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超能力JKと探偵専門学生  作者: 紫雪


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35/44

35.裸の付き合いってやつ

 私たち5人は葉賀さんの部屋で明日のことについて確認する。般若の角は松さんがなだめながら折ってくれたっぽい。今は怒っていない。


 ごはんを終えたら後は明日の朝まで自由行動。7時までに起きよう、ということで夜更かしは厳禁。明日の予定としては、事件に関わる現場に行ったり、パーティーの前に狐里家の方に挨拶をしたり。もっと前に挨拶するべきなんだろうけど、タイミングがそこしかないらしい。太陽さんはサークルに行くことになった。太陽さんは残念そうにしてるけど、警察の二人にも言われたらそうするしかない。ちなみに、パーティーは私と月緋さんがカリナさんの友人として、松さんと葉賀さんはウェイター、ウェイトレスとして潜入することになった。


「俺らは現場行く必要あるんすか」


 月緋さんが小さく手を挙げる。それは私も思った。私たちは圧倒的な推理力を持っていない。超能力で見える「願いが叶うまでの時間」から犯人を特定、そこから裏づけられる証拠を集めていく。集めきれずに、犯行現場を私が目撃、月緋さんが救出兼確保、が2分の2の確率で起こっている。現場に時間が残ってる訳でもないし、見てみたところで役にも立たないだろう。けれども葉賀さんは頷く。


「あります。必要なところに許可は取っていますし、何しろ狸坂家からのお願いです。身内からの推薦とはいえ、二人はここでは『探偵』なんです。人の話だけ聞いて解決できると思っているんですか?」


 身内、のところで太陽さんが背筋を伸ばした。そういえば月緋さんのところまで話が回ってきたのはこの人が原因だった。いっそ能力のことを言ってみる方がいいのか、と月緋さんを見ると、そのつもりは無さそうだ。


「そっすね。がんばります」


 言いたいことの添削を繰り返しすぎたような返事に「ほんとに分かってんのか?」と葉賀さんがわずかに怪しんだが、松さんの「まあ明日から気合い入れていきましょ!」という声のお陰で不穏な空気は断ち切られた。松さん、今回だいぶいい役回りをしている。


 松さんのおかげなのか、修学旅行の班長会議みたいな確認はすんなり終わった。


「糸端さん」


 男3人が部屋から出ていく時、葉賀さんに呼び止められた。私にだけ用があるらしい。月緋さんが残ろうか提案してくれたが断った。私にだけ、というのは何か事情があるのだろう。今回の事件に関わることに1番反対していた人だし、私たちが探偵としてここにいることにも違和感を持ってるに違いない。それは正直私もだけど。


「なんですか?」


「大浴場、行きませんか?」


「なっつっ、え?」


  思ってもいなかった提案に、疑問とか拍子抜けとかツッコミがごっちゃまぜになって1回舌がつまづいた。


 なんで?




 狐里グループの旅館、ホテルには大浴場がある。敷地内にあるものの、宿泊する場所からちょっと歩いた場所にある。外を歩くので出入口には雨が降ったとき用の傘が置いてあった。秋なら紅葉が楽しめるらしい露天風呂やサウナもついた、だいぶ本格的なものだそう。混雑時より少し早い時間だからか、予想していたよりも人はいなかった。先に体を洗っていた葉賀さんがチャプンと肩まで浸かり、私も遅れて全身を洗い、お湯に浸かる。床はごつごつした岩の上を歩くようでちょっと面白い。


「よく見つけましたね、大浴場」


 壁におっかかりつつ、明日も入ろう、とうきうきする。葉賀さんは「夕食の時に偶然地図を見たんです」と自分の肩にお湯をかけた。


 ところで、なんでお風呂に誘ったんだろうか。私、リラックスしてるように見えるけど裸の付き合いなんてしたことが無い。中学の修学旅行もドライヤーの取り合いが嫌で部屋風呂にしたし、もっと遡ればあるのかもしれないけど、友達と大浴場って経験が記憶にはない。詩保と行ったゴールデンウィークの旅行も大浴場が無かったので順番に部屋風呂だった。うじうじ考えつつ、こういう時の話の切り出し方は裸の付き合いの次にしたことが無い。何がしたいんですか?は怒ってるように聞こえるし、話したいことがあるんですか?も話の内容次第ですぐ上がりましょうになってしまう。


「糸端さん」


 話を切り出したのは、葉賀さんの方だった。


「ご家族は?」


「えーと、母と父と、姉が一人います」


 なんだろう。あ、もっと仲良くなりたかった的な?他愛ない話題だし。正直葉賀さんのこと怖いけど、私も仲良くなれたらとは思っていたし。


「ご家族には、今回のこと正直に話していますか?」


 前言撤回。これ仲良しのためじゃない。あったまってるはずなのに冷や汗を感じる。


「……嘘はついてないですけど、全部は言ってないです……」


 ちゃんと弁解もしておく。日程、行き先、メンツ、どうして知り合ったのかは伝えてあること。ただ探偵紛いなことをしているとは言ってないこと。親切に月緋さんが親に挨拶に来てくれたこと。葉賀さんに疑われたので付き合っていないことはしっかり否定しておく。


 そこまで伝えて、私はかいているのか分からない冷や汗を肩にかけたお湯で流した。葉賀さんは静かに頷いて、ゆっくり口を開いた。


「……私には、夫と社会人の息子が一人います」


 それがどうした、なんて思わない。親目線で考えてみろ、ということなんだろう。


「自分の詳しく知らない人たちと、遠くへ行って、無事に帰ってこれることがどれだけ重要か。事件はとっくに全国ニュースになっています。親御さんの気持ちを考えて、過ごしてくださいね」


 月緋さんと食べ物で争ったときの説教とはずっと優しかった。訊いてみると、息子さんも親の知らない人たちと旅行した時、連絡がつかなくなったことがあったらしい。スマホの充電切れが原因だったそうだけど、心配性の旦那さんは仕事を休んだそうだ。


 私は「気をつけます」と頷くと、葉賀さんは微笑んだ。


「私からの()()はそれだけです」


 忠告、のところだけ強く言った。言い方的に、これは本題じゃないのか?


「……忠告以外だと、何がありますかね」


「質問です」


 質問?なんの?でもこれ以上話していると良くない気がする。初めて使うであろう野生の勘が鳥肌を立てて教えてくれる。目が合い、私がゆっくり頷くと、葉賀さんが静かに口にした。


「あなたたちは、どうやって事件を解決していたんですか?そして」


 目が逸らせない。逸らしたら石化してしまうような、葉賀さんが逆メドゥーサかもしれないと動揺しすぎた野生の勘が教えてくれる。もちろん外れているのは分かっているんだけど、私は目を逸らさないことで冗談半分で来た訳ではないと証明し続ける必要があった。


「今回どうやって事件を解決するつもりですか?」


 能力について話さなくてはならない、なんて機会は人生になかった。だからこういう時、どう答えるべきか分からない。正直に言うべき?けど信じてもらえる訳ないし。そもそも「あなたたち」って言ってるし私が能力の話をするとじゃあ月緋さんは?ってなるよねきっと。


 頭をフル回転するのに何秒かかっただろうか。葉賀さんにも冷静に考える時間があったらしい。


 葉賀さんは真剣な目つきから急に吹き出し、右手を口元に当てて静かに笑っている。はじめて見る笑顔に私はびっくりして、いい感じの言い訳を思いついたはずなのにすっかり忘れてしまった。「どうしました?」と声をかけると、葉賀さんはツボにはまったのか、笑ったまま答えてくれた。


「服着てから話した方が良さそうですね、ふふ」


 今の状況を考えて、真面目な話をするにはなるほどおかしい。私もつられて笑ってしまった。葉賀さんは怖くないこと、私に裸の付き合いなんてのは向いてないことを心に留めて、服を着てから話すことになった。

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