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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪


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36.思ってるより信頼

 髪を乾かし終えて、話すにふさわしい場所を探しに葉賀さんと脱衣所を出る。もちろん、服は着ている。


「ばったり」


 出たところで月緋さんに会う。言ったのは月緋さんだ。月緋さんは「うっす」と葉賀さんに軽く挨拶した。


「泉璃もうあがったの?」


「そうです。月緋さんは?」


「俺はこれから」


 どうやら一人で来たらしい。荷物を入れたトートバッグを肩にかけている。葉賀さんはもう行ってしまったようで見当たらない。今しかないと思い、さっきのことを手短に月緋さんに伝える。月緋さんは顎に手を当てて最後まで話を聞いてくれる。


「つまり、だいぶ核心に迫られてるってことね」


 なんで犯人みたいなこと言うんだ。悪いことをしてるみたいじゃんか。面倒くさいので拾わないことにする。


「この際、葉賀さんには能力の話をした方がいいんじゃないかって思うんですけど」


 月緋さんに提案すると、うーんと考えたあと、一度軽く頷いた。


「任せる」


「考えること辞めましたね」


 冷ややかな目線を向けてあげようとすると、まともそうな顔をしてまともなことを言った。


「俺は話すつもりなかったし、これからもない。泉璃は好きにしたらいいと思う」


「でも私たちについて疑問に思ってるんですよ。私だけ超能力が〜とか言えるわけないじゃないですか」


「いいじゃん。能力の開示ッつっていっそのことキャラ作っちゃえば」


「やっぱり考えること辞めてますよね?」


 月緋さんは右目がうずくぜっつってふざけている。相談しない方がよかったんじゃないか。月緋さんの横をすりぬけ葉賀さんのところへ向かおうとすると、月緋さんに腕でふさがれた。なにすんだ、と見上げると、月緋さんは小声であることをつぶやいた。


「……なんですかそれ」


「これ言っとけばまず怒られない。次に呆れられる」


「だめじゃないですか」


「代わりに時間のこと言わなくて済むよ。それに、俺らは万能じゃない。犯人に出会わないで解決するのは多分できない。能力に期待を持たせないためにも、そう言っとけば?」


 そう言うと月緋さんは腕をどけてそのまま行ってしまった。「ま頑張ってー」と気だるげな声が聞こえたけど受け取るだけにしておく。


 さてどうしようか。私は考えつつ、葉賀さんを追いかけた。



 結局、事件を話すのにふさわしい場所は見つからず、葉賀さんの部屋で話すことになった。私は途中で見つけた自販機で買ったジュースを飲む。葉賀さんに促されて椅子に座った。葉賀さんは自分のベッドに腰かけ、「ではさっきの続きを」と話を戻した。


 葉賀さんは何を求めているんだろう。こんな大事件に巻き込まれたのは、月緋さんの人脈があってこそだし、今まで犯人を捕まえられたのは、証拠不十分でも私が運悪く遭遇してしまったからだ。そして、犯人が分かったのは、能力のおかげ。今回は十分な証拠が必要だし、前提として私か月緋さんが犯人を見る必要がある。今までの解決のプロセスは、私たちを信用するほどのものじゃない。


 とりあえず、ふざけた先人の助言に従ってみることにする。


「まず、今までのことですけど……」


 真剣に見つめてうなずいてくれる葉賀さんにはちょっと申し訳ない。


「『ノックスの十戒に抵触する』、というか……」


「誰の入れ知恵かは分かりました」


 葉賀さんは絶対怒っている。にこやかだからいつもより怒ってる。怒る相手が私じゃないだけだ。


「でも本当にそうなんです。葉賀さんに話すと決めたのは私ですし、月緋さんはそこまで悪くないです」


 ついさっきネットで調べただけだけど。ノックスの十戒って、ミステリ小説の禁止事項とか、当時提唱されたルールみたいな感じらしい。詳しくは知らないけど、私たちにあたるのはその能力の部分。葉賀さんには通じたっぽい。そんな小説の世界を現実に引っ張ってくるなんて怒るのは当たり前だし、月緋さんどういう思考回路してるんだろう。葉賀さんはちゃんとため息をついて呆れている。多分怒られるのは月緋さんだろうから、あの人の予想は大体正解。


「……それで。今回はどうやって解決するんですか?」


 待って待って。こんなに納得いかないことないはずなのに、葉賀さんは次の質問に移ろうとした。つい私から深追いしてしまう。


「訊かないんですか?何をはぐらかしているのかとか私言った方がいいですよね?」


 私が確認すると、葉賀さんは「それはそうだけど」と頬に顔をあてた。


「糸端さんだけの問題なら、そんなふざけたことをあなた自身が言うはずないです。あなたが佐野くんの言うとおりにしたのなら、それはお互いが必要なものをもっているからではないかと思っただけです。佐野くんが言いたくないことなら聞かなくていいですよ」


 いつになく優しい葉賀さんにちょっと驚いてしまう。でもそれは別として月緋さんのことは後で叱るつもりらしい。


「話を戻しますけど。今回の件は解決する算段はついているんですか?」


「……ついてないです」


 今回どころじゃない。いつも偶然を積み重ねて解決できている。もはや能力なんていらないくらい。それは葉賀さんも分かっていて、「学校の件は偶然でしたよね」と思い出していた。しばらく考えていた葉賀さんは、何を思いついたのか鋭い視線を向けてきた。


「もしかして、推理したことないですか?」


 それは違、くない、のかも。私たちがしていることは能力による発見と地道な情報収集。そしてそれを無に帰す目撃。たしかに推理してない。


 それじゃあ「探偵」としてここに来てるのってだいぶまずい状況なんじゃ。考えが先行して言葉に出てこない。十戒とか言ってる場合じゃない。私たち、推理してない。


 もう信じてもらえなくても能力のこと言うべきだろう。でも数字とか時間とか言ってもややこしいんじゃないだろうか。焦った私はへたくそな質問をした。


「すみません。ふざけたこと言っていいですか?」


「推理してないんですね」


「それはそうなんですけど」


 本来は流しちゃいけない話題だけど今だけ、お願い葉賀さん。とりあえず、今から言うことを信じなくていいことは落ち着いて伝えておく。怪訝な顔をするけど一応葉賀さんは頷いてくれる。


「私と月緋さん、犯人を見たら分かる、というか」


 葉賀さんは眉間にしわを寄せている。怖い。「それがノックスの十戒に抵触する部分ですか?」と冷静に質問してくれてるだけでありがたい。私は一生懸命首を縦に振る。


「なので犯人は初期段階で分かります。けどそれが理由にはならないので、証拠を集めようとしているときに鉢合わせしちゃう、みたいなー」


 私の能力で見えるのが時間でよかった。今の感情とかだったら大変なことになってる。葉賀さんの時間は何も変わっていない。色も。だからこそ顔とのギャップが怖い。葉賀さんは眉間に親指をあててぐるぐると伸ばしている。ため息は、ついた。


「こんなふざけた理由で京都まで来たんですか。連続殺人事件ですよ?」


 ゲームでもお話でもないんだから、と続けるけど、ちゃんと私も叱られたことに、なぜか安心感を覚えた。なにより、私が言っていることがふざけている、とは言っていない。葉賀さんは、私が言ったことを信じてくれている。


「……見たら分かるってこと、疑わないんですか?」


「あなたはそんなことを冗談で言わないでしょう」


 葉賀さんは真顔で答える。ただ言ったことを鵜呑みにしていないこともしっかり教えてくれる。


「もちろんあり得ないとは思っていますよ。でも入れ知恵なくあなたがそう言うなら、とも思います。ずっと変だとは思っていましたし。根拠のない自信と、頼りない感じが常に感じられて」


 根拠のない自信、と言われて脳がチクリと痛む。その通り過ぎる。


「確かに根拠はないことがほとんどです。でも話を聞いて関わっていく責任は、ずっと持っています」


 私がそう目を合わせて言うと、葉賀さんは困った顔をした。


 新幹線と、列車での会話を思い出す。葉賀さんは私が心配なんだ、多分。本当は、能力がなくたって解決できる事件で、私や月緋さんを巻き込まなくたって、時間や人を犠牲にすれば解決できるもので。それを一般人の正義感が無視できないってだけで。それだけで、こんなところにまで来ちゃって。


 表現がずれてるかもしれないけど、私は恵まれている。そう思った。


 葉賀さんは「分かりました」とだけ言うと、立ち上がってドアを開けてくれた。


「頼りにする、なんて言えませんけど、佐野くんと一緒に『探偵』を全うしてください」


 私は返事をする。お礼も言って、部屋から出ると「少し」と呼び止められた。


「絶対無事でいること。あと、ややこしくなるのであなたたちが見れば犯人が分かることについては他には黙っておきます。糸端さんも話さないように」


 改めて返事をすると、おやすみなさい、と言って葉賀さんは扉を閉めた。


 はあ、言っちゃった。まさかこんなにも真面目に話を聞いてもらえるとは。


 私は部屋に戻り、月緋さんに言うまで時間を潰すことにした。

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