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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪


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41/44

41.トラブル

 衣装選びを終え、私たちは再び合流していた。


「泉璃結局何にしたの?」


 タイミングが合わず、私が選んだ衣装を月緋さんは知らない。小声で話す月緋さんに合わせて、私も声を潜めた。


「月緋さんと似た感じですよ」


 「俺と?」と首をかしげる月緋さんに鋭い視線が突き刺さる。葉賀さんだ。月緋さんは何事もなかったかのように背筋を伸ばす。そもそも、今そんな話をするべきじゃない。


 控室の出入り口で、狐里グループの社長に警察の二人が並んで挨拶をしている。その後ろで大人しくしているのが私たち。


 挨拶するだけやし、と自ら立ち上がってドアを開けてくれたのに、かれこれ10分は話している。勘一郎さんは、事件で私たちが来たことそっちのけで観光地には行ったか、とか、お土産にはこれがいい、とか、他愛ないことを話題に挙げていた。葉賀さんたちも困惑しているのか、申し訳なさそうに話の腰を折った。


「お話はとても興味深いのですが、我々、挨拶に参っただけでして……」


 勘一郎さんはぽかんと、細い目を丸くして、「そら知ってんで」と当たり前のように言ってのけた。


「なんでいらっしゃったのかも。まあ、今夜は楽しんどくれやすな。はたから見てゲストに見えるようにするのも、大切なこっとす。」


 月緋さんは「さすがっすね」となれなれしく話しかけて、私たちの肝を冷やしてくれる。勘一郎さんは若者と話が合うらしく、「そういやあんた赤引いた?」「俺水色っす」と衣装の話を始めた。また雑談が始まるのかと思ったとき、続けて勘一郎さんは思いがけないことを言った。


「華里奈ちゃん以外に赤が出るのは運やからな」


 まただ、カリナ。深由さんの妹さんで、今回私がパーティーに出席する理由となってくれる人。


「すみません、カリナさんに挨拶がしたいのですが」


 私も一歩前に出てお願いしてみると、勘一郎さんは親切に答えてくれた。


「華里奈やったら今別荘にいんで。こっちに来るのんは5時やらなんとちがうかね」


 別荘。疑っていたわけではないけど、ガチガチにお嬢様のようだ。私は愛想笑いをするしかなかった。


 そのあと、勘一郎さんの息子夫婦が勘一郎さんの元を訪れ、私たちもついでに挨拶をした。まだお昼を過ぎてから少ししか経っていないはずだけど、着々と招待客はホテルに到着しているらしい。隣の控室にも人が入っていく。軽く会釈を交わし、勘一郎さんの忠告通りゲストに見えるよう世間話に努めていると、遠くから焦ったようにやって来るスタッフが目に入った。


「すみません、糸端様、少しよろしいでしょうか」


 先ほど衣装選びに付き添ってくれたスタッフとは別の衣装スタッフが、息を切らしながら私に話しかける。私にだけ用があるのか、月緋さんには見向きもしていない。当の本人は世間話をやめて私の肩をたたいた。


「ついてこっか?」


「大丈夫です。一人で行きます」


 今日の月緋さんはずっと過保護に思える。このくらい、一人でも平気なはずなのに。しかし、私の考え方はここでは少数派のようで、葉賀さんが頷くと、松さんが「一応僕ついていきますよ」と名乗り出た。保護者にも言われてしまえば仕方がない。私はありがたく同行してもらうことにした。


 スタッフは急いでいるようで、歩くには速いスピードだった。私は小走りになりながら追いかけ、松さんと一緒にエレベーターへ向かう。


 奥の方の廊下で、ピンク色の霧のようなものが見える。私以外の二人が反応しないことから、能力によるものらしい。あれほど嬉しがっているということは、深由さんの誕生日を祝いたい気持ちが強いのだろう。ますます、パーティーを前倒ししてもらったことを申し訳なく思ってしまう。誰から発せられるものか気になったけど、順路上ではない。宴会場で見つけよう、と私の好奇心をなだめる。


 幸い、エレベーターホールには誰もおらず、スムーズに乗ることができた。


「私だけなんですか?」


 エレベーターの中で一応訊いてみる。スタッフは頷いた。


「私は糸端様に付き添っていませんので詳しいことは分かりかねますが。メモを預かっているので間違いないと思います」


「誰から預かりましたか?」


 気になったのか松さんが質問する。


「上司からです。糸端様のお名前が書かれた付箋と共に、慌てて渡されました」


 当の本人は外せない仕事があるらしい。ということでやってきたそうだ。


 スタッフに連れてこられたのは私の部屋の前。レンタルした衣装は、パーティーが終了するまで各自の部屋で保管しておくことになっている。きっと特例だろう。私が、確か財布に入れたはずのカードキーを探していると、スタッフはポケットからメモを取り出すと申し訳なさそうに早口で話し始めた。


「申し訳ありません。そちらの衣装なんですが、別のスタッフによると本来こちらで保管しておくものではなくて、お店からレンタルしていたものでして。誠に申し訳ありませんがもう一度得選びなおしていただきたく」


 松さんは残念そうに「仕方ないね」と呟く。カードキーを見つけ出した私は「分かりました」とドアを開けようとすると、スタッフが信じられないことを言った。


「本当に申し訳ありません、せっかくの赤い衣装でしたのに」


 赤?もしかして、伝達ミスなんじゃ。


「私がお借りした衣装は水色ですよ」


 私は部屋の中からさっきハンガーにかけたばかりの衣装を持ってくる。スタッフは驚きのあまり「じゃあ誰?」と仕事を忘れている。


「赤を引いたのは誰だか覚えていませんか?」


 私が確認してみるが、このスタッフはさっきお店では見かけていない。事務作業かなんかで奥に引っ込んでいたのだろう。くじの詳細を知るわけがない。当然のように首を横に振る。


「あの、華里奈さんはどうでしょうか?」


 松さんは言った。そういえば、さっき勘一郎さんがそれっぽいことを言っていたような。松さんは意外と記憶力がいい。スタッフも納得したようで、今度は首を縦に振った。


「おそらくそうかもしれません。我々のミスでしたのに、お手数おかけしました」


 スタッフは何度も頭を下げて、あわただしく去ってしまった。松さんも「僕たちも戻ろっか」とゆっくり歩き出す。私は再びカードキーをタッチして鍵をかけると、松さんを追いかけた。


 深由さんを心から祝う人は大勢いる。さっきは廊下の奥に見えた喜びを表すピンクが、すぐ近くにも漂っていた。

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