だと、誕生日ケーキをみんなで切って食べるんだとか。全員分あるのか疑問だけど、何人か帰っていても気にしなさそうだ。


「一応松さんに連絡入れとく」


 勝手にいなくなると怒られる、という失敗はもうしない。私も立ち上がり、月緋さんについていった。


 エレベーターに乗り、二人の空間で、私は質問する。


「会場全体の数字見て、変な人いましたか?」


 私の中では断トツで深由さん。皆がお祝いしてる分、当の本人の数字は正直浮いていた。


 ただ、月緋さんは「うーん」と生返事をしたっきりである。なにか考えることでもあるんだろうか。


「バーガー泉璃の部屋に届くからさ、俺行っていい?」


 突然何を言い出すかと思えば。正直、信頼はあるけれど、なんで私の部屋で注文したのかとか、謎が多い。月緋さんにとっては気まぐれにすぎないんだろうけど。


「バーガー奢ってください」


「じゃんけん勝ったらいいよ」


 そんな適当なことを言っている間に部屋に到着する。今更、ふきさんが探していないだろうかと考えたけど、良くも悪くも探すような人柄ではないと安心する。


 カードキーをかざし、月緋さんを部屋に通す。窓際の椅子に座るよう促すと、月緋さんはジャケットを脱いでドレッサーの前の椅子にかけた。そのまま窓際へと移動する。缶コーヒーを机に置くと、椅子に座ってスマートフォンをいじる。私はベッドに腰かけると、月緋さんを観察した。メッセージのやり取りでもしているようで、指は入力に忙しい。静かな時間が耐えられないわけじゃないけど、なんとなく気まずい感じから抜け出したかった私は、彼に話しかけた。右手は握っておく。


「さいしょは」


「やっぱ奢る」


 まただ。また変な月緋さん。こっちの気が狂うから、正直やめてほしい。


「何か隠してるなら言ってください」


 まさか、と思い当たることは特にない。しいて言えば、この状態は昼というより、行きの新幹線のようで……。


「まさか」


 口に出しかけたところで、ノックが3回、部屋に響いた。もうハンバーガーが到着したのかと立ち上がろうとすると、月緋さんが小声で「待って」と制止する。目線を見るに、そ(・)う(・)なんだろう。私は意図を汲もうとする。けど、予想だにしないことを言ってきた。


「布団被って、顔出さないようにして」


 再びノックがされる。声はかけてこない。


 月緋さんが代わりに立ち上がり、鏡で全身をチェックしたかと思えば、おもむろにシャツを着崩し始めた。まるで今急いで着たかのように。私は指示に従いつつ戸惑う。


「……なにしてんですか」


 月緋さんはこっちを向くと、質問には答えないでベルトに手をかけた。


「ベルトあった方がいい?」


 あるべきでしょ。汲める意図が見つからない。


 顔に出てたのか、月緋さんは注意事項だけを言ってくる。


「泉璃は隠れてて。声も出しちゃだめ。相手をどれだけ気まずくさせるかが大事だから」


「誰か分かってるんですか?」


 月緋さんが目を見開くと同時に、三度目のノックが響く。


「ええ分かんないの?」


「いやそろそろ出ないと。バーガーだったらどうするんですか」


 月緋さんの視線から、私(・)が危険にさらされていることは確かだ。けどそれを行う相手は、もしかしたらバーガーを届けてくれてるかもしれないデリバリー店員かも。それはないと、月緋さんは即座に否定する。


「んなわけないじゃん。知らん人に品のないいたずらするわけじゃないから」


「じゃあ誰に品のないいたずらを」


「色見てよ」


 少し大きな声で言い合いに発展しそうになるも、四度目のノックが止めてくれる。こんなにも声をかけてこない感じ、ちょっと怖い。


「今は俺の言うとおりにして」


 小声で言うと、月緋さんはドアにまっすぐ進んでいく。私があわてて掛け布団をかぶると、ドアノブに手をかけた。


「……いらっしゃい」


 クローゼットについている鏡の反射を利用して、私は布団の中からドアの外を覗く。そして目を見開いた。声が出そうになるのを両手で抑える。


「……泉璃ちゃんの部屋だと思ったんだけど」


 新緑のスーツ。戸惑いを交えた、優しい声。


 黒井守なつめが、そこにいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。